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Secret Base その2

短めの天丼回。


「でもさ実里、Rさんのことはいいの?」

 まるでこの雰囲気に水を差すかのように、突然麻実が実里へと問いかける。

 Rとは桂達の会社の人間で、警備部の所属しているアメリカ籍の青年。彼は同僚のSと共に先日実里護衛の任に当たり、襲い掛かってきたかの国の人間と対峙した。

 護衛の任務を完遂することができず、実里の身柄を奪取されてしまい、自身も深手を負うという失態を侵してしまった。

 しかしそのことを実里は責めることはなかった。

 むしろ自分のせいで入院するようなはめになったことを逆に詫びるくらいであった。

「なんでRさんのことが出てくるんだ?」

「だってさ、お見舞いに行ったときなんか良い雰囲気だったから」

 帰京した翌日、実里は東京の病院に入院したRを麻実と一緒に見舞っていた。

「何、その話。もっと詳しく」

 他人のコイバナは面白いということで桂がものすごく興味を示す反応を。

「稲穂の秘密のことを話してくれるんじゃないのか?」

「それは……まあ、話すけど。そんな話題が出てきたんだから、その前に聞いておきたいと思ってさ」

「そうそう、実里言ってたじゃん。守ってもらえるのもまんざら悪くないって」

「まあ、確かに言ったな。普段はそんなこと意識なんかしていないが、自分も女なのだなということを自覚した。彼が私のために戦ってくれている姿を後ろで見ていて、非常時なのに少々ときめいてしまったことはまあ事実だ」

「だったら、そのまま靡いちゃえばいいのに」

「あの時はそんな風に感じたが、しかし冷静になって考えてみればこういうのはマディソン郡橋効果というかやつだろ」

「……はい?」

「……実里、何それ?」

「えっ、知らないのか二人共。危険な状況で男女が一緒の空間にいると心臓の鼓動が早くなって恋愛と錯覚するというのを」

「それはマディソン郡じゃなくて吊り橋だよ」

 呆れたような口調で麻実が。

「マディソン郡の橋でもまあある意味あっているような気もするけど、でも実里それは間違いよ」

 それに続いて今度は桂が訂正を。

 実里が間違ってしまったマディソン郡の橋。これはアメリカで発行された小説で世界的なベストセラーに。後にクリント・イーストウッドの手によって映画化されこちらも大ヒットを。そしてもちろん日本でも。

 読んだことも、観たこともない作品であるが実里がその名を知っており、また勘違いしたのは、幼いころによくCMで目にしていたことと、そして作品内容が恋愛、それも俗な言い方をすれば不倫映画であって、それが彼女の脳内で変な形で記憶されており、間違った言葉して出てきた。

 桂と麻実、二人から説明を受け、実里は、

「そうか、間違って覚えてしまっていたのか。……まあ、それはちょっと恥ずかしいが別にいいとして、さっきも言ったように危ない状況で一緒にいたから錯覚しただけのことだ。それにあの後で稲穂に助けられてもっとドキドキした、ときめいた、これまで以上に稲穂のことが好きになった」

 と、実里は断言し、続けて、

「だから稲穂のことは全て知りたい。そう思うのは駄目なのか」

「まあ、好きになった人のことを知りたいと思う欲求は当然かもしれないからね」

「……それじゃあ、稲葉くん話してもいい?」

「まただ。また稲穂じゃない呼び方だ」

「それはまあ許可を得てから説明するから」

「正直言ったら、実里さんには私達とは違う普通の生活を送って貰いたいと思っていたけど。でも、これだけ想ってくれていて、そして知りたいと思ってくれているのなら」

「まあまあ、シロ。そんなに重たく深刻そうに言わなくてもさ。もしあれを全部聞いて、実里が聞かなければよかったと後悔したら、その時は記憶を消してしまえばいいじゃん。それでまた知りたくなったら教えて、そんで離れたくなったらまた記憶を消しちゃう」

「記憶を消す。そんなこと……どうやらできるみたいだな」

 はじめは驚き、それから実里は稲穂と桂の表情からそれが実現可能であることを察する。

「うん、できるのよね?」

「ああ、でもモゲタンが言うにはあまり行わないほうがいいって」

 数回程度ならば脳に特に影響はないのだが、使用頻度が高くなればなるほど、脳に負担が、最悪障害を及ぼすような可能性も。

「モゲタン? 何だ、それは?」

「まあ、それも今から説明するから。でも、もう一度いい。このことを知ってしまったら私達は実里のことをずっと拘束、束縛するようなことになるかもしれない。今は稲穂ちゃんのことが好きかもしれないけど、この先別の人のことが好きになっても。普通の恋愛はもうできないかもしれない、それでもいいの?」

 桂が何度目か分からない念押しを。

「構わない。私は稲穂のことが知りたいんだ」




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