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稲穂対ごぢら 4


 AT(アンチタンク)ライフル、対戦車ライフルとも、対物ライフルとも呼ばれる超長距離の狙撃用のライフルを稲穂は軽々と構え、本来はバイポッドや土嚢で銃身を安定させて、反動の耐えるように射手は腹ばいになって撃つようなもの、ごぢらに向けて狙撃。

 これは稲穂が常人を遥かに超越した能力を有しているからできる芸当であった。

 海上に上半身を出しているごぢらに大口径の弾丸が命中。

 狙撃とはいたったが、東南アジアでの仕事のような精密なものが求められているわけではなかった。

 人はもちろんのこと、クジラよりも大きな巨体である。

 それでも数キロも離れた地点からの狙撃、しかも大きいはいえ動いている物体、さらにいうと海上で強い風が吹いている。生半可の腕では当てることは困難。

 そんな状況下であるにもかかわらず、稲穂は意図した場所へと見事に命中させた。

 これは稲穂の肉体の技術もさることながら、両耳のピアスモゲタンのスポッターのおかげであった。脳内で彼が細かい指示を出し、それに従い銃身を微調整しながら息を一瞬停めてトリガーに軽く指を当て、引く。

 50口径の弾丸の威力は凄まじいものである。

 もとは戦車の装甲を貫くために開発、発展していった兵器。

 例え当たらなかったとしても、その弾丸の衝撃は射線上にいる人や物体を破壊するような代物。

 そんな物体が命中したというのに、ごぢらはまるで蚊にでも刺されたかのように、全く気にすることなく原発へと向けて進行中。

 そんなごぢらに稲穂は続けざまに二射目、三射目、四射目と、計十発の弾丸を叩きこむ。

 本来この手の狙撃用の得物は、連続発射には向いていない。大量の火薬を燃焼させて弾丸を射出する故に、撃つと銃身が熱を帯びて、ほんのわずかではあるが歪みが生じて、それによって狙いがずれてしまう。しかしスポッター役であるモゲタンは非常に優秀であった、その歪みも計算に入れて稲穂に指示を。

 全弾ごぢらの巨体に命中。

 しかし、その進行速度は全然遅くならない、むしろ速くなっていた。

「分かっちゃいたけど、やめてくれよな」

 全く効果がないことへの愚痴のようなものがつい出てしまう。

〈だが、これは想定内だろ〉

 持ってはきたがもしかしたら、いやおそらくこの対物ライフルはごぢらには全然効果がないのではという予想はしていた。

「それはそうだけどさ、せっかく借りてきたんだから少しくらい効いてくれてもいいような気が」

 お得意様の日本国内にあるとある基地から貸与してきたもの。

〈まあ効かなかったのは仕方がないが、それでも計画通りだ〉

「ああ。……どうせだったらハイマースを借りてきたほうが良かったか?」

 アメリカ陸軍、海兵隊の自走多連装ロケット砲。

〈それは無理だろう。あれは本土にはないし、原発付近での運用を許可するはずもない〉

「まあ、それもそうだな」

 モゲタンが制御系統に介入すれば誤射の危険性がないどころか、百発百中でごぢらに命中させることが可能。しかしながらモゲタンの存在は一握りの人間のみの最重要秘匿。社の重要な取引先であってもそのことは絶対に厳禁であった。

〈それよりも次の作戦に移行するぞ〉

「了解」

 まだ銃身の熱い対物ライフルを足元に置き、稲穂は他の持ってきた荷物を抱え、再び空間を跳躍。 


「しかしこうして間近で見ると、本当にゴジラにそっくりだな」

 これまでごぢらの描写はしてこなかったが、ゴジラとよく似た姿形をしていた。違う点を挙げるとするならば大きさくらい。ゴジラは初代の身長が役50メートルくらいで、その後シリーズが進むごとに、建築物の高さに合わせて大きくなっていき、平成シリーズでは三桁台の大きさに。それに比べてごぢらは初代の半分よりもやや大きい、それでも現在地球上にいる生物としては破格の大きさなのだが、本物? に比べると小柄であった。

 このことを稲穂は言及。

〈あの大きさを維持するのは水中ならともかく陸上では難しいだろう〉

「それよりも、分析はできたのか?」

〈ああ、アレがデータであるという特定ができた。後、懸念していたことだが、アレが、ごぢらが放射性物質をエネルギーにしていることも確認できた〉

「……そうか……なら、気を付けないとな」

 放射性物質をエネルギーにしているのなら、破壊した時に周囲を汚染してしまう危険性がある。

〈それについてだが、気にする必要はないぞ〉

「どういうことだ?」

〈分析、解析の結果だが、アレの中は現在放射線量は低い数値を示している。これから推論するにごぢらの体内にはもうエネルギーはなく、枯渇状態であるはず〉

 大口径の弾丸を数発ごぢらにむけて射出したのは、それ自体を破壊したいという思惑ももちろんあったのだが、それ以上に弾にモゲタンをコピーしたナノマシンを付着させ、ごぢらの体内へと潜り込ませ分析、解析するという目的があった。

