表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
220/333

秘密会議


 電話で、麻実のあまり上手くない、遠慮なしにいうと、下手な、要領をえない、言いたいことが先走り過ぎて相手に全く伝わらない話を聞きながら、美月は我慢強く、忍耐強く、粘り強く耳を傾けながらも、実はもう一つ並行して行っていることがあった。

 それは脳内でのモゲタンとの会話。

 麻実の話を、解きほぐしていく、理解していくうちに、分かってくる真実。

 これについてモゲタンと二人だけの会議を。

 RPGのようだというのは言い得て妙だと思え、終盤の精子に準えたのには、そうかもしれないという納得が美月の中にあった。

 そして麻実の話の終盤、真相が明かされ、自分達がバグのような存在だと知らされた美月は脳内でモゲタンに、

(俺達のほうがバグか。まあ、そうかもしれないな)

〈ああ、そうだな。確かにワタシは異質な存在だ〉

(でも、こう言っちゃなんだけど、バグで良かったかも。ポップさんのことは残念だったけど、麻実さんは手にかけずにすんだ)

〈それはそうだな。だが、いいのか?〉

(何がだ?)

〈バグというのはキミよりもむしろワタシだ。今はまだ正常かもしれないが、いずれ他のデーモンのようになるかもしれない。いや、もうすでになっていて正常なふりをしてキミを騙している可能性もあるぞ〉

 そう言われて、確かにその可能性もあるなと美月は一瞬思いはしたものの、けれど、もし仮にそうだとしたら、モゲタンが他のデーモン同様に力を求めているはずだから、あのB-29の核融合を取り込むよう上手いこと進言しているはずだし、それに色々と美月を騙し画策しているはず。

 けど、その兆候は特にない。これは単に気がついていないだけなのかもしれないが、それ以上に美月はモゲタンを、

(まあ、その可能性は否定できないけどさ、お前を信じているから)

 あの時、最後まで聞けなかったモゲタンの言葉。

 だけど、何を言いたいのか、その後に続く言葉を美月は予想できた。

 モゲタンは、自分と一緒にいることを望んでいる。

 なら、自らの人格を消失させてしまうような愚かな選択はしないだろう。

〈ありがとう……ワタシを信用してくれて〉

(長年……というほどでもないけど、それでも苦楽を共にしてきた相棒だからな)

〈そうか〉

(さて、それはまあ一旦置いておいて問題はアレだよな)

〈ああ、確かに問題だ、どの程度の影響を及ぼすのか分からないからな〉

 美月達が問題にしているのは月。

 月へと辿り着いたデーモンが月内部の卵子と受精し、受胎して、それが誕生した時に、月がどの程度壊れ地球にどの程度の影響を及ぼすのか。

 麻実の言葉だけでは目下のところ不明。

(お前の中に、実はひっそりとその辺りの情報が隠れているとかいう都合の良い展開はないよな流石に)

〈ああ、世の中ご都合主義とはいかない〉

(なら、麻実さんからもっと情報を聞きださないとな)

〈そうだな。今はまだ情報が不足している。情報過多はそれはそれで問題だが、今はあまりにも分からないことのほうが多すぎる〉

 二人は麻実からより多くの情報を引き出そうとしたが、その目論見は失敗に。

 電話を切られてしまう。


 その後も脳内会議を続行。

(正直どれくらい影響があると思う?)

〈分からない、というのが正直な話だ。麻実の話だけでは推測するのは難しい〉

(そうか。……だったら、もしかしたら俺達の心配は杞憂に終わるかもしれないよな)

〈それはどうかな、規模の大小は現段階では分からないが、それでも大小、どの程度なのか見当つかないが、何かしらの影響が地球に及ぶことだけはまず間違いないだろう〉

(そうなのか? 小さい破片とかなら問題ないようにも思えるんだが)

