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カーアクション 1.5

カーアクション1.5ですけどカーアクション2から先にお読みください。


 後部座席には秦実里が座っていたはずなのに、何故実里ではなく成瀬稲穂が出てきたのか?

 それについて説明しておきたい。

 スポーツカーとのカーチェイスを予想以上の成果で制したクラウンは意気揚々と街中へ。

 そこで稲穂から新しい指令を受けて、大型駐車場のあるショッピングセンターへ。食料品売り場で色んな店のお弁当とお惣菜を四人分以上買い込み、再発進。そして最寄り駅へと。

 その駅で稲穂と合流。

 駅で合流したのだから稲穂は電車でここまで来たと考えてしまうだろうが、それは大きな間違いである。

 見た目は二十歳前後のショートカット美人であるが中身は三十路の男。これだけでも十分に変なのだが、それ以上に常人離れした運動能力を有しており、さらには空間を跳躍して長距離を僅かの時間で移動するという能力が。

 その能力をフル活用して、自身の用事を途中で切り上げて、実里のもとへと駆け付けた。

 都内にいるはずなのに急遽駆け付けた稲穂を、その能力を知らない三人はやや不思議に感じたのだが、この上司なら少々の不可能は可能にしてしまうと部下二人は思い、それから実里は稲穂ならばそれ位のことをしても当たり前かもしれないという謎の信頼感、それよりも危険を知って駆け付けてくれたことのほうが嬉しいという感情が勝り、どうしてこんなに早く来ることができたのかという疑問を呈することはなかった。

 JRで切符を二人分購入。

 鉄道を利用して実里を無事送り届けるというのが今後のプラン。

 しかし購入したのは二人分だけ。現在計四名。残る二人は?

 これが稲穂の立てた作戦であった。自分が実里の代わりに車、クラウンへと乗り込み、また追いかけてくる、襲撃してくると思われる連中と対峙する。

 これにRは疑問を。連中の車はスピンさせ、走行不能にまで追い込んだ。追いかけてきたとしても無事に逃げ切ることができるのでは、と。この問いに稲穂は英語で、絶対に来ると断言し、その理由について先程までのカーチェイスの間に追跡用の発信機がクラウンに付けられてしまっていたことを告げ、それからその物を指さす。

 自分達が気が付かなかったことを指摘され、最初はSが食い下がったのだが、現物を見せられ渋々納得し、反省。

 このミスについて稲穂が二人を咎めるようなことはなかった、失敗だと断罪するような、叱責するようなこともしなかった。というのも、稲穂自身もついさっきそれの存在に気付いた、というよりも脳内でモゲタンからおかしな電波が発信されているという報告を受けたからである。そこで脳内で作戦会議を開き、これを利用する作戦を、先程告げたものを思い付く。

 ということで、Rが実里の護衛として一緒に電車へと乗り込み、その出発を確認してから稲穂はSの運転する車で囮役を。

 後部座席で稲穂はさっき買っておいてもらったお弁当を。

 ここまでの移動で空間転移を連続して行った。これは時間を大幅に短縮できるというメリットがあるがその一方で酷くエネルギー効率が悪いというデメリットも。だからこそエネルギー補充、カロリー補給の必要性が。当初は移動した分だけを補えばいいと考えていた稲穂であったが、この後起こることが想定されている戦闘のために備えておかなくては。だからこそ、大量に購入してもらっていたお弁当とお惣菜を一人で、当初は色んな店のものを皆で分けて食べる予定だったのだが、黙々と。

 黙々と書いたが、食事をするためだけに口を動かし全く声を発しなかったというわけではない。

 運転中のSは前から何かと稲穂に南部訛りの英語で話しかけていた。

 訛りの強い英語であったが稲穂には聞き取れていた。これはかつて伊庭美月であった頃、南部出身の米国人と短い時間だが一緒に暮らしたことがあったから。といっても完全に聞き取れ言っている内容すべてを完璧に理解できたというわけには流石にいかず、両耳のピアスモゲタンのサポートを脳内で受けながら。

 内容は、息が詰まりそうだから向こうのほうが良かったとか、そんなに厄介な連中なのかとか、お弁当の味を訊ねたりとか、それに稲穂は適当に答えた。こう書くと、如何にも面倒くさそうに対応したと思われるかもしれないがそんなことは全くなく、適当というのはいいかげんという意味ではなく、上手く当て嵌まるや相応しいというのが本来の意味。食べることを、エネルギー補充を優先しながら質問に相応しい短い言葉で返していた。

 食べる、その合間に訊かれたことを答える、そんなサイクルが。

 それが突然崩れた。

 稲穂が短い一言を。

 この言葉は小さい音であったがSの耳に。入ったのはいいが理解できなかった、といっても日本語で発したわけではなく英語で、にもかかわらずSは分からなかった、がすぐに理解を。それは言葉としてではなく現象として。目の前に何かが飛来して落下、四散。「Flying box」とはこれのことか、それよりもどうしてこの女はこれが飛んでくることに気が付いたんだ、とか思いながらブレーキを踏み込んでハンドルを切り回避。

 飛来してきたのはパチンコの筐体であったが、それを米国人であるSに告げたところで日本独特の遊戯であるパチンコを知っているかもしれないが咄嗟に理解できるとは思えずに、稲穂は敢えて「box」と。

 それはさておき、パチンコ台の飛来は一台だけではなく、そこにさらにそれを運搬していたトラックの襲来が。

 敵の攻撃をSはたくみなドライビングテクニックで避ける。

 稲穂はまだ後部座席でお弁当を食べている。食べながら短くSに指令を。

 その指令は、逃げろでも、対抗せよでもなく、車はどうなってもいいから、自分の身の安全を守りながら可能な限り時間を稼げ。

 その指令を遵守。アクセルを目いっぱい、床まで踏み込めば重量車両のクラウンであってもトラックから逃げることは十分に可能であったが、わざとトラックの速度に合わせて。

 三台目四台目のパチンコ台は同時に投射されたが、走行不能になるのを防ぐためにわざとルーフに受ける。これはSの判断。

 その振動が車内に伝わっても、稲穂は全く揺さぶられることなく平然とお弁当を。

 トラックがクラウンを横から押し出されている時にもおかずを口へと運び続ける。

 やがてクラウンのタイヤが悲鳴を。四散したパチンコ台のパーツを踏み、その後のカーチェイスでバーストを。

 エアバックが作動するが運転席のSは無事であったし、無論後部座席の稲穂全く姿勢を乱すことなく平然と最後の一口を。

 その後お茶を飲み、それから「Good job」と声をかけ、それからこれまでのうっ憤を晴らすかのようにドアを内側から思い切り蹴飛ばした。


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