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超兵器


 モゲタンから分析を聞いた瞬間、美月は眼前の徐々に小さくなっていく、これは美月が落下中であるため、B-29の胴体部分に大量の水が積載されている図を想像した。

 二度目の中学生活で、原子力の仕組みを少しだけ学習したことがあった。

 原子力エネルギーの簡単な原理は、原子力によって大量の水を沸騰させ、蒸気にし、その蒸気でタービンを回転させ、それによって発電を行う。

 モゲタンの言葉の、核融合、なんとなくだけどSF関連のアニメで聞いたような記憶が美月にはあった。だが、その仕組みは全然分からずに、先に述べたような現行の原子炉の延長線上にあるような、もっと凄い機構システムを想像し、だったらあの中には大量の水があるんじゃないのか、と考えた。

〈それは違うぞ〉

 モゲタンの声が美月の脳内に。

 その後、自由落下中にもかかわらずモゲタンの講義が行われる。

 平時であったならば、もしかしたら核融合の説明を、流石に完全に理解したとはいえないまでも、ある程度は分かったかもしれない。だが、今は非常時。

「とりあえず、原爆が落ちる可能性はなくなったけど、その原爆を自己改造かなんかして動力源にして活動しているんだな」

〈まあ、今の段階ではそう認識してもらって結構だ〉

「それでか、世界中を飛び回ることができたのは」

 自分は、すぐにエネルギー、カロリーを枯渇してしまうのに、相手は無尽蔵に近いような活動源を持っている。長期戦は不利になるな、と考えながら美月は言う。

〈それだけではないぞ〉

 そんな会話をしている最中にもB-29からの攻撃が。

 自由落下中の美月めがけて、機銃が斉射される。

 降りかかる銃弾の雨を、美月は円盤状の盾を幾重にも、先程までよりも厚めにして構築。

〈先程から機銃の威力が上がっているだろ〉

「ああ、だから枚数を増やした」

〈機銃の形こそは、遭遇した時から変化していないが、発射方法が変更されている〉

「どういうことだ?」

〈あれは核融合によって生じた電力を使用したレールガンだ〉

 レールガンについては、核融合よりも多少は知識があった。

 去年、知恵に勧められて観たアニメの主人公が使っていたもの。

 そのアニメでは、中学生の少女が、自身の発電能力を用い、コインを電磁加速して射出する技。

 この原理はアニメオリジナルのものではなく、現実の世界でも研究がなされているということも、同時に知恵から教えてもらった。

〈言っておくが、アレはコイン、硬貨ではないぞ〉

 B-29から撃ちだされているコインが、もし五百円玉ならば、ものすごい金額になるなと、そして戦争は武力よりも資金力がものをいうんだなと、この緊迫したような状況下で美月は変なことを考えてしまい、それをモゲタンに指摘される。

「分かってるって。それはともかく、たしかレールガンってもっと威力のある兵器なんじゃないのか」

 まだ自由落下中の美月はモゲタンに質問を。

 速度も威力も、通常の兵器とは比べものにならないという知識、知恵からの受け売り、が。

〈おそらくだが、威力よりも速射性を重視していると思われる〉

「質より量ってわけか」

〈だが、先程の例から鑑みても速度と威力が上がる可能性は大だ〉

「なら、威力が上がる前に倒すだけだ」

 空中で美月は反転し、円盤状の盾を足裏に展開させ、それを蹴って、上昇を開始した。


 接近を試みるが、弾幕は厚くなる一方。

 美月はB-29に近付くことができない。強力なレールガンによって接近を妨げられる。

「どんだけ弾があるんだよ」

 迂闊に接近すると、レールガンの餌食になってしまうので、距離をとりながら美月は愚痴を。

〈不明だ。おそらくだが、撃ちだされている物体は弾丸ではなく、B-29の機体自体だ〉

「どういうことだ?」

〈撃ちだされた物体を分析したが、あれはジュラルミンだ。B-29の外装に使用されている素材だ。おそらくだが、形はそのままで外装は別の物質で構成されているのだろう。何度も交差して観察したのだが、あの機体の翼面は通常の飛行機とは違う動きをしていた〉

