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ホテル

前回の予告通り、会話劇。


 とあるホテルの一室。稲穂と桂。


「悪いな、わざわざ福岡まで来てもらって」

「悪いのはコッチの方だから。目算を誤った、ミスしちゃったのは私だから」

「いや、それは桂のミスじゃないだろ。仕事が予定より伸びてしまったのは桂の責任じゃないんだし」

「でもさ、それはもしかしたら起きるかもしれないって、相手がいる仕事だって分かっていたんだから。それを織り込んで予定を立てておかないと」

「まあでも、予定自体は別に外れていないよな」

「そうよね、まさか帰りに追加の仕事のオーダーがあるなんて予想してないから」

「軽率に受けてしまったか?」

「そんなことないよ。私もそのことはちゃんと承認したから。でも、その後で、この予算に稲葉くんの承認が必要なのが見つかって。それと、ファンド関係のことは私はあまり分からないからモゲタンの指示が必要だし」

「けどさ、タイミング悪いよな」

「そうよね。これがもう少し早く分かっていれば沖縄で会えたのに」

「沖縄でっていっても、桂直ぐに帰らないといけないだろ」

「それはそうなんだけど、南国での再会ってなんかいいじゃない」

「そんなものか?」

「後さ、お土産が一杯買えそうだし」

「福岡だって沢山あるだろ」

「そりゃあるけどさ。でも色々と選んで買い物したいじゃない。それで面白いもの買っていきたいし」

「じゃあ、にわか煎餅は」

「えっ、変と面白いはちょっと違うけどな」

「だったら、ひよこ饅頭は」

「あれは東京土産の定番でしょ」

「いや、あれ作っているの福岡の会社」

「うそー」

「本当」

「ホントに」

「うん、ほら」

 稲穂、スマホを取り出し、操作。

 検索したスマホの画面を桂に見せる。

「本当だ、知らなかった。東京の土産の定番だから、東京の会社が作っていると思ってた」

「まあ普通そう思うよな。俺もそう思ってたし、実際昔の帰省する時に土産で買っていたこともあったからな」

「稲葉くんもそんなベタのことしたんだ」

「昔、上京したての頃だよ」

「そうなんだー」

「いいだろそんなこと。それよりさっさと仕事終わらせよう」

「うん」

「それでさ、せっかくだから本場の豚骨ラーメン、いやそれよりも福岡来たんだから饂飩でも食べていくか」

「うどんって、四国、香川じゃないの」

「福岡の饂飩も有名だぞ」

「そうだそうだ、確かタモさんが言ってたよね、四国のとは違って柔らかいんだよね。そういえば前に伊勢で食べたうどんも美味しかったよね。また一緒に食べに行こ。あ、でもさ、私としては麺類よりもハンバーガーのほうがいいかも」

「ハンバーガー?」

「うん。稲葉くんには移動してもらわないで、私が佐世保まで赴けばよかったかも。そうすれば本場の佐世保バーガーを食べられたのに」

「それだと桂の移動が大変だろ」

「稲葉くんもそれは同じでしょ。それに海外での一仕事を終えたばかりだし」

「俺はその辺は大丈夫だから。それに移動に関しては公共交通機関を使用しなくてもいけるし」

「それは、そうかもしれないけどさ」

「それに、桂の帰りのことを考えると福岡で正解だから」

「うーん」

「まあ、それよりもまずは仕事を片付けようぜ」

「うん」


「そういえばさ、俺の予定が狂って作り置きした分では全然足りなかっただろ。どうしたの? コンビニ? それとも外食? まさか連日麻実さんと連れ立って居酒屋のハシゴとかしてないだろうな」

