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顛末の前日


 実里のストーカー被害? 対策のために稲穂が付き添い、つまりボディガードをして三日。その間何事もなく、ストーカーのスの字も全く感じられないくらいに平和な、忙しない年末だというのに実にゆったりとした日常で、平穏な、そして実里にとっては好きかもしれない人間と終始一緒にいられるという実に幸せな、幸福な日々であった。

 それが四日目、大きな進展が。

 四日目と書いたが、実のところはその前日、つまり三日目の夜に最初の大きな進展があった。

 それは稲穂のスーツ。

 この三日間着用していたパンツタイプのとは異なる、スカートタイプのスーツ。

 人生初のスーツのスカート。しかも、桂のリクエストと、それに悪乗りするような麻実の意見、さらには実里の願望も込められて、タイトなものを。

 もう一着購入した普通のスカートのものよりも、お尻のラインが少しだけ強調されるのだが別に構わない、見られても別段恥ずかしくもなんともない、下着のラインが浮き出てしまってもそれも特段稲穂は気にしない。

 だがしかし、動き難い。

 一応実里のストーカー対策、ボディガードであるのだから動きが阻害されるような服装はあまりよろしくないのでは、いざという時に動けないのでは本末転倒でないのかと、という意見を稲穂は述べ、それからこれまで同様にパンツタイプのスーツでいいんじゃないのかと進言。

 しかしこの進言は他の三人によってすげなく却下を。

 というのも、この三日間別に何も起きなかったでしょ、だからそんな激しい動きがいるようなことは起きないって、と言われ、しかし万が一があるかもしれないと稲穂は備えておくことの重要性を説くのだが、これも、でもシロはたとえストーカーがナイフを持って襲ってきたとしてもそのスカートを穿いたままで実里を守ることなんて楽勝でしょ、と麻実に言われ、常人を遥かに凌駕した運動能力を有している自分であればその辺の素人が刃物を振り回しながら突進をしてきても問題なく対処できてしまうと考えてしまい、その上モゲタンが稲穂の脳内で、キミがスカートを破ったりしないかと心配しているのは理解できる、だがそんな危惧は必要ない、ワタシがキミの動きの適切なサポートをしよう、と。

 この三人+一人? におされて、稲穂は翌日からタイトスカートのスーツを着用することが決定した。

 だが、この決定はまだ序章にしかすぎなかった。


 その後も色々と決定していくが、最後の最後で激戦が。

 これは、穿くか、穿かないか、どちらにするかという選択。  

 四人の間で意見が真っ二つに分かれた。

 穿く派が二人、穿かない派が二人。

 真っ向から対立。

 穿く派は桂と麻実。穿かない派は実里と着用する本人である稲穂。

 着る人間がいらないというのだから、無理に穿かせることはないのだろうが、これを穿く派二人が頑として認めない。

 本人の意向を無視してまで二人が稲穂に絶対に穿かせたいものは一体何なのか?

 穿く、ということからには下半身に着用するものである。

 しかしながら、当然スカートではない。スカートを穿かないということは話し合いが振出しに戻ることを意味する。

 では、何か? 下着だろうか? タイトなスカートであるゆえに下着のラインが出てしまうことを稲穂が嫌い、穿かなければラインが浮き出ることがないから、穿かないという選択肢を、というわけではない。そもそも前述しているように、稲穂はそんなことに頓着はしないし、それにそれだったら実里が穿かない派に回るのはおかしなこと。

 では、一体何を穿く、穿かないで揉めているのか?

 それはストッキングであった。

 ストッキングについては買う前に一応話し合いをしていた。そして着用することになっていた。

 だが、稲穂としては試着室で鏡に映った自身の姿を見、別に穿かなくても、素足のままでも悪くないんじゃと思い、一旦は同意した着用することを拒否。

 只でさえ動き難いタイトスカートなのに、その上これまた破ってしまいそうなストッキングを穿くなんて。モゲタンのサポートでその心配はないのかもしれないけど、できるならば神経を使いそうな、ちょっとの動きで伝線してしまうかもしれないようなものをなるべく着用したくはない。それに防寒という意味合いでもストッキングは稲穂にとって不要であった。

 稲穂の主張を聞き、以前桂に洗脳、もとい説得されてしまっていた実里も同調を。稲穂は素足のほうが良い、と。

 これに対して桂と麻実の連合は、再び光沢のある黒色の魅力を力説。

 スーツ購入時に一緒に買った、何種類ものデニールのストッキングを稲穂に穿かせ、実証しながら、黒が彩る魅惑の脚の魅力を。

 これにより実里は再び桂によって洗脳、もとい稲穂の綺麗な足を彩る黒の魔力に魅せられてあっさりと転向を。

 これで均衡が崩れた、三対一に。

 数の上で無勢。その上、口でも勝てない。

 次第に稲穂は押されていき、そこに素肌だと車のシートの感触がちょっとベタベタするよという麻実の言葉、それに同意するように頷く実里、これが決め手になったのかどうか分からないけどとうとう根負けを。