 飛行機は翼のフラップを上下させたり、尾翼のラダーを左右に動かしたりと、一部分を可動させて、飛行を行っている。

 だが、このB-29は翼面全てが動く。それも機械的な動きではなく、滑らかな、うねるような動きで、機体を制御し、本来のB-29では絶対にありえないような飛行を。

 その運動性能ゆえに、美月の接近は悉く躱され続けていた。

 その上、想定以上の弾数を保持しているとみえる。

「弾切れを期待するのは駄目か」

 景気よく発射し続けてくれたおかげで、弾切れという事態に陥ってくれないかと、心の片隅で少しだけ期待したりしたのだが、その希望は叶えられそうな展開ではなかった。

〈無駄に終わるな、その期待は〉

「しょうがない。じゃあ、どうやって近付くか」

 接近することをレールガンによって拒まれる。それを掻い潜って近付けたとしても、超要塞という二つ名とは全く異なる、高機動な運動能力で躱されてしまう。

 思案している美月の脳内にモゲタンの声が。

〈来るぞ、砲身がこちらを狙っている〉

 この言葉に反応し、美月は思案を中断し、自らとB-29の間に、幾層にも円盤状の盾を展開。

〈駄目だ、避けろ〉

 モゲタンの警告の声が美月の脳内に響いた。

 これまでの攻撃は完全にではないが、防ぐことはできていた。今回もこれで問題ないと思いつつも、モゲタンの声に反応するように、美月は瞬時に空間を跳躍。

「何だ、あれ?」

 美月がさっきまでいた地点の後方に聳え立っていた山が消し飛んだ。

 跡形もなく吹き飛んで、そこだけが他の個所よりも低く抉れていた。

 B-29からは見える範囲では何も射出されていなかったはず。それなのに、先程まで自分がいた位置を何かが通過し、背後にあった山を破壊した。

 モゲタンに声に促され空間を跳躍した瞬間、熱のようなものを感じた。

 だが、何も見えなかった。

 跳躍した先で、美月はかつて山であった場所を目に捉えながら、

「何なんだ、今の?」

 少し震えた疑問の声を。

〈陽電子砲だな。機銃の形に変化はないが、別物へと進化している。おそらくだが、コチラの防御を打ち破るために、より強い、攻撃力、破壊力のあるものになったのだろう〉

「陽電子砲?」

〈キミに分かりやすく説明すると、ビーム兵器だ〉

「ビームって色があるんじゃないのか。さっきの攻撃は見えなかったぞ」

 美月はアニメやゲーム、それに映画の世界で描かれているビームを頭に描き、言う。それらの映像に出てきたビームは、どれも極彩色で表現されていた。

〈それはフィクションだからだ。視聴者に分かりやすいように色がついているだけだ〉

 尚、余談ではあるが、ビーム兵器が出るアニメで代表的な作品にガンダムがある。あの世界で、画面にビームの交戦が色付きで描かれているのは、コンピューターがコックピット内のパイロットに色を付けて映し出すことで分かりやすくしている、という設定。これは、音声についても同じである。閑話休題。

「そんなのどうやって対処するんだ」

 見えない兵器に少しだけ恐ろしさを覚える。あのまま、止まって攻撃を受けていたら、防ぐことができていただろうか? もしかしたら、あの山のように自身の身体が跡形もなく吹き飛んでいた可能性も。

 これまでも数多のデータと対峙し、戦闘を行ってきた。その中には強いデータもいた。だが、これほど強力な武器を所持したデータはいなかった。

 防げるのか? いや、それよりも勝てるのか?

 美月の中で、恐怖が肥大していく。

 そんな美月の脳内にモゲタンの声が。

〈恐れる必要はない。キミにはワタシがついている、ワタシを信じろ〉

 この声で美月の中で生まれ、大きくなりそうだった恐怖という感情が消し飛ぶ。

 先程の一撃もモゲタンの声があったから、避けることができたのだ。

 自分にはビーム兵器を見る力はなくとも、相棒と一緒ならば対応できる。

 これまでこの相棒と、幾多の困難を乗り越えてきた。

「ああ」

 信頼を言葉にする。

〈では、行くぞ、今度こそデータに乗り込むぞ〉

「行くぞって? 何か策でもあるのか?」

 機銃に阻まれたり、高い運動性能で躱され続けてきた。無策なままで相手に突っ込んでも、また同じことの繰り返しになるのでは。その上、厄介なことに見えないビームまである。何か秘策でもあるのかと思い、訊く。

〈策は必要ない、このままデータ目掛けて真っ直ぐに進むだけだ〉

「はあああ?」

 信じろと言われ、信頼するという返事を返した。だが、美月はこのモゲタンの指示を即座に実行できなかった。

 無策なままで、真っ直ぐに突っ込んでも返り討ちにあう未来が簡単に予測できてしまう。

〈急げ。このチャンスを逃すな。時間がない、ワタシを信じろ〉

 モゲタンが動かない、動けない美月に催促を。

 しばし逡巡し、美月は決意。

 正直、真っ直ぐにデータへと突っ込むのは恐怖がある。けど、それ以上にモゲタンを信頼している。策は必要ない、と言っていたが、それを額面通りに受け取るのではなく、何かしらの対処の方法があると信じ、美月は円盤状の盾を足裏に展開し、それを蹴り、データへと直進。

〈最短ルートで侵入するぞ〉

 モゲタンの言葉が。続いて、美月の脳内に空間跳躍をする際の座標位置が表示される。

 覚悟を決める。

 信じると、自分に言い聞かす。

 躊躇なく、美月はモゲタンの指示に従う、実行する。

 美月は空間を跳躍した。


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