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仲良し? 3+2人組 2


 勉強会は午後からのはずだったのに珍しい組み合わせの二人組みがまず訪れた。靖子と美人みと。靖子はガーリッシュな装いで春らしい明るい色使いの服。美人は父親譲りの長い脚が栄えるジーンズ。見た感じ半ば強引に靖子が美人を連れて来たようだった。

 少し遅れて知恵とあやが到着する。文は可愛らしい服装で、知恵はラフな格好。

「やっぱり先に来てたな。美人が家におらへんから、なんや怪しいな思とったんや」

 玄関先で知恵は靖子に文句を言う。

 美人は靖子に無理やり連れて来られた。その理由は一刻も早く美月に会いたいため。しかし美月の家の正確な場所が分からない。それで知っている人間に案内してもらおうと考えた。知恵は論外、文は今一信頼できない。消去法で靖子は美人を選んだ。

「ええ、美人さんに案内していただきました。私の要望を告げると快く承諾してくれましたわ」

 実際には快く承諾とはいかなかったのであろう。美人の顔がそれを静かに物語っていた。

「アンタ、そんなにまでして美月みつきちゃんに会いたいんか」

「ええ、そうですわ」

 悪びれもせずに言う。その顔には一切の罪悪感はなかった。

「欲望に忠実だよね」

「……うん、そう思う」

 このままにしておいたら玄関前が騒がしくなる。御近所の迷惑になってしまう。

「あの、そろそろ中に入ったら」

 美月が声をかけるが一向は動こうとしない。玄関先でにらみ合ったまま。

「美月ちゃん、みんな来たんだったら早く中に入ってもらったらー」

 リビングから桂の声が聞こえた。この言葉で全員室内へ。

 勉強会の準備はすでに完了していた。いつも二人で食卓を囲んでいる机だけでは手狭に思い、追加で小さなテーブルを購入している。これはかつらが勉強会の報告を聞いた翌日にホームセンターで購入したもの。美月はいらないと言ったが、桂は「今後も絶対に必要だから」と言って、その意見を拒否した。

 桂には考えがあってのことだった。それは美月のため。

「それじゃ、私は向うで仕事しているから解らない箇所があった聞きに来るように」

「はーい、桂先生ー」

 知恵のおどけた返事に笑いが起きた。

 桂は美月が危惧したように試験の問題制作に追われていた。今も余裕があるような素振りを見せているが昨日の夜は遅くまで必死にパソコンのモニターと格闘していた。

 容姿、性格、趣味、出身地、さらに言えば実年齢も、バラバラな五人ではあったが悪い成績は取りたくない。その意見は見事に一致していた。学校なんてどうでもいいと考えていた美月も桂に恥ずかしい点数は見せられないと真剣に試験勉強に取り組んだ。

 しかし、やる気だけで万事上手くいくことなんて無い。空腹がやる気を削いでいく。育ち盛りの胃袋が試験勉強の進行を阻害した。

 困ったことに誰も昼食の準備をしていなかった。美月は急遽六人分の昼食の準備に追われた。買いだめしていたパスタが大量にあった。それから買い置きしていたミートソースのホール缶。これではまだ足りない。冷蔵庫の中を捜索すると大根と明太子が一パックあった。六人分以上のパスタを茹でる。

「あの、私にもなにか手伝うことありますか?」

 準備もせずに来たことに負い目を感じたのか、キッチンに立つ美月に靖子が声をかけた。

「それじゃ悪いけど大根をおろしてくれる」

「はいっ」

 頼みごとをすると嬉しそうに靖子が大根をすり始める。けど、その動きは少しぎこちなかった。

「ああ、見とれへんな。大根はな、こうやって勢いよく摺るんや」

 見かねたように知恵が靖子から大根を奪い取りすり始める。

「……だって、したこと無いんだもん。しょうがないじゃない」

「別に責めてへんて。それより、アンタラも手伝いな。みんなでサッサと済まして勉強再開するで」

 知恵の一声で文と美月も手伝いに入る。一躍、勉強会が料理会へと変貌する。

 指示を出している美月の頭の中に警告音が鳴り響いた。この近くにモゲタンの追っているデータが活動をしていることを知らせる信号だった。

〈近くに反応がある。すぐに出るぞ〉

(待て。今は動けない)

 こんな状況で姿を消せばおかしなことになる。それに桂もこの場にはいる。美月はモゲタンの言葉に従いデータの回収に出ることを躊躇った。

〈早くしろ。急がないと大きな被害を出す可能性もあるぞ〉

 言われなくても分かっていることだが、美月は動けないままだった。

 誰にも聞かれない短いやり取りの最中に警告音は消えてしまった。

(消えた。……こないだみたいに他の誰かに回収されたのか)

〈いや、違うな。回収されたわけでもないし、感知できない場所に移動したわけでもない。この反応は途中で存在が消えたような感覚だ〉

(間違いだったんじゃないのか。まだ、お前の性能は本調子じゃないんだろ)

 誤作動を指摘する。モゲタンは以前自分の能力が完全に回復していない旨を告げていた。

〈確実に近くにいた。しかし、急に反応は消えた。ワタシにはそこまでしか判断できない〉

 脳内で会話をしながらも手際よく手を動かす。ミートソースの缶を湯銭で暖める。湯で上がった三分の一のパスタをフライパンに乗せ明太子と絡ませ炒める。次の三分の一のパスタの上にミートソースをかける。最後はおろしてもらった大根おろしをかけて、その上にツナ缶を乗せる。簡易ではあるが三種類のパスタを作る。

