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サンピース


 土曜日の夕方のことです。

 宅急便の配達員さんが荷物を届けに来てくれました。

 けど、生憎と稲穂はアメリカに出張中、桂と麻実は連れ立って外出中であったために、マンションには誰もいなく不在票をポストに入れて帰っていきました。

 その日の夜、帰宅した二人は不在票を見つけ、悪いことをしたな、再配達を頼むのは申し訳ないと思いました。

 思いましたが、配達してもらわないわけにはいきません。翌朝、コールセンターに連絡を、再配達をお願いしました。

 お願いしたからには今度は留守にするわけにはいきません。日曜日であるのに二人は外出せずに家で待つことに。まあこれには、昨日散財してしまって今日はなるべく外出しないようにしよう、出費を抑えよう、ついでにいうと夏の暑い中昼の日中に出歩かないというのもあるのでしたが。

 指定した時間から少し遅れて、宅急便の配達員がやって来ました。

 荷物は麻実宛てでした。

 荷を受け取る時に、二人は首を傾げました。

 というのも、送り主の名前に麻実も、そして桂も見覚えがなかったからです。

「……誰?」

「麻実ちゃん、この送り主の人知らないの?」

「ない……というか、これって桑名から送ってきているじゃない、桂の知り合いなんじゃ」

「でも、麻実ちゃん宛ての荷物よね」

「たしかに宛先はあたしの名前だけど……」

 二人は受け取ったばかりの荷物をテーブルの上に置き、しばし考えました。

 考えましたけど、全然出て来ません。

「うーん、分かんないよ……そもそも桑名の知り合いって桂の家族くらいだし」

「お兄ちゃんに聞いてみようか。もしかしたらこの名前に聞き覚えがあるかも」

 桂はスマホを取り出し、兄に電話をかけようとしました。

 指先が文尚に連絡先に触れようとした瞬間、

「ああー、思い出した。誰か分かったー」 

 と、麻実が大きな声を。

「誰なの?」

「これ、紙芝居のお兄さんだ」

「……ああ、そういえば桑名在住だったわよね。四日市で紙芝居をしているから忘れてしまっていたけど……って、あの人こんな名前だったんだ」

 つい此間帰省した時にはタイミングが合わずに遭うことは叶わなかったけど、親しく交友をしている人物。彼の弟子とは一緒に名古屋で遊んだし、それに桂の兄夫婦は彼によって知り合い、交際を開始し、結婚に至った、いわば愛のキューピットといっても過言ではないような人物です。なのに、そんな人の名前を二人共に忘れてしまうというのは何とも薄情と思われるかもしれませんが、これには理由がありました。桂、麻実共に「紙芝居のおにいさん」という呼び方ですっかり定着してしまっていて、以前本名を聞いたような記憶はあったのでしたが、それは脳の固着することなく忘却の彼方へと消え去っていたからでした。

