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かそうけいかく おまけという名の本命


 十一月二十二日、いい夫婦の日。

 この日、桂がかねてより内密に、秘密にしていた、といって周囲にはバレバレであったのだが、計画の実行日。

 それは稲穂と二人きりでウェディング写真を撮ることであった。

 中身はともかく、見た目は同じ性別同士であり、法的な結婚は現段階では日本国内では不可能。しかしながら二人はこの先の人生を共に歩んでいくと誓い合った。本来ならばそれを親族友人知人のお披露目、つまり式を挙げて宣言したいのだが、流石に昔よりもこの手のことがタブー視されない社会になりつつあるものの、世間一般の理解を得るのはまだまだ難しく、また稲穂も桂の何かと忙しくそれを実行するだけの時間を取ることができず、二人だけのウェディング写真に。

 しかしながら何故十一月二十二日という日に写真を撮ることを桂が選択したのか。それはいい夫婦の日であるからに他ならなかった。

 いい夫婦の日以外にも夫婦の日はいくつか存在した。一月二十二日は良い夫婦の日、二月二日は夫婦の日であるし、四月二十二日も良い夫婦の日、七月二十二日二十三日は仲良し夫婦の日。そんな中で十一月二十二日を桂が選択したのは、時期的に一番近かったからである。八月に稲穂からプロポーズをされた、他の夫婦の日を選んだ場合は必然的に来年になってしまう。

 前述したように稲穂と桂の見た目の性別は同じである。夫婦ではなく、婦と婦である。にもかかわらずいい夫婦の日を桂が選んだのは、稲穂の正体、中身が男、稲葉志郎である、つまり見た目はともかく自分達は紛れもない夫婦であるという認識からこの日に。

 日を決定しただけでウェディング写真が自動的に撮れるわけではない。

 そこに至るまでのプロセスが存在する。

 まずは写真を撮ってくれるところを探しだす。

 これは簡単に見つかった。いくつかの結婚式場で同性同士のプランがあった。そのプランを眺めていると、二人だけでウェディング写真、それに普通の式で出される食事がつくプランというものがあった。

 桂はそれに決定。

 決定はしたが、それはまだ序章にしか過ぎなかった。

 前途多難ではないもののそこから決めること、決断すること、決定することが多かった。

 それを全て桂一人で。

 本来であるならば二人で行う共同作業なのだが、稲穂は桂に全権を委任。これに対して桂は、どうせだったら二人で話し合いながら楽しく選びたかったという想いは多少あったものの、学業と仕事という自分以上に多忙な稲穂をこのことで忙殺させてしまうのはちょっと心苦しく思い、ついでにいうと十年近い付き合いのある恋人にはこの手のセンスがあまりないことも熟知しており、ならば一人で、そして任されたのだからそれに十全に応えるようにしようと奮闘。

 だが、孤軍ではなかった。

 担当の人が色々とアドバイスを、助言を。

 稲穂ほどではないがそれでも慌ただしい業務の合間を縫って幾度か一人で、といっても最初に訪れた時は稲穂と二人でだったが、式場へ赴き話し合いを。

 担当者と話し合いを重ね、当日の衣装を決めていく。とんとん拍子という言葉が相応しいくらいに次々と決まっていくが、一つ重要な、最重要といっても過言でないことがなかなか決まらなかった。

 それは稲穂の衣装。

 ショートカットの美人である稲穂は男装がよく似合っていた、ウェディングドレスよりもタキシードのほうがその魅力をより引き立てていた。

 これは先月のコスプレでも実証されていた。

 そしてこの案で決定という段になって、突如桂が追加の注文を。

 それは、稲穂に一緒の、お揃いのウェディングドレスを着てほしい。

 この言葉に稲穂は特に何も考えず、桂がそれで喜んでくれるのならばと同意。

 当事者二人の意見が揃ったのだから普通はこれで決定となるはずなのだが、それに待ったをかける者が。

 それは式場の担当者であった。

 クライアントの要望には出来得る限り寄り添う、叶えるのが事業者としては正しい判断である。桂の望みに応えることは会社としては至極簡単であり、なおかつ儲けになる。にもかかわらず担当者がそれは止めた方がいいと。