〈そうだな。月全体が殻だと仮定した場合、誕生と同時にその破片が地球に大量に降り注ぐ。それはキミにも想像できると思う〉

(まあ、それくらいなら俺の頭でも分かるよ。お前の言う通り、地球の色んな場所に月の破片が落ちるのは危険だけど、大半が大気圏で燃え尽きたりして案外大きな被害を出さないんじゃないかな)

〈その考えは楽観過ぎる〉

(そうだよな、自分で言っておいてなんだけど、スペースコロニーが落ちたり、アクシズが落ちたりするだけで冬の時代が来るんだもんな)

 ガンダムの描写を思い出しながら美月は脳内で発言。

〈それもあるが月がなくなるということは、生態系に大きな影響を及ぼす〉

(……そうか、潮の満ち引きか)

〈そうだ。そしてこの現象は月の質量によって引き起こされるもの。月全体を壊してしまうことはなくとも、それでも質量の変化は大きいはず。そうなれば、多くの生物が悪影響をうける、絶滅してしまうかもしれない。そして最悪の場合、人類にも〉

(……止めないとな)

 三十年近く生きてきた人生、稲葉志郎だった時に出会った人達、伊庭美月になってから交流のあった人達の顔を思い浮かべながら。

〈キミがそれを望むのなら、ワタシは協力しよう〉

(頼む)

〈だが、いいのか?〉

(何がだ?)

〈阻止するための行動をするということは、他のデーモンを倒すということだ〉

 美月は即答できなかった。

 直接の面識こそないものの、ネット上で交流のあった人達。

 その人達を手にかける、殺めてでも絶対に阻止するという決心がまだつかない。

(けどさ、正気に戻るかもしれないだろ。……麻実さんは途中で戻ったし。……ポップさんのことは……それでも最後はあの人の希望通りに人間として死ねたんだから)

〈それに関してだがワタシはそう都合良くいかないだろうと予測している〉

(……やっぱり楽観的過ぎるか。……それで、お前の予測は?)

〈キミにとっては非常に受け入れがたいものなのだが、それでも構わないか〉

(……いい、聞かせてくれ)

〈麻実がすぐに正気に戻ったのは、いつもの人格を取り戻したのは、彼女がこれまでデータを一体たりとも回収しなかった、自身の中に取り入れなかったからだと考察した。彼女の説明に準えば、経験値を獲得していない。またポップ、彼もそれほど多くのデータを回収していないはず。だからこそ、最後の最後ではあるが正気になった。しかし現在、月を目指している連中は多くのデータを狩った者達だ、それだけではなく多くの仲間をその手で葬り、力を奪った者達だ。力を多く得た者ほど戻りにくいはず、キミが望むような展開になる可能性は極めて低いだろう〉

 このモゲタンの意見に美月はしばし思案を。

 まだ覚悟を決めきれていない。

 少人数の犠牲で、大多数の命を救えるのであれば、数人の命を切り捨てるべきである。

 頭の片隅では、それが正しい選択とは思いつつも、覚悟が決まらない。

 ネット上でのやり取りであったとはいえ、同じ目的のために共に活動してきた仲間である。そんな相手を攻撃し、破壊するのには躊躇いが生じてしまう。

 しかし、行動しないと多くの犠牲が。それだけで済むのならまだ不幸中の幸い、地球という惑星が壊滅、消滅してしまうかもしれない。

 それを止めることができるのはどうやら自分一人。正確にはモゲタンと一緒にだが。

 それも分かっているけど、まだ決めきれない。

 さらに逡巡を。

 咎人になる覚悟を。

 もうすでに二人の命を奪っている。一人は不可抗力で、もう一人は自らの意思で。

 さらにその人数が増えたところで、罪の意識に苛む、苦しむのは自分だけだ。

 それくらいの贖罪で多くの人が、この少女の姿になってから知り合った人達の人生が。

 そして今、自分の横に居て心配そうな、不安そうな顔をしている最愛の人、桂の未来が守れるのなら安いものである。

〈キミ一人が罪を、責任を負う必要はない。ワタシも一緒に背負おう〉

(……ああ、頼むぞ相棒)

〈了解だ〉

 美月の覚悟が決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