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史上最小の作戦 顛末記

フィクションです。


 日本海海上、及び上空での秘密作戦は最上といっても過言ではないような成果をあげることができたのだが、実はまだあれで終わりではなかった。

 史上最小の作戦というやや大げさとも取れるようなサブタイトルがついているのには理由があり、そしてそれはこの後に続く小規模の行動が大きな効果を、極東地域の安全保障に大きく寄与し、関与したからであった。

 時系列的にはこの話は、まだ先の話であるが、それでも語りたいと思う。

 稲穂のことは極一部の関係者のみが知り得る、最大級ともいうべき秘匿事項であった。

 だが、存在は秘匿ではあるがその行動結果までもが抹消されるということはない。

 歴とした事実である。

 日本と米軍はもちろんのこと、かの国、北の大国や半島国家にとっても。

 情報は伏せられてはいるが、人の噂に扉は立てられない、ではないが完全に秘密にすることは不可能である。かの国の戦闘機を追い返した謎の存在、稲穂のこと、を探ろうと事情を知らない国が躍起に。

 特にかの国と北の大国が。

 最初はパイロットのミス。システムのエラー。パイロットの誤報告、証言の疑義があるとされてあまり大きな問題にはなっていなかった。

 しかし月が替わり、類似するような事例が数回あり、それを探るべく調査目的での上空侵犯を。

 いつも以上の回数を。

 そのうちの何回かは航空自衛隊ではなく稲穂が対応した。

 実里の一件が解決したのだから、稲穂がする必要はないはずなのだが、これには事情が。それはその後の複数回のスクランブル発進が当初より組み込まれていた作戦であったからだった。

 日本という国家は大東亜戦争、所謂太平洋戦争以降の七十年以上表向きは軍というものが存在しない国家であった。敗戦によって軍は解体され、二度と戦争ができない国へと作り直されてしまった、平和憲法という足枷をされて。しかしながら、平和を謡い、戦争をしないと宣言したところで、絶対に実現できるという甘いものではない。争いというのは、双方ともに戦う意思がなくとも起きうるものである、片方にその意思があればいつでも戦の火蓋は切って落とされる。そんな中で日本は朝鮮戦争を機に警察予備隊が発足し、それが自衛隊へと発展したが、建前、憲法上は軍という組織ではない。英語でいうとセルフディフェンスフォースで力=軍であるのだがそうではないことに。認められずに、また予算も人員も不足すような状況が続く中でも、在日米軍との協力関係を密にし、それによって国内左派勢力から非難されても、国民の安全な暮らしのために日々尽力を。しかし足りない尽くしの組織である、ありとあらゆる箇所に綻びが。そんな中での近隣国の領海、領空侵犯。それに加えて昨今何かと多い災害出動。このままでは何れ瓦解してしまうのは火を見るよりも明らかな状況であるにもかかわらず、国内では憲法改正も、予算の大幅の上昇も、平和を乱す行いとして絶対にしてはいけないという風潮、論調が跋扈しているお花畑の思考が蔓延していた。こんな事態を打破すべく稲穂がひそかに助力を。

 しかしながら、結果的には領空侵犯が増えたのだから、それは逆効果なのではと思われるかもしれないが、これは計算の内であった。

 ある程度増えるというのは想定内であり、前述しているように自衛隊機のスクランブル発進ではなく、日本海側の自衛隊基地へと出張していた稲穂が何度かその対応を。

 出撃のたびに、同じ手段を使用、つまりナノマシンを使用してのハッキング、ではなく出るたびに異なる方法で。

 時には機体に身体ごと取り付いたり、空間転移でコックピット内に侵入したり、円盤状の盾をいくつも展開させて立体的な軌道で戦闘機を追い込んだりと、多種多様なやり方で。

 何時しか稲穂のことは、かの国及び北の大国では「鬼」「魔女」と呼ばれていた。神出鬼没で、正体どころか手の内すらまるで読めない存在。

 また稲穂が自衛隊の戦闘機に代わって出るということは、スクランブル発進で神経を摩耗させているパイロットの負担軽減にもなり、部品の損耗率も防げ、さらに言うと出撃後に行われる整備の負担、これは人員、部品、予算、が減ることに。

