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史上最小の作戦 その7


「それって米軍の登場?」

 観劇中に贔屓の役者の登場を待ってましたとばかりに喜色満面で麻実が訊く。

「うん、まあ麻実さんが言うようにアメリカ軍が来たのは間違いないんだけど、でもこれは本当に想定外だったんだよな」

 当時のことを思い出しながら。

「どういうことだ? さっき稲穂は米軍関係にも連絡を入れていたと言っていただろ。それに上陸してからの脱出の際に米軍と合流すると言っていたはずだ。想定外というのはどういうことなんだ?」

 と、実里が冷静に質問を。

「うーん……簡単に説明すると、日本領海及びEEZ内では自衛隊、防衛相が監視の任務に当たる役割になっていて、その外、つまり日本国の外、国権の及ばない外へと出たところで米軍とバトンタッチをする予定になっていた。それなのに予想外の事態、つまりレーダー照射を自衛隊機が受けた、それもそれを発信したのは米国とは軍事同盟関係にある国の艦船から。日本とその国とは直接的な同盟関係ではないけど、米国とは安全保障でしっかりと結びつきがある。つまり、米軍にとって仲間の国が仲間の国へと攻撃の意思を示したことになる。だから急遽作戦を変更して米軍が出動したんだ」

 当初の予定を大きく変更することに。これは米軍の独自の判断であった。レーダー照射を受けた自衛隊機は現場で独自の判断をせずに上層部に判断を仰ぎ、指示を受け、その場から離脱。このことは作戦を共に行う米軍にも即座に伝わることに。日本としては秘匿の作戦であった故に、このレーダー照射の件はある段階まで上がってきたのだが高度な政治的判断で秘匿することに、尚これが数年後二国間の大きな問題の布石となるのだがここではまだ語らないでおく。しかし、アメリカとしては敵対国と同盟国が何やら怪しい動きを共にしているというのは由々しき問題である。

 是が非でも現場を押さえ、事態を正確に把握する必要があった。

「その作戦変更ってオスプレイの発進を早めたこと?」

 ネット上で調べている間に幾度もオスプレイの文字を目にしていた。

 ちなみに、Ⅴ-22オスプレイとは垂直離着陸機であり、両翼のプロペラを可動させることによって固定翼機とヘリコプターの両方の性能を併せ持った機体である。通常のヘリよりも速い速度、航続距離を実現している。

「違うよ」

「でもさ、迎えに来てもらう予定だったんだよね」

「うん、そうだけど」

「それってネットでも一部話題になっていた岩国のオスプレイのことじゃないの?」

「ああ、そういうことか。麻実さん、それは誤解だよ」

 微妙に話が食い合っていないことが氷解。

「どういうこと?」

「レーダー照射した国にも米軍基地はあるから。そっちのほうが近いから、そこから国境ギリギリに飛ばしてもらって、合流して、それから米軍機で横田に帰ってくるのが当初のプランだったんだ」

 事も無げに言うが、実際にそれを行うことは、それも単独でするのはかなりの困難なことである、訓練を受けた屈強の兵士でもかなり難しいことであった。だが、成瀬稲穂という肉体は異能の能力を有しているだけではなく、モゲタンという頼もしい相棒もいて、それを行うことが十分に可能であった。

「じゃあ、オスプレイはガセネタなのか?」

「ううん、岩国を飛びたったのは事実だよ。事態を重くみたからオスプレイに海兵隊を乗せて飛ばしたから」

「だとしたら、そのオスプレイが現場へと急行して、なにやらいかがわしいことをしている船へと近づいて、その乗っている兵隊で制圧して、そして稲穂を乗せて帰って来たのか」

 実里が自身の見立てを。

「ちょっと待った、実里。それだとさ、ネットで見た情報、岩国からホーネットが出撃したというのはどうなるのよ」

「うーん……確かそんなことも書いてあったな。だったらこういうのはどうだ。それはよくあるようなガセネタだった。実際に飛んだのはオスプレイだけだったんだが、そこに色々と色んなものが足されていってしまった。そもそも、ネットなんていうのは、それも掲示板なんていうものはどこの馬の骨が書いているのか分からないような代物だしな、ちょっと目立ちたいというような心境で、誤った情報をワザと書き込むような人間もいるだろう」

「たしかにネットの世界は混合玉石……ってこれで合っているんだっけ?」

 四文字熟語を口にしたが、普段使わないような言葉なのでこれであっているのかどうか途中で不安になり、最後は疑問形に。

「うん、合ってるわよ」

 元国語教師はお墨付きを。

「嘘が多くて、それを見抜けないようじゃ生きていけないようなことをある人も言ってたけどさ、でもこの情報は軍事関係の板と地方板のところから引っ張ってきたものだよ」

「しかし麻実、私の記憶だと、といってもちょっとボーとしていてあやふやだが、その後で否定されていなかったか」

「あっ、たしかに。日本には電子戦用のF‐18はないっていう書き込みあった」

「だろ」

 当事者を差し置いて麻実と実里は侃侃諤諤。

「うーん、でもさわりと信憑性がありそうなきもするんだけどな……で、シロ。本当はどうだったの?」

 この問いに稲穂はすぐに答えなかった。

 しばし宙を見上げるように、頭上の虚空を見つめるような仕草をし、そして徐に口を開き一言。

「岩国から戦闘機が出撃したのは事実。……だけど、詳しいことは言えないんだよな」

「それは稲穂もそこまでの情報はないということか?」

 実里が質問を。

「……いや、知っている。それは私だけじゃなくて桂さんも。……でも、そのことは重要機密だから。外部には出せないんだよ」

 先程のもわずかな沈黙は脳内でモゲタンと相談していたからであった。

 協議内容はもちろん機密の公開についてで、関係者とはいえこれを公開しても問題ないか、と。

「ええー、でもささっきまでは色々と話してくれたじゃん」

「麻実ちゃん」

 少し窘めるような口調で桂が言う。

「いいよ、別に。……もしかしたらこの先、多分数年先のことになると思うけど今回のことが世間に公表されて表に出るかもしれない。でも、それは私が見た、体験したことと違う内容の歴史が開示されるはず」

 よく誤解されることだが、歴史=真実ではない。こう書くと過去のこと、見た人が誰もいないのだから好き勝手に創作していいと勘違いされてしまうだろうから、簡単に説明すると、歴史という学問は、過去の事象を文章から推察し、そして事実へと近付いていく学問である。

 アメリカの高官によって作成中の、まだ作成途中の段である今回の件での公文書は、稲穂が体験した内容とは大きく異なるものに。

「でもさ、知りたいなー」

「えっと……じゃあ、問題ない範囲でなら。米軍の戦闘機が日本海に飛来したのは事実、そしてそれが要因になって軍艦は撤退し、あの国の船は沈んだ。そして私はオスプレイに騎乗して帰ってきた。二人に話せるのはこれ位までかな」


会話劇は一旦終了、次話は説明回。

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