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仲良し? 3+2人組 4


 中間試験が終了して結果が出るまでの束の間の安息日、美月みつきは以前靖子が提案した池袋へと遊びに来ていた。

 もちろん二人だけではなく、いつもの三人も同行。

 駅前に集合する五人。その中で靖子だけが一人浮いた存在だった。

「ああ、やってもうたな」

 一人気合の入った服を身に着けている靖子を見て知恵が言った。

「この格好のどこがおかしいというの。せっかくの美月ちゃんとのデートなのに、気合を入れないでいつ入れるというの。それよりも貴女方の服の方が残念ですけど。ああ、美月ちゃんは別よ。本当はこないだのゴスロリの服を着て来てほしかったですけど。今日の髪型はポニーテールで女の子なのに下はボーイッシュでかっこいいですわ」

「いや、文句なんてあらへん。そやけどその格好やとキツイでー」

 その言葉に文と美人も肯いた。美月は知恵から連絡を受けていた。当日は動きやすい服でと。お洒落には依然興味が無いのでありがたい。

「ハッキリ言いなさいよ。自分達の格好がダサいからって私を責めるのはお門違いよ」

「そうやない。美月ちゃんに良いとこ見せよ思ってるのは理解できるし、まあ、似合っとると思うよ。そやけどね、他の全員の足元を見てみい」

 憤慨はしていても根が素直な靖子は知恵の言葉に従い、自分と他の四人の足元を見比べてみた。たしかに大きな違いがあった。四人は通学で使用しているようなスニーカー、対して靖子の足元を飾っているのは卸したてのパンプス。そしてヒールは少し高かった。

 違いは理解したが、その言葉の意味するものが靖子にはまったく分からない。

「これが、どうしたのよ?」

「まあ、ウチが口でどうこう言っても聞く耳もたんやろうから言わへんけど。その身体、その細い脚で思い知るとええわ」

 予言めいた口調で言う。それにあや美人みとが同意するように頷いた。


 地元の駅からJRに乗り新宿を目指す。そこから山手線に乗り換えて池袋へ。

 池袋には何回か芝居を観に来た記憶があった。後は東口にある売り場面積日本一の書店に足を運んだくらいだった。

 文と美人、この二人が先行する。後ろから見ている背中は楽しそうに弾んでいた。

 行く先には靖子が望んだサンシャインビルがあった。しかし、そのわずか手前で別のビルへと先導者の二人が入る。美月と知恵もしかたがないといった感じで続く。文句を言いたそうにしていた靖子は、誰にも言えず黙って後を追った。

 所狭しと陳列されたアニメグッズの数々、大勢の女性客で賑わい、歩くのも一苦労だった。

「駅で言っていた意味を理解したわ」

 慣れない靴と人ごみ、靖子の足は悲鳴を上げていた。

「それじゃ、外で待っていようか。そのほうが足の負担も少ないでしょ」

「……美月ちゃん。……ありがとう、私のために」

 美月の優しい提案に靖子は感激して言う。

「そやな、あの子らに付き合ってビルの中を上下に移動するより外で待ってたほうがええわ。ウチら買い物もせんし、他のお客にも迷惑かからんしな」

「あら、貴女はあの二人と一緒に買い物をするんじゃないの?」

 美月と二人きりになれるチャンスを邪魔されての皮肉ではなく、本心から質問だった。

「ここはウチの趣味やないから。ウチと美月ちゃんは懐古主義派やねん。あの二人とはちょっと趣味がちゃうから。ここよりも別の街の方が面白いと感じるから」

「そういうものなんですか。……私にはどれも同じようなものに見えるけど」

 靖子の不注意な発言で周囲の客が一斉に冷たい視線を送る。

「余計な発言するな」

「ええ、なにか背筋に冷たいものを感じたわ」

 三人揃って狭い空間から脱出。入り口脇で文と美人を待つ、十分程で二人は出てきた。

「あんまり欲しいのなかったから、次の店に行こうか」

「ちょっと、アソコには行かないの?」

 文の言葉に靖子が反対して、道路向うの高層ビルを指した。その中には水族館もプラネタリウムもある。デートには最適な場所だった。

「行かないよ。だって目的の本は売っていないから」

 興味がなさそうに高層ビルを見上げて、それから歩き出す。その後を美人が、そして「やれやれ、しゃあないな」と知恵が続き、美月も行く。

「ちょっと待ってよ、置いてかないでよ」

 慌てて追いかけようとした靖子であったが慣れない靴では早く歩けなかった。おまけに靴擦れした踵が痛みを訴えていた。

 美月は三人から離れて靖子を一人迎えに戻った。

「ありがとう美月ちゃん」

「いいよ、別に。それより足は大丈夫?」

 歩くのが少し辛そうな靖子を心配して言った。

「うん。……あの、それより一つ聞いてもいい? 美月ちゃんもああいうのが好きなの? だったら私も一生懸命に勉強して好きになる努力をするから」

 その問いには美月は静かに首を振った。

「だったら、どうしてあんな子達と一緒にいるんですの?」

 美月は考えた。この少女の姿になって中学に通うようになった時には一人でもいいと思っていた。子供に付き合う気はさらさら無かった。しかしひょんなことで知恵と話して、それから文、美人とも交流する。その間に大きな心境の変化があった。