 これは以前からのレパートリー。美人の父に料理の指導を受けていたが、簡単には作る種類は増えない。

「急な注文やのに手際ええな。それに美味いし」

 桂を呼んで六人で食卓を囲んでパスタを食べている最中に知恵が褒めた。

「簡単だから」

 答える。実際に簡単なものばかりで手間はまったくかかっていない。それに手伝いもあってそれほど労力も感じなかった。

「いくら簡単でも作るのが偉いんや。ウチはこんなん絶対に無理やからな。言われたことを手伝うのが関の山やで。そや美月ちゃん、ウチの嫁になってや」

 笑いながら知恵が言う。

「それじゃあたしのー」

「ズルイですわ。美月ちゃんは私と一緒になるの」

 嫁取り宣言に文が参戦して靖子がそこに割って入った。

「それは駄目。美月ちゃんは渡さないから。いなくなったら私は生活できないもん」

 まさかの桂の参戦。両手で大きくバツ印を作る。その言葉に美月は照れてしまった。顔が勝手に朱に染まり下を向いて、静まるまで誤魔化そうとした。

「なんや、美月ちゃん照れとるのか」

 目聡く見つけた知恵が指摘する。

「照れてる美月ちゃんも可愛いわ。ああ、可愛いで思い出しましたけど今日はゴスロリの服じゃないのかしら。私見たいですわ」

 美月の今日の服はTシャツとショートパンツという動きやすくラフなものだった。

 その言葉に反応を示したのは桂だった。

「ほら、友達も見たいって言ってるよ。ねぇ、みんなも見たいよね。美月ちゃんあれから恥ずかしがって、袖を通そうともしないんだから。ねぇ、もう一回着てみてよ。せっかく可愛いのに。それにみんな期待してるんだから」

 思わぬ展開になり照れが狼狽へと変化した。たしかにこの容姿ならばあの服は可愛いし似合うと美月は思っている。しかし着るのには若干の抵抗がまだあった。

 それでも桂を始め五人の要望により、渋々袖を通すことにする。一人では上手く着られないので桂に手伝ってもらう。その際靖子は手伝うと申し出たが知恵によって却下された。

 まるで着せ替え人形として遊ばれているように美月は感じた。

 恥ずかしさで視界がゆがむような気がした。前がまともに見えない。

「うわ、予想以上にめっちゃ似合ってるわ」

 そんな美月の気持ちを知らずに知恵が感嘆の声を上げた。

「前は遠くからだったから、よく見えなかったけど。いいなー、私もこんなの着ようかな」

「……羨ましい。……お人形みたい」

 美人は自分の大きな身体と見比べて言う。その声は本気で羨ましそうだった。

「キャー、すごく良い。このままお持ち帰りしたいくらい。ねえ、写真撮ってもいい?」

 携帯電話を取り出した靖子は美月が承諾する前にすでシャッターを押していた。興奮していた。それを見て桂も撮り始める。

「やっぱり良いわ。それじゃ美月ちゃんはこのままの格好で今日は過ごすこと」

「えっ? ちょっと待って」

「賛成ー」

 美月が否定しようとしたが靖子の声にかき消されてしまった。このまま着続けなければいけないはめに。

 試験勉強を再開する。一応真面目に取り組む。其々の得手不得手が一緒にしていると分かってくる。靖子は優等生だった。どの教科もさほど苦にはしていなかった。知恵は文系が得意だが理系科目は苦手。美人は全ての教科で飲み込みに多少の時間を要したが要領を得ると問題を自力で解いていった。一番驚いたのは文、名前とは正反対で理数系が得意、名は体をあらわすと逆だった。美月は二度目の中学二年生なのに可も無く不可も無く。


「なあなあ、ちょっと」

「何よ? 私は今アンタの相手なんてしてる時間は無いの。可愛い美月ちゃんを両目と瞼の裏と、それから脳裏にしっかりと焼きつけないといけないの。この瞬間を大事にしてるんだから」

「ええから話聞け、蓬莱」

「何よ?」

「アンタホントに美月ちゃんのこと狙ってんのか」

「そうよ、悪い。女同士だからって問題あるの。あのね、美月ちゃんは私にとってのナイトなの、騎士なの、白馬の王子様なのよ。そこらへんの男子なんて目じゃないのよ。可愛いだけじゃなくて強くてかっこいいんだから」

「別にアンタの性的な嗜好についてはとやかく言うつもりはない。けど、見てみい」

 知恵が小さく指差した先には桂の隣で嬉しそうにしている美月がいた。その顔は教室では見せるものとはまるで違っていた。

「美月ちゃんが好きのはアンタやあらへん、桂さんやで。それは見とれば分かるやろ」

「そんなことわざわざ指摘されなくても気付いてるわよ」

 何を今更といった感じで靖子が言う。

「……アンタ。マジで美月ちゃんのこと好きになったんやな」

「今はまだ勝ち目はないわ。確かに桂さんは大人で美月ちゃんとお似合いだと思う。でもね、今大人ということはこれから年寄りになるということよ。だけど私は美月ちゃんと一緒に美しく成長する。最終的に愛を勝ち取るのは私よ」

 言い終わるとすくっと立ち上がる。そして桂に向けて右指の人差し指を立て伸ばした。

「私、蓬莱靖子は桂さんにライバル宣言します」

「……はい?」

 状況の飲み込めない桂が首を傾げた。そして同じく美月、文、美人も先程の二人の会話を聞いていないので戸惑ってしまう。

「コイツ、ホンマもんのアホや」

 一人だけ状況を把握している知恵が呆れたように小声で言った。


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