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ジープの話

番外編。

前回入れようとしたけど長くなるのでオミットしたものを膨らませた話。

 

 時は少し遡る。

 盛夏の頃を過ぎ、暦の上ではとうの昔に秋へと突入したはずなのに、一向にその気配を感じることができなかった頃。

 仕事の合間に手に入れてきたジープをレストアしていた整備部の人間の一人が、

「What is this?」

 というネイティブな発音を。

 映画『ナイトメアビフォアクリスマス』の主人公、ジャックの台詞であり、ハロウィン商戦真っただ中に突入している今の時期にはピッタリの言葉ではあったが、どうしてそんな言葉を整備中に発したのか?

 それはレストア中の車体から奇妙なものを発見したからであった。

 その奇妙なものは古くなった紙。

 紙は丁寧に折りたたまれ、ビニールで保護され、さらに厳重に車体の奥に大切に仕舞われていた。

 発見者は丁寧な仕事が売りの整備士であった。これがガサツな人間ならば、気にも留めずにそのままごみ箱行き、もしくは発見したとしてもぞんざいに扱ってしまい、その紙を判別不可能なまでに崩壊させてしまっていたかもしれない。  

 丁寧に、かつ慎重に紙片を取り出し、広げる。

 そこにはサインとイラストが描かれていた。

 イラストはジープと思わしきもの。これは鉛筆書きであったため、経年によって所々消えかかっていた。

 それからサイン。

 こちらは判読可能であったのだが、日本語で記されており、その整備者は外国籍であるものの簡単な日本語の聞き取りと平仮名カタカナは読めたが流石に漢字までは無理であり、近くにいた日本人スタッフにその紙片を見せる。

 そこに書かれていたのは「大塚康生」という文字。

 サインの名前は読むことができたが、それが誰であるのかその日本人スタッフは分からなかった。

 おそらくイラストから推察するに、昔のイラストレーター、もしくは漫画家と想像し、だったらこれは自分ではなく、よく会社に出入りしている大学生でアニメ漫画ゲームサブカル方面に造詣が深い八神麻実の担当であろうと考え、彼女に任せることにした。


 後日会社に遊びに来た麻実はその名前を見せられ、しばし考えて、

「うーん、知っている名前なんだけどな……誰だったっけ……あ、思い出した無敵看板娘のED(エンディング)の人だ」

 本放送時は一桁台の年齢であったため、それと麻実の住む地域では放送していなかったのでリアルタイムで視聴していなかったが、後に観た作品。少年チャンピオンに掲載されていた佐渡川準の漫画をアニメ化したもの。

 病院のベッドの上で一気見し、面白かったので検索した結果、EDのアニメを当時七十代であった大塚康生が手掛けたことを知った。

 そして数多の作品に関わってきた来歴に驚いた。

 そんな人物であるのに、何故麻実が咄嗟に思い出せなかったのか? また出てきた作品がマイナーなものであったかというと、彼女にとって大塚とは、声優の大塚親子のイメージがあり、すぐに出てこなかったからである。作品についてはそれだけのインパクトがあったということ。

「Anime?」

「イエス」

「ということはアーティスト?」

「まあアーティストといえばアーティストなのかもしれないけど、たぶん言っているのは歌手のことだよね?」

「ああ」

「そうじゃなくてね、アニメーター。それも伝説のアニメーターなの、レジェンドなの」

「伝説?」

「Legend?」

「コナンやカリ城を作ったアニメーターよ」

「コナンって名探偵? それとも未来少年?」

 ついでにこの二つ以外にも、これは実写であるがザ・グレートも存在する。

「未来少年の方」

「それってどっちも宮崎作品なんじゃ」

 未来少年コナンは再放送で観た。そして、ルパン三世カリオストロの城はそれこそ何回も金曜ロードショーで観ていた。内容はハッキリと憶えているが製作スタッフまでは流石に記憶していない。しかしながら、どちらの作品も監督は宮崎駿であることだけはこの日本人スタッフは憶えていた。