「しないよ、流石に。確かに足りなかったけどさ」

「じゃあ、自炊とか?」

「……それもしてないかな」

「じゃあ?」

「実里が作ってくれたカレーがあったから」

「……実里? ああ、秦さんのことか。やっぱり彼女来てたんだ」

「うん」

「そうか……って、桂、秦さんのことを名前で呼ぶようになったのか。嫌ってるとまではいわないけど、全然合わないって言ってたのに」

「まあそうだったんだけど。話が合わないのは今もだけど、二人だけで呑んでみたらそんなに悪い子じゃないなって。それで気が付いたらいつの間にか、名前で呼んでた」

「そうか。そんで桂も名前で呼ばれているの?」

「うん、まあ。最初は変なあだ名で呼ぼうとしたから全力で阻止したんだけど。あ、ここにサインお願いね」

「了解。それでどんなあだ名付けられそうになったの?」

「夫人」

「は?」

「だから、夫人だって。稲葉くんのパートナー、一応妻だからまあそれは間違いじゃないけどさ。でもさ、夫人呼ばわりはどうかと思うの。夫人って言ったら、あの人を想像するでしょ」

「テニスの?」

「あ、縦ロールの人もあったか。でもさ、私が言ってるのは第四夫人の人のこと」

「ああ、まあ確かにあの人と桂じゃイメージ合わないよな」

「でしょー。あ、これもお願いね」

「はいよ。それにしても意外だよな、あの人料理なんかしなさそうなのに」

「うん、普段はご飯を炊くくらいで、後は全然しないって。でも、昔受けがよかったらカレーとシチューと肉じゃがだけは自信をもって作れるんだって。ついでに、別にそんなに興味はあんまりないけど学生時代モテたという自慢話を聞かされた」

「そんなに僻むなよ。俺以外にもモテたかったの」

「そんなことないよ」

「だったらいいじゃないか。それでカレーは美味かったの?」

「うん。それも本格的。香辛料を自分で調合するの」

「すごいな、それは。ああ、だったら向うで何か香辛料買ってきたら喜ばれたかな」

「どうだろう? 最近は全然作っていない、久し振りに作ったって言ってたから」

「そうか。まあでも、買うような時間はなかったんだけどな。よし、これも終わり。後は?」

「後はね、コレとコレと、それでコレで最後」

「ヨシ、さっさと終わらせるか」

「了解」


「終わり」

「御苦労さま」

「桂はもう帰るのか?」

「ううん、夜の飛行機のチケットが取ってあるから。それで」

「じゃあ、まだ時間はあるな。外で飯食お」

「じゃあ、せっかくだから中州の屋台街に行ってみたい」

「そんなとこ行ったら、桂絶対吞むだろ。吞むのは別に咎めないけど、呑み過ぎる危険性があるよな。今日は大事な書類を持って帰らないといけないんだから。万が一にも紛失したらヤバイだろ」

「……確かに」

「あ、それよりさ桂じゃなくても良かったんじゃないのか、来るの。別の人でも」

「……それは私が暇だったというのもあるけど、一番の理由は稲葉くんに逢いたかったから」

「桂」

 二人、抱擁。

「……吞んでもいいよね」

「駄目、今日は我慢しろ。佐世保で土産にお酒を買っていくから」

「ブー、まあしょうがないかな、仕事中だもんね。で、今度は予定通りに帰ってこれるの?」

「そういう契約だからな」

「じゃあ、週末の予定はそのままでいいんだよね」

「……あれ、本当に実行するのか?」

「うん。あ、言い忘れていたけど、例の計画、実里も参加するからね」

「秦さんも参加するんだ。そんなイメージなかったけどな」

「話したら、すごく乗り気だった」

「そうか、まあともかくその辺りの話は飯を食いながらしよ」

「うん」

「そうだ、焼きラーメン食べてみたいな」

「さっき麺類はいいって言ってだろ」

「だって急に思い出したんだもん。それにせっかくの機会なんだし」

「じゃあ、中洲の屋台に行くか」

「……ねえ、せっかくだからちょっとだけ吞んでもいいよね」

 桂、抱き合ったまま、上目遣いで稲穂を見つめる。

「……一杯だけだぞ」

「稲葉くん大好き」

 桂、稲穂を強く抱きしめる。

 それに応えるように稲穂も。

 抱擁を解き、手を繋ぎながらホテルの部屋から出る二人。


台本調。

ちょっとした実験回。


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