 普通ならばこの声を聞き、自分の意見を否定されたといって、キャンセル、今までの時間と労力を全てに無にするくらいに怒っても仕方がないのかもしれないが、桂は案外冷静にその意見を受け止めた。 

 彼女、担当者の言葉は別段おかしくない。桂自身も、誇張した表現になるが稲穂と自分では月と鼈、これは自分で言ったものの少々悲しくなってしまったけれど、勝っているのは年齢と体重と、バスト、ウエスト、ヒップだけのサイズだけということは十二分に自覚していた。

 それでも愛する人と同じものに包まれたい。二人並んだ写真で自分が引き立て役、道化師(ピエロ)になってしまうことは承知している。それでもなお桂は稲穂に自分と同じウェディングドレスを着てほしいと望んだ。

 これには理由が。 

 それは言葉ではないけど、ある意味決意表明のようなものであった。

 容姿も能力も、それから若さも自分は稲穂に見劣りしてしまう。それでもこの人生涯を共に歩んでいきたい。それも彼に引っ張ってもらってではなく、共に、一緒に並んで歩んでいきたい。

 それをかつての国語教師にはあるまじき、ちょっと拙い言葉で胸の内に秘めた想いのようなものを担当者に告げる。

 桂の言葉はちゃんと担当者に届いた。 

 クライアントの想いをしった担当者は、その意気に深く感銘。

 これまでの反対の意見を翻して、どうすれば上手くいくのか懸命に考えてくれた。

 期限が迫る中で、桂の要望に応えようと必死に奔走してくれた。

 といってもまずは桂の説得。だがこれは諦めさせる言葉ではなかった。桂と稲穂の体型の違いを冷静かつ的確に指摘、同じウェディングドレスではなく、別のタイプの、それぞれの体型に合ったものを薦める。

 この言葉に桂は了承を。本音を言えば、全く同じドレスがいいのだけど、自分達の体型が全然違うことは分かっている、ここは折れることに。

 二人の特色、それぞれの個性を活かし、同じではなく、異なることで互いの良さが出るようなドレス、互いの長所がより引き立つような衣装を担当者がチョイスしてくれ、これには桂もこういう手もあるのかと至極感心を。

 そこからは急ピッチでことが進んだ。

 慌ただしい時間が過ぎていった。

 そして当日。

 当人の努力もさることながら、それ以上に尽力してくれた担当者及びメイク、衣装の方々の尽力で稲穂に負けないというのはちょっと無理があるけど、それでも並び立つに相応しいような出来栄えに。

 これには桂もご満悦であり、かつ後日写真を披露した際に想像して以上に高評価であった。

 桂の花嫁衣裳、つまりウェディングドレス姿は悪くない、いやむしろ出来があった写真を見せた人々から称賛というかお褒めのお声が。

 この声に桂凄く気分を良くしたのは言うまでもない。

 何しろ、低評価、月と鼈のような扱いを受けると思っていたのに存外悪くなかったのだから。

 そして周囲の声はともかく、肝心の相手、つまり稲穂からも「可愛い」「よく似合っている」「ちょっと惚れ直した」という言葉を聞き、天にも昇るような心持であった。

 なお余談だが、桂のこの時撮った数多くの写真の中で皆が良いと言ったものがあった。それはドレスがあまり写っていない二人のツーショット。稲穂が差し出すケーキを満面の笑みで幸せそうに頬張る桂の顔であった。

 異口同音に「色気よりも食い気だね」という感想が。


 さらにもう一つ余談を。散々無茶を言ったのだから当初の予定の金額からかなりオーバーしてしまったと桂は覚悟し、昔の自分の貯金を崩さないといけないかなと考えていたのだが、料金的も担当者の方は非常に頑張ってくれてなんとか想定していた予算から少し足が出る程度に収まってくれた。


次話は、8月1日22時23分の予定。

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