 明日は黒のストッキングの着用が決定した。

 これで、稲穂の心情はともかくとして、万事解決、というわけではなかった。

 議論はまだ続いた。

 次に挙がったのはデニール。

 デニールとは維度、糸の単位。この数字が高い程密度が濃くなり、ついでにいうと高い密度のものはストッキングではなくタイツになる、逆に低くなるほど素肌に近いものになる。

 どのデニールが、この場合どの黒色が、稲穂の脚をより引き立てるのか議論を。

 そしてそれも長い話し合い、といっても桂と麻実の二人によるだが、の末に決定。


 今度こそこれで終了と稲穂が思った矢先、麻実がまたもある提案を俎上に。

「実はこういうのも準備したんだけど」

 そう言いながら麻実が取り出したのは、ガーターベルトとストッキング。

 これまで稲穂が穿いた、というか着用させられたのは全てパンティストッキングであった。それに対して麻実が出したのは、太腿までを覆うストッキングと、それを固定するためのガーターベルト。

 これにちょっと稲穂は困惑。

「お願いだから一度着てみて」

 と、麻実に懇願され、それから桂、実里からも頼まれて、これまで散々おもちゃになってきているのだからもうどうでもいいや、という半ばやけっぱちな気持ちで渋々了承。

 現在、稲穂の格好は上下とも下着姿。こう書くと少しセクシーな印象を受けるかもしれないが、着用しているのは上がタンクトップブラで、下はボクサーパンツ。色気もへったくれもないような下着に、セクシーなガーターベルトとストッキング。

 ミスマッチであった。

「あ、後これをストッキングにさしてね」

 そう言いながら麻実が差し出したのは小型拳銃、デリンジャーのモデルガン。

 エイブラハム・リンカーン暗殺に用いられた単発式の小型拳銃。この事件があまりにも有名であるがゆえに、ヘンリー・デリンジャー以外の制作の小型拳銃もこの総称で呼ばれることに。ちなみに、日本語表記だと一緒であるが、英語表記だと、商標登録とか諸々の関係でスペルが異なる。

 麻実の中に、あるイメージがあった。それはスカートの中に忍ばせておいた小型拳銃を颯爽と抜き、それで敵を倒す。これは稲穂がしているボディガードというよりも女スパイなのだが、それを稲穂に再現してほしいという。

 この申し出に稲穂は、

「うーん……それは無理かな」

 と、しばし考えた後に断る。

 これに桂と実里が残念そうな声を上げた。二人とも見てみたかったのだ。

「どうして?」

「外側に入れるとスカートが膨らんで、そこに忍ばせているのが丸分かり出し、内側だと歩くときに邪魔になる。後、今はこんな格好だから簡単に出すことができるけど、穿いた状態だと捲り上げるか、スカートの中に手を突っ込むというなんか間抜けな姿になると思うんだ」

 理由を説明。

 実里がいるから敢えて稲穂は説明しなかったが、そんなもの、小型拳銃など所持しなくとも、それと同様の、いやそれ以上の威力があるものを全く目立たずに持ち運ぶことが可能であった。先にも書いたが、稲穂は常人を遥かに凌駕した能力を有している。その力を使用すれば、ポケットの中に忍ばせておいた硬貨を、とある小説のビリビリ少女がごとく、といってもそのキャラは電気の力で硬貨を弾き出すのだが、指弾で弾き飛ばして敵を倒すことが可能。流石にお金はちょっと勿体ないので代用としてパチンコ玉というのも。

 ともかく、稲穂の説明を聞き、

「……そっか。……そう言われると確かにそうかも」

 心底残念そうな麻実の声と、それに重なるように二つの大きな溜息が。


 翌日、四日目の朝。

 昨夜、桂と麻実の手によってコーディネイトされたスーツに身を包み稲穂は、慣れないタイトなスカートゆえに、ちょっとだけ運転がしづらいかもと思いながらも、すぐに慣れて、この四日間ずっと運転している黒塗りのクラウンで、実里を大学まで。

 初日には周囲をざわつかせたクラウンであったが、四日目ともなるとそれなりに浸透し、遠巻きに見られるということはなくなったのだが、それでも近づいてくる人間は皆無であった。

 というのも、実里は学内で変わり者として知られており、昔ならいざ知らず、今の彼女に積極的に話しかけようとするような人間はいなかった。

 また、稲穂もこの大学の人間ではないのだが、偶にやって来るロードバイクとしてちょっとした有名人であったのだが、その印象と、今回のクラウンを運転する印象が若干異なり、これまた積極的に接近してくるような人間はいなかった。

 この三日と同じように、稲穂はクラウンを駐車場へと。

 運転席から降り、後部座席のドアを開ける。

 そんな稲穂の背後に一つの影が迫った。

 

 それがもう一つの大きな進展の始まりであった。

年内中にもう一話投稿の予定。

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