「ということは、今アイツの目の前には栄養たっぷりの御馳走があるというわけだな」

 浜岡原発まで数キロの位置にごぢらは迫っている。

〈そうだ〉

「なら、そのご馳走にありつけないようにしないとな」

 そんなやり取りをしている間に稲穂の身体は海へ向けて落下中。

 これは稲穂には空を飛ぶ能力が備わっていないからであった。

 しかし、飛ぶことはできなくとも跳ぶことはできる。

 足元に円盤状の盾を幾層にも重ね、それを足場にして跳びあがる。

 今度は円盤状の盾を縦に展開し、一気にごぢらとの距離を詰める。

 ごぢらは稲穂を敵とみなしたのか、巨大な尻尾が水面から躍り出て襲い掛かる。

 その巨大な尻尾を目掛け、持ってきた荷物の二つ目、ミサイルランチャーともバズーカーとも呼ばれるものを撃ち込む。

 これは借り物ではなく、警備会社の秘密の備品。

 先程のライフルよりも強力。しかしながら、その射程距離は比べ物にならないくらい短く、したがって陸からはごぢらには届かない。ついでに言うと命中精度もあまり良くない。だから、稲穂はこうして自ら接近したわけである。

 巨大な筒から放たれた成形炸薬弾、ロケット弾はごぢらの巨大な尻尾に命中。

 一発放つと後は無用の長物となる筒を稲穂は空間転移させる。

 直撃したのにもかかわらず、ごぢらの尻尾は速度質量ともに落ちることなく、稲穂を襲おうとした。

 稲穂は自身の眼前に円盤状の盾を何層にも重ねて展開。

 強大な質量を防ぐ。

 が、弾き飛ばされてしまう。

 稲穂の小さな身体、これはごぢらと対比してだが、吹き飛ばされてしまうわけだが、彼女自体にはダメージはなかった。

 展開した盾が衝撃の大半を吸収してくれた。

そして残りの吸収しきれなかった力を利用して、その反動でわざと後方へ、ごぢらとの距離をとった。

 飛ばされながら稲穂は二発目のロケット弾の準備を。

 完了したところで稲穂は空間を跳躍。

 転移先は、ごぢらの目と鼻の先、触れることができるような近距離、至近距離に。

 二発目をロケット弾をごぢらの左目に。

 ゼロ距離射撃。

 尚、余談ではあるが、ここで使用したゼロ距離射撃という言葉は本来誤りであるらしい。大砲を発射するとき距離を出すための砲に角度をつける。長距離ならば、その数字が大きくなり、逆に近距離ならば小さくなる。至近距離ならば砲の仰角をつけずに水平状態で、つまり0度での発射でこれをゼロ距離射撃というらしいが、この話では至近距離での攻撃をこう表現したほうがかっこいいのであえてこうすることに。

 尻尾への攻撃はノーダメージのようだったが、今度のゼロ距離射撃でむき出しの目を。

 効果があった。

 片目を潰されごぢらは痛みとも怒りともとれるような咆哮をあげる。

 大きく開け広げられた口へと稲穂は三発目のロケット弾を。

「あれの代わりにこれでも食って満足してろ」

 ロケット弾はごぢらの体内へと。

 それを見届け、稲穂は空間を転移。

 ほんの数秒前まで稲穂がいた場所にごぢらの開け広げられたままの口が。鋭い歯を持つ上顎と下顎が、上下から稲穂へと、鈍い音を立てながら閉じる。

 つまり食べられそうなったところを回避。

〈通常兵器は効かなさそうなだ。やはり、変身する必要がありそうだな〉

「……やっぱりか……せっかく借りてきたのにな……」

 稲穂はちょっとだけ嫌そうな声を。

 自身の戦闘力を用いなくとも、通常兵器でごぢらを破壊できるかもという淡い期待のようなものを少しだけ抱いていたのだが、これまでのことでそれが甘い考えであることを思い知らされた。

〈何がそんなに嫌なんだ? 今回のために麻実が新しいデザインを起こしてくれたのだろ〉

「まあそうだけど。なんというか……それが嫌というわけじゃないんだけど……昔のことをちょっと思い出して憂鬱なというか……」

〈キミの中に上手く言葉にできないような複雑な気持ちがあることは理解した。しかしながら、その感情について考察している間にもごぢらは原発に向けて進行中だ。キミが相応しい言葉を見つけ出す前にごぢらが食事を終えてしまうぞ。そうなったら、そんな感情は意味のないものになってしまうぞ〉

「……そうだな。やらない後悔よりも、やった後悔のほうがマシだよな」

 稲穂は覚悟を決める。

 が、その前にモゲタンが、

〈覚悟を決めたところで申し訳ないが、その前に補給をしておいたほうが良いぞ。今のままだと変身後すぐにエネルギー切れを起こしてしまう、ごぢらと戦うどころではない〉

 これまでの空間転移でカロリーをかなり消費していた。

「ああ、そうだな」

 稲穂は背負っていったバックパックから補給食を数種類取り出し、口の中へと一気に全部押し込む。

 そして、まだ口の中に補給食がる状態で、

「ムーンライトパワー、スタートアップ」

 まだ口中いっぱいに補給食があるというのに、元役者の面目躍如か、はっきりとした活舌で変身のための台詞を言い、そしてニチアサの少女アニメのような変身ポーズを、恥ずかしさを押し殺して、可愛らしさの微塵もないような格段の切れで演じた。



火器を明言していないのはわざとです。


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