 手を出すことを諦めようという考えが両国内で出始め、領空侵犯の回数がやや減り始めた頃、稲穂とモゲタンは次の一手を。

 正確に記すと一手でなく二手であったのだが、まあそれはいいとして具体的に何を行ったかというと、かの国の第五世代型の戦闘機に取り付き機体構造から武装、ソフトウェアにいたるまで全ての情報を抜き取り米軍に提供。そしてもう一つの北の大国の爆撃機をハッキングし、コントロール機能を完全に掌握し奪い、青森の三沢基地まで曳航。古い機体ではあるが、それを米軍へと引き渡す。

 このインパクトは強大であった。

 自分たちが正体を探ろうとしている存在が、自分たちの手には完全に負えないような強力な相手であることを見せつけられることに。

 頻度が増していた上空侵犯という名のちょっかいがなくなる。

 が、完全になくなったわけではなかった。時折、スレスレの地点を飛行する機体は見られたし、またかの国から打診された半島国の弾道ミサイル実験が。

 これにも一度だけではあるが稲穂が対応した。

 軍事衛星で弾道ミサイル発射の兆候をつかんだ米軍は、偶々岩国基地を訪れていた稲穂をヘリに乗せて日本海を飛行、機体の限界高度まで上昇。これはミサイル実験の観測を行うという任務のためという一応も名目はあるのだが、実際の目的は稲穂の輸送。

 ヘリの中から、パイロット用の耐Gスーツを改良したものを着用した稲穂は空間跳躍を。マッハ20近くで上昇を続けるミサイルに取り付くと荒業を。二段目の燃焼を終了し、切り離し、一段目に点火というところで稲穂が介在、この動作を物理的に邪魔した。空中でミサイルは爆発を。

 これは警告であった。

 これだけの力量差があるのなら、防衛に当たるだけではなく、反対に打って出たほうが得策なのではと多くの人が考えるであろう。が、稲穂はそれを決して行おうとはしなかった。これは日本国国民として三十年近く生きているから、他国への侵略は絶対悪でありは、けして行わないという教育が完全に根付いてしまっていたせいである、というわけではなく要はバランスなのだということを理解していたからであった。平和というのはお題目を唱えるだけでなされるものではなく均衡が保たれているからで、それが崩れることによって戦争が起きるということは数多の歴史が物語っている。それを稲穂は知っていたし、そして学んでいた。

 もし仮に、稲穂が自信の持てる能力を後先何も考えずにフルパワーで使用したのであれば、ちょっかいをかけてくる国全部は流石に無理だとしても、その中枢、ある意味独裁政治の中心人物を、その周辺の人間諸共に破壊、つまりこの世から抹殺することも可能であった。しかしそれは大変な危険な行為であった。正体が露見することはまずないと思うが、万が一にでも知られてしまったら、それが切欠で日本は責められる大義名分を相手に渡すことになる。それに加えて、一人を片付けた、またはその団体を葬りさったところで次の存在が出現する。世の中は御伽噺ではない、政権が倒れたら全てが上手くいくなんてことはまずない、市民革命として名高いフランス革命も王政が倒れた後もずっとゴタゴタが続き、アラブの春と呼ばれたつい最近の中東アフリカ情勢も、上が変わっただけという顛末。つまり次の新しいものが出てくる、そしてその存在が平和的な思考の持ち主であるならば問題はないのだが、敵を取るではないがより強固な好戦的な政府になる危険性を多分に孕んでいるし、そしておそらく国民の意思もそちらへと傾倒することは十分に予想されるし、もっと危険な不能な事態に陥ってしまうかもしれない。

 そして力は必ず行使しないといけないというわけではない、それを匂わせるだけでも十二分に効果的なのだ。

 そのことを観念的に理解しており、またモゲタンからも教わり、だからこそ余計な声が聞こえてきたとしても、それに流されることなく稲穂は短慮な行動は控えた。

 バランスを重視、動向を注視しながら、極一部の関係者以外には絶対に知られないようにし、陰から日本の平和と安全に、それから極東地域の安定に大きく寄与していた。



もう一度言います、フィクションです。

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