 ともかく、送り主が誰なのかこれで判明しました。

 しかしそれのよって更なる疑問が浮上してきます。

「紙芝居のお兄さんからの物ってことは分かったけど、どうしてあたし宛てなんだろ? 普通に考えたらシロじゃないの?」

「そうよね、稲葉くんがあの人と一番親しいものね」

「なんでだろう?」

「中身を見てから考えてみたら」

「それもそうか、まだ何が入っているか分からないような状態だしね」

 ここの至っていよいよ割れ物注意のシールが張られた段ボールを開封しました。

 中に入っていたのは一升瓶です。

「これってお酒、日本酒か焼酎だよね。ということは、あたしじゃなくて本当は桂へのお届け物なんじゃない」

 この家で主にアルコールを嗜むのは桂でした。

「でも、私は日本酒も焼酎も呑まないけどな」

 桂はそう言いながら一升瓶を眺めます。

「あ、これ日本酒じゃない。一升瓶に入っているけどウィスキーだ」

 一升瓶=日本酒、焼酎という概念があり、そう思い込んでしまっていましたが、ラベルにはしっかりとウィスキーという英文字が記載されていました。

「じゃあ、やっぱり桂宛てだ」

 桂は、ウィスキーのハイボールを好んでよく呑んでいます。

「でもさ、それだったら私の名前で送られてくるよね。どうして麻実ちゃんなんだろ?」

「うーん、あの人のことだからちょっとした悪戯という線もあるけど、何かしら意味があるような気がするし……ああ、思い出したー」

「どうしたの? 急に大きな声で」

「これあたしの二十歳はたちの誕生日プレゼントだ」

 麻実はつい先日、八月の終わりに二十歳になったばかり。大手を振ってアルコールを摂取できる年齢になりました。

「そうなの?」

「うん、前に電話で話していたんだよね。面白いお酒を発見したから、二十歳になった時に送るって……そうかー、これがそうなんだー」

「たしかにウィスキーが一升瓶に入っているというのは珍しいよね」

「けど、何で一升瓶に入ってるんだろ?」

 二人の疑問はすぐに解決しました。

 ネットという文明の利器を使い、ウィスキーの名前で検索します。

 すると、製造を行っていたのは、三重県民ならば呑んだことはなくとも絶対に一度は必ずその名前を聞いたことがある日本酒、宮の雪、を作っている四日市にある酒蔵が出しているウィスキーであることが判明しました。

「ああ、だから一升瓶に入っているのかー」

 と、二人は納得。 

 納得しながら麻実は、二十歳のお祝いの贈り物を早速開封します。

「まだお昼前だよ、麻実ちゃん」

 午前ではあったが、日はもう真上近くにまで上っていました。

「ちょっと試飲するだけだから」

 慣れぬ手つきで一升瓶を重たそうに持ちながら、グラスの中にウィスキーを少量。

 口に含んで、

「うわー、キツイー」

 と、一言。

 二十歳になった瞬間からアルコール解禁であったわけではなく、その前から隠れて少しずつは呑んでいた麻実でありましたが、主に呑んでいたのは薄いハイボールとカクテル系、さすがにアルコール度数40%近いストレートのウィスキーは流石に強すぎました。

「はい炭酸持ってくるから。ストレートで呑むと胃を悪くするわよ」

 桂は冷蔵庫の中から常備してある炭酸のペットボトルを持ってきました

「ありがと。あ、桂も呑んでみる?」

「いいの。どんなウィスキーかちょっと興味あったのよね」

 この言葉を裏付けるようにペットボトルを持っていた手とは反対に手には空のグラスが。

 薄めのハイボールを少量作って二人で試飲します。

「ちょっと甘いような気が……呑みやすいかも」

「こう言ったら失礼かもしれないけど、意外と美味しいわね」

 と、それぞれ感想を。

 グラスを空にして試飲は終了となるはずでしたが、二人の会話は、このウィスキーにはどんなあてが合うのかというおつまみ談議に。

 談義で済めばよかったんですが、まだお昼前だというのに、実践してみることに。

 急遽コンビニに走り、色々と買い込みました。自分たちで作るという方法もあったのですが、ここは手間を惜しんで。それに一番料理の上手い人はいませんでしたから。

 クーラーをガンガンに利かせた部屋で、二杯目のハイボールを作り、買ってきた、唐揚げ、チーズ、カップ焼きそばで、真昼間の宴会を開始。

 おおよそ一年前の食生活に逆戻りを。


 二か月後、この一升瓶は空になりました。

 全て美味しく呑み干しました。

 が、新たな一升瓶を追加する、注文するということはしませんでした。

 呑みやすい、味も悪くないのに、何故新たに購入しなかったのかというと、それは一升瓶が女子三人の部屋にはあまり似つかわしくない、可愛くない、というのが理由でした。



この話のために買って呑みました。

美味しかったです。

ちなみに作中では一升瓶でしたが、普通のボトルサイズのサンピースも販売されています。

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