表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
226/333

last 2


 敗北した美月は、除去されるわけでもなく、排出されることもなく、複数のガーディアンに囲まれながら、まるでそれは美月を守護するように、月の内部へと落下し続けていた。

 先程まで激しい戦いを繰り広げていたというのに。

 それが一転。

 では、美月はこの状況下で何をしていたのかというと、意識を失った状態になっていた。

 これはガーディアン達との戦いで、右手を失い、右脚は膝から下がなくなり、左脚は付け根付近から切断され、かろうじてまだ原型を留めていた左腕一本だけになっても、美月の中でアドレナリンが噴出し、痛みなんか感じずにまだまだ戦いを、拘束されながらも反撃を試みようとしたのだが、これ以上の戦闘は生命の危険性が高いとモゲタンが判断し、強制的に美月の意識をシャットダウン、気絶させた。

 そんな美月とモゲタンを連れ、ガーディアンの群れはより奥へと進行していった。


 眠りについていた美月はモゲタンの声によって目覚めた。

 だが、まだ意識は混濁、朦朧としており、声という認識はあるものの、その内容は理解できない。

 そんな美月にモゲタンは声を止めることなく、語り続ける。

 朦朧としていた意識が徐々に覚醒していく。

 音が声という認識になり、徐々にその内容も分かるように。。

 モゲタンはしきりに美月に謝罪の言葉を。

〈スマナイ、ワタシは間違ってしまった〉

 ハッキリと理解できた言葉に、美月は一体モゲタンは何についての謝罪をしているのかまだ少し朦朧としている意識下で考え、やがて、

「俺の意識を勝手に落としたことか?」

 と、脳内で質問すればいいのに、まだ上手く動かない口で訊く。

 訊きながら、美月はモゲタンの判断は間違っていなかった。あのまま戦闘を継続していたとしても、そう遠くない未来にはこの小さな身体は限界を超えて崩壊してしまっていたであろう。それでは目的を果たすことができない。敗北したとはいえ、まだ身体が残っている今の状況ならば、反撃の機会を見つけ、逆襲することも可能。

 そう考えていた。

 だが、脳内でモゲタンは、

〈そうではない。キミをここに、月に連れてきたのはワタシの判断ミスだ〉

「どういうことだ?」

 月を目指さなければ、他のデーモンによって受精が行われ、地球という惑星の未来がなくなってしまうかもしれない。

 なのに、モゲタンは美月が月に来たことは、それを進言した自分の言葉は、判断ミスだと言う。

〈ワタシ達はバグではなかった〉

「はあ? バグだから変な本能みたいなものに目覚めることなく、破壊するために月へとくることができたんだろ」

〈麻実の言う通り、本来の目的に目覚めなかったワタシ達はバグという一面もある。だが、ワタシ達も本質的には他のデーモンと何ら変わりはない。データを回収し強くなり、そしてかつての仲間の力を奪い、さらに強い存在へ、卵子のようなものが求めるような強い精子になる〉

「はあ?」

〈ワタシ達は今、ガーディアンによって捕らえられ、内部へと連れられている最中だ。つまり、ワタシ達、といよりもキミが卵子と結合する精子になってしまう〉

 それを阻止するために来たのに、このままではミイラ取りがミイラになる、とモゲタンは言っている。

 このままでは未来を壊す張本人になってしまう。

 回避しないと。

 美月は、

「何か方法はないか? この状況から脱出する手段は?」

 と、訊く。

 それに対してモゲタンの答えは、

〈現状では何も手段はない。今、キミを生かすためにワタシの力の全てを注いでいる、反撃、脱出をするような術はない。それに、仮にそれができたとしても、また夥しい数のガーディアンによってキミの身柄は拘束されてしまうだろう〉

