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顛末、そして…


「よし、これで終わり」

 美月は、無事データの回収に成功。

 そしてそのまま言葉を続けて、

「しかしこれならさ、ズィアさんとポップさん、二人にご足労をかける必要はなかったよな」

 ヨーロッパからはズィア、アメリカからはポップ、美月と面識があり、なおかつ共闘した経験のある二人が、今回の事態、原爆を搭載したB-29への対処のための応援で日本へと駆け付けることになっていた。

 だが、事態は苦戦こそしたものの、終わってみれば意外とあっさりと、地形が一部大きく変化したものの、人的や経済的な被害はほぼなく、かつ美月一人で対処できた。

「もう二人とも、飛行機に乗ったのかな?」

 日本時間で本日未明に、二人が日本へと跳ぶことは決定していたのだが、それはいつ出発なのかは決まっていなかった。二人ともに異口同音に「早く向かう」とは言っていたが、正確にはチャットなので文字だのだが、何日発の、どの便の飛行機に搭乗するかまでは未定であった。

〈それは分からない。が、一ついいか〉

 左腕のクロノグラフモゲタンが美月の脳内で。

「何だ?」

〈まだ、解決、終了はしていないぞ〉

「は? データは回収しただろ。これで脅威はなくなったんじゃ」

〈たしかにデータを回収することには成功した。それによって想定された被害を回避することにも成功した〉

「だったら、後はなにがあるんだ?」

〈この機体をどうするか? もっと正確に言えば、核融合というシステムをどこに保管するのか〉

 データは回収されたものの、未だB-29の機体は健在。現在は都内の山間部を、モゲタンのコントロールによって飛行中。

 そして、それよりも厄介なのは、人類未知の科学、核融合の管理。

「そうだな、このままこの辺の山に機体を着陸させて、そこに隠しておくのなんて流石に駄目だよな」

 人里離れた山奥に隠したとしても、この先ずっと未来永劫人に見つかることなく隠し通せるなんていう保証はない。それでなくとも、先程の戦闘で、極一部の人間には何かがあったと認識されているはず。そのうちの何人かが、山に分け入り探索して、発見してしまう可能性が大である。

「見つかっても、絶対に手が出せない、触れないように、封印してしまうか」

 美月の脳内で咄嗟に立案した計画は、自身の能力の円盤状の盾を出す力を使用し、それによってB-29の機体を囲い込み、他の人間には触れさせない。

〈その案は難しいな。たしかに強固で、人の力で排除することはできないだろう。だが、長時間継続して展開するにはキミのエネルギーを大量に使用しなければならない。さらに、キミはこの土地から離れることができなくなってしまう。いいのか? 桂と別れて生活するのは〉

 これまでずっと使用してきた美月自身も知らなかったことだが、円盤状の盾は、ある程度の距離が開くと、といっても数キロ単位なのだが、消滅してしまう。

「そうなのか。……だったら、このまま飛行を続けて太平洋に出て、海の中に隠してしまうのは」

 山が駄目ならば海に。

〈それも難しいな。ワタシのコントロール下では、この機体をデータのように飛行させることは不可能だ。海上に出る前に多くの人に目撃されてしまう〉

「なら、俺の力で空間跳躍を何度かして海の中に持って行くのは」

〈キミが万全の状態であったのならば、それは可能だったかもしれない。だが、現状ではそれだけのエネルギーはキミの体内には残されていない。また、補給食も足りないような状態だ〉

 持ってきた補給食の大半はもうすでに美月の胃の中へと消え、吸収され、活動するためのエネルギーへと変換されていた。

「これも駄目か。……なんか良い案ないか?」

〈あるぞ。だが、それにはキミの協力が必要だ〉

「俺にできることなら」

 了解の返事を聞き、モゲタンは美月の脳内で説明を始めた。


 モゲタンが示した場所、それは地下であった。

 数億年という長い年月によって形成された地層には、いくつかの空洞が点在していた。

 その中の一つ、人がまず入っていけないような地下深くの空洞にB-29の巨大な機体を隠すことに。

 だが、飛行して行けるような場所ではない。

 そこで、美月の能力、空間転移を活用。

 しかし、飛びながらそれを行った場合、慣性の法則が働き、B-29は速度を維持したまま地層、もしくは岩盤に衝突してしまうという事態に陥ってしまうため、一度機体を着陸させ、着陸したのは陽電子砲で消し飛んだ山、停止した状態で機体ごと空間跳躍を。