「監督は確かに宮崎駿だけど、作画監督はこの大塚さん。それにね、その宮崎駿がアニメーターの世界に入った頃に指導していた人なの」

「たしかにそれは伝説だ」

「スゴイ」

「それだけじゃなくて、たしかエヴァの貞本さんの師匠でもあったような気が」

「ちょっと待った。あんまりその手のことに詳しくないけどさ、貞本って人はたしか漫画家だろ? どうしてアニメーターが漫画家の師匠になるんだ?」

 アニメではなくパチンコからエヴァを知り、その後新古書店で単行本を手に入れて読んでいた。だからその作者の名前、というか苗字を日本人スタッフは記憶していた。

『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』『時をかける少女』『サマーウォーズ』等のキャラクターデザインで知られている貞本義行。しかしながらこの日本人スタッフの認識ではアニメ業界の人間ではなく漫画家であった。

 この認識は間違いではなかった。アニメーター、イラストレーター、漫画家、多彩な面を持つ彼であるが、貞本本人の思いは兎も角、一つの指針、金銭という面で鑑みれば漫画家という側面が一番大きいであろう。それを物語るようなエピソードがあった。まだ高額納税者の氏名が公表されていた九十年代後半、エヴァのアニメはブームを起こし大ヒット、そして彼の描く漫画も売れに売れた。どれくらい売れたかというと地方都市の高額納税者の名簿の筆頭に彼の名前が記載されるくらいに。このことにその街の人間は「誰だ、これ?」と、驚き、そしてアニメファンはそんな所に住んでいたのかと驚愕したという逸話が。

 まあ、それはさておき、

「その辺のことはよく知らない。知恵に聞いただけだから」

 そんな麻実に代わって説明を。

 大学時代に漫画家としてデビューを果たしたが、またアニメの世界にも飛び込み『超時空要塞マクロス』に原画として参加。そこで大阪の連中、後のガイナックスのスタッフ、庵野秀明や山賀博之らと知り合い、彼らが手掛けるSFイベントのOPアニメの制作に参加。大学卒業後にアニメ制作会社のテレコムに入社。そこで大塚康生の師事を受けたのであった。

 便利な世の中である。手にしている機械で検索し、簡単に情報を取得することが可能。

 早速調べて先の関係性の記述を発見。

「なるほどね」

「二人の関係性はよく分かったけど、それよりも肝心の……」

「ソウ、Jeep」

 大塚康生のサインがどうして古いジープの中から出てきたかという謎。

 彼とジープの関係性はいまだ不明のまま。

「それは……なんでだろう。これもググってみようか……あ、待った。こういうのに詳しい人間がいるから。知恵に聞いた方が面白い話が聞けるかも」

 ということで、この場での検索はせずに、後で聞いたことを報告するという流れになった。


 夕方、麻実は知恵に電話を。

 その目的はもちろん、大塚康生とジープの関係を知るため。

 電話に出た知恵は、

「ああ、それやったらウチもちょっとくらいは知ってるけど、オトンの方が断然詳しいな。もうちょいしたらオトン帰ってくるはずやから、話聞いて、そんで夜か明日にでも麻実さんに教えて貰ったこと伝えるわ」

「だったらさ、あたしが直接聞くのダメかな?」

「麻実さん、うちに来るん?」

「そうじゃなくてさ、ネットで繋いで講義してもらうの」

「ああ、なるほどな。ソッチの方がええかもしれんな。ほな、オトンに聞いとくわ。女子大生がネット回線で話を聞きたいらしいけど、ええかって」

「そういう言い方だと、なんか卑猥な感じがするわね」

「別に全然そんなことないやん。ほな、オトン帰ったら聞いてみて、そんで電話するわ」

「じゃあ、お願いね」

 およそ一時間後。

 知恵の父親から承諾が。

 少し話し合い、講義の時間は本日夜九時からとなった。

 ということで、スカイプ中継での講義が開催される運びとなったのだが「なんだか面白そう」「うん」「私達も参加しようかな」「そうだね」と、夕食中に麻実の電話を聞いていた、桂と稲穂も講義を受けたいという表明を。

 すぐに参加の許可を貰う。

 というわけで、成瀬家全員で講義を受けることと相成った。

今年亡くなられた大塚康生さんの話にするはずだったのに、途中から佐渡本義行さんの話になってしまいました。

次回はちゃんと大塚さんとジープの話です。

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