 冷酷な、無慈悲なものであった。

「……なら……お前の力を切って俺を殺すというのはどうだ?」

 死んでしまえば、精子としての役割を果たさないのではと美月は考えた。

〈無理だな、ワタシがキミを生かすことを諦めてもおそらくキミの命が尽きるということはないだろう。ワタシ以外の別の存在がキミを生かすための行動をするだろう〉

「……そうか」

 落ち込んだ声で美月は言う。

 事態を回避するためにここまで来たのに、ここに来たことが裏目になってしまう。未来を壊す存在の贄に自分がなってしまう。

 最後のスイッチに自分がなってしまう可能性が濃厚。

 忸怩たる思いがあふれ、悔しさに身悶えしたくなるが、それをするだけのことさえままならないような動かない身体に自身の力の無さ、不甲斐なさに苛まれた美月は、フィクションの世界ならば、こんな身体であってもまだ諦めない勇気や、闘志があればまだ戦える、勝機を見いだせるはずと思いはしたものの、さりとて現実はそんなに都合よくいかないことはよく知っている、それくらいの人生経験は重ねてきた、このまま為す術なく卵子のようなものの中に取り込まれ受精し、そしていつになるか分からない未来で月を壊して誕生し、地球に悪影響を及ぼす、もしかしたら破壊するかも知れない存在になってしまうかもしれない。受け入れたくないが、それに抵抗する武器はもうない。無力感に打ちひしがれそうになってしまう美月の脳内にある閃きが。

「……ある……武器はまだ」

〈確かに……だが、それは非常に危険だ。キミが消滅する可能性は大だ〉

「……構わない。桂の幸せが、未来が守れるのなら……そのために来たんだ。俺一人の……じゃないな、二人の犠牲で済むのならこれほど安いものはない。モゲタン、悪いけど付き合ってくれるか」

〈了解だ、相棒。ワタシはキミの決定に従おう。だが、それを実行するには早すぎる。機会を待て、有効なタイミングで作動させるべきだ〉

「ああ」

 脳内で今後の作戦会議を。

 そして美月とモゲタンは、美月の肉体の修復をしながら、その機会をうかがった。


 その機会は意外と早く訪れた。

 美月を連れたガーディアンの群れは、この空間の最奥、つまり卵子のようなものが存在する場所へと辿り着く。

 ガーディアンから伸びた触手のようなものが拘束した美月の身体を卵子のようなものへと運ぶ。

 この時、美月は自分を今から取り込もうとする存在を目の当りに。 

 しかし、目に映るのは白い壁のようなものだけ。

 あまりの巨大さに、その全容は分からない、全体像がつかめない。

 一部が口のように開き、美月の小さな身体を呑みこむ。そして触手のようなものの拘束から解放された美月は泡のような膜に包まれて、奥へ、中心部へと運ばれていく。

〈まだだぞ〉

 逸りそうになる美月の脳内でモゲタンが諫めるように言う。

 最高の、最良のタイミングで切り札を、最後の武器を作動させるにはまだ早かった。

「分かってるって……あ、そうだ、いざという時に俺が躊躇って失敗しないように痛みを切っておいてくれないか」

〈了解だ〉

 実行に移す段になって、これから起こすことによって痛みがあることに恐れが出てしまい、ほんのわずかな時間かもしれないが美月に躊躇いが生じてしまうかもしれない。そのほんのわずかな時間が、もしかしたら決定的な、致命的な遅れになり、起死回生に一手は失敗してしまうかもしれない。

 そうならないために、美月は自身の痛覚を、感覚を遮断することをモゲタンに頼んだ。


 美月を包んでいた膜が消失する。

 辿り着いたデーモンと結合するための、核、ともいえるような場所へと。

 こここそがデーモン達が目指した最終目的地である。バグである美月とモゲタンにも、本能みたいなものが教えてくれていた。

〈今だ〉

 脳内でモゲタンの合図が。

 二人はこの瞬間を待っていた。

 欠損した四肢の中で、まだ比較的無事な、それでも損傷だらけなのだが、左の腕を美月は大きく振り上げる。

 叫び声をあげながら、自らの腹部に左腕を勢いよく突き刺す。

 声を出す必要はなかった。だが、この声は怖じ気付きそうな自らを鼓舞するために、無理やり発したもの。

 突き刺した左手で自身の腹部をまさぐり、球体を引っこ抜く。

 体内から引きずりだした物、それは核融合のコアだった。

 これが美月とモゲタンの最後の武器。

引き抜いた、左手で掴んだ核を、美月は前へと大きく突き出し、放り投げる。

「モゲタン、頼む」

 核融合のコアを暴走させ爆発させる。その為の合図の言葉を美月は発したのだが、これまでのダメージの蓄積、そして腹部を傷付けたことによって声にならなかった。

 だが、モゲタンには届いた。

 

 卵子のようなものを、美月を呑み込む大爆発が起こった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