「……楽しいからかな」

 意外な気持ちだったが本当に楽しかった。それは自分でも驚くことだった。

「楽しい、ですか。まあ、あの子達なら退屈はしませんけどね」

「靖子ちゃんといても楽しいよ」

 これもまた本心だった。

「まあ、それじゃ行きましょう」

 靖子は美月の右手をしっかりと握りしめ、足が痛いことなんかも忘れ大股で歩き出した。


 二人は次々と店内へ。残りの興味の無い三人は店の外で。

 午前中に池袋に着いたのに、もう昼を遥かに越え、おやつの時間に近付いていた。

 珍しく知恵と靖子の意見が合う。美月もそれに賛成だった。

 中学生であるからみんなお金はあまり持っていない。手頃なファミレスに入る。空腹を満たした。それから、お喋りに興じる。

 店を出た直後警告音とは違う別の音、神田神保町で聞いた音が美月の頭の中に流れた。

(これっ)

〈ああ、ワタシの同種体が近くに存在している。その証拠が、この音だ〉

(こないだのヤツか?)

〈それは分からない。ワタシには判断はできない〉

「おーい、何してんの? 早く行くでー」

「先に行って。さっきの店に忘れ物したから取ってくる」

「先に駅で待ってるからー」

 友人たちの前で接触はしたくないと思った。どんな人間が、どんな行動をするのか、まるで分からない。変な事態に巻き込みたくはなかった。人気の少なそうな裏通りへと一人で移動する。美月の思惑通りに頭の反応は追いかけて来る。

 万が一の事態に備えて雑居のビルの屋上へと移動する。相手も同じ力を保有するのならば、ここに来るのも可能だった。

 頭の中の音が大きくなった。

「見ーつけた」

 声をかけたのは黒尽くめの衣装の細い少年、高校生くらいだろうか。

「こないだの秋葉原のデータを回収したのはアンタなのか?」

 美月が投げかけた質問に返ってきた応えは言葉ではなく、行動だった。美月との間合いを一気につめて殴りかかる。紙一重で回避して、そのままビルの屋上から下へと降りる。

 いきなり襲いかかられるなんて想定外だった。危険を感じ、距離をとり逃げようとした。

「逃げるなよ。一緒になろうぜ」

 屋上から少年も飛び降りる。美月の行く手を塞ぐような場所に着地した。ビルとビルの間の路地、逃げ場の無い空間で美月は少年と対峙した。

 同じような存在の人間になぜ襲われるのか美月にはその理由が分からなかった。

「いいもの見つけた」

 少年は無造作に捨てられていた鉄パイプを掴んだ。そして狭い空間にもかかわらず、まるで子供のように無邪気に振り回し美月との距離をつめてきた。

 接触してからわずかな時間しか経過していなかったが美月は気付いたことがあった。この少年は美月同様の力を手にしているにもかかわらず、身体の動かし方が下手くそだった。動きは早いがどことなくぎこちなさを感じさせ、今も接近してくるのに足を引き摺るようにして歩いていた。

 振り回す鉄パイプがビルの壁を掠めていく。そんなことには気にも留めない、それはまるで上機嫌な子供そのものだった。

「逃げるなよ」

 鉄パイプが美月に向って弧を描き襲いかかる。一つ一つの動作が大きく緩慢に見えた。振り下ろされる速度こそ速いものの見切るのは簡単だった。

 空を切った鉄パイプが少年の踏み込んだ左足に直撃する。

「痛えー」

 大きく振り放った一撃は自らの体を傷つけた。少年は左脛を押さえてうずくまる。

「今のうちに」

 美月は左右のビルの壁を蹴って屋上へと上がる。

「待てよー」

 相手は諦めていない様子だ。このまま跳んで逃げてもしつこく追いかけてくるは必定。

「なあ、この前の能力を俺は使用できるのか?」

 中間テストを途中で切り上げて回収したデータの保有していた能力が自分にも使用できるのかをモゲタンに問うた。

〈ああ、問題は無い。この状態でも使用は可能だ〉

「それじゃ」

 屋上に言葉を残して美月は跳んだ。美月の周囲の空間が不自然に歪み、美月の小さな身体はたった今までいた場所から消え去った。

「早く俺のものになれよ」

 傷みから回復した少年が美月を追って屋上へと上る。そこにはもう美月の姿はなかった。

「っくしょー、どこに行ったんだよー」

 少年の雄たけびのような声だけが響いていた。


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