「今度こそ、本当に完了。……あ、麻実さんに定時連絡をするの忘れていた」

 事態をようやく解決し、安堵した瞬間、美月はデータの戦闘が開始されてから、一度も麻実に連絡をしていないことを思い出した。

〈それは仕方あるまい、余裕がなかったからな〉

 想定外にあっさりと解決はしたが、戦闘中はそれでもひっ迫したような状況で、そんなことに気が回るような状態にはなかった。

 データとの戦闘に必死であった。

 今更とは思いつつも、終了した旨を伝えるべく、美月は麻実に連絡を取ろうとした。

 だが、繋がらない、電波が入らない、圏外になっていた。

〈地下深くだからな。ワタシの能力では、この位置から連絡を取るのは不可能だ〉

「じゃあ、地上に戻ってから改めてするか……と、戻る前に一つ相談が」

〈なんだ?〉

「アレの報告をしたほうがいいのかな?」

 アレとは核融合のこと。

 これまで情報をずっと共有してきた。それは麻実だけではなく、世界中のデーモンと。

 しかし、この情報を報告し、共有していいものだろうかと、美月は悩む。

 人を遥かに超えた力を有するとはいえ、中身は人間。

 未知の科学には迂闊に手を出さずこのまま地下に封印するという美月の案に全員が賛成してくれるのであれば、何ら問題はない、悩む必要なんか皆無。しかしながら、力というのは麻薬に近いようなもの、ついそれを求めてしまうようなことも十二分にあり得る。力を、無尽蔵のエネルギーを誰かが得ることで物事が好転するのならばいい、だけど世の中一筋縄ではいかない、おとぎ話の世界ではないことを、美月は知っている。

〈キミの懸念は十分に理解した。麻実に関しては大丈夫だと思うが、他のデーモンに関しては、大半がチャット上のやり取りだけで判断がつかない〉

「まあ、麻実さんは飛べれば十分と公言していたからな……けど、他の人はどう考えているか分からないよな。……どうしようか……」

 美月は話しながら考える。

〈悩む必要はないぞ、キミの考えは間違っていない〉

「そうかな」

〈ああ。それにだ、他のデーモンがこの力を自らの中に取り込んだ時、核融合はワタシの制御から外れることになる。その場合どうなるのか、周囲にどんな影響が出るのか、現段階では予測が不可能だ。何の問題もないこともあるし、キミが想像した以上の悪影響が起きうる可能性も十分にある。この力をもうしばらく観測、観察すれば、ある程度のことは、どのような影響が出るのか、判断できるかもしれない。だから、それまでは内密にしておき、悪影響が出ない可能性が強かった場合に公表するというのはどうだ〉

 モゲタンの提案に美月はしばし思案を。

 やがて、

「そうするか。……あ、一つ聞いてもいいか?」

〈構わない〉

「さっきさ、ここから携帯を繋げる能力はないって言ったよな」

〈ああ、それを行うことはできない〉

「なのに、観測、観察はするんだよな。それって、何日かおきにここに様子を見に来る必要があるのか?」

 常人ならば、この場に来ることは非常に困難、ほぼ不可能である。だが、美月の力ならば、さほど時間を必要とせずに来ることは可能。しかしながら、利己的な思考なのだが、目前に迫った受験勉強の時間を割いて、幾度となくこの場に来るという行為に、貴重な勉強時間を無駄にしてしまい、それによって志望校に落ちてしまうのではという悪い予感めいたものが美月の中に生じてしまう。

〈それについては心配ない、常時監視、観測できる〉

「どうやって?」

 前の説明と食い違っている気がして訊く。

〈たしかに現段階では、電波は届いていない。だが、帰還時に中継用のナノマシンをいくつか設置する。これによって常にモニタリングすることが可能だ。キミがわざわざこの場まで足を運ぶ必要はない〉

「そうか」

〈だから、帰還時はワタシの案内に従ってくれ。適当に設置したのでは、意味のないものになってしまう〉

「了解」

 美月はモゲタンのナビゲーションに従い、地上への帰還のための空間転移を行った。


 本来ならばほんの一瞬、かかっても数秒で美月の小さな身体は地表へと舞い戻ることができるのだが、モゲタンの指示、及びナビゲートで、地下空間を右に左に上に下に移動し、中継用のナノマシンを適切な場所に設置しながら、時間をかけ、ようやく日の当たる世界、地上へと帰還した。

 と、そこへ麻実からの連絡が。

 B-29との戦闘中、中断していた連絡、事態が解決したことを報せなくちゃとは思ってはいたが、地下ゆえに電波が届かず連絡ができなかった美月は、桂の電話の件といい、今日はかけようと思うと相手からかかってくる日だなと思いながら出る、

『ああ、シロ。良かった、やっと繋がった』

 麻実の焦るような、切羽詰まったような声が。

「どうしたの麻実さん? データは無事回収したよ」

『大変なのよ、今すごく大変なことが起きてるの』

「だからどうしたの? 落ち着いて説明して」

 焦るあまりに、言いたい言葉が出てこない麻実に、落ち着くよう促す。

 美月の言葉を受け、電話の向こうの麻実は大きく深呼吸を一つ、そして、

『世界中でデータが大量に出現したの』

 麻実の声が受話器を通し美月の鼓膜に響いたと同時に脳内でモゲタンの声も、

〈データの反応を探知した。しかも複数、コチラに向かって接近中だ〉



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