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戦闘開始


 空中戦において、優位な戦闘を行うには、相手よりも高い位置をとることが定石である、高度が戦いを制する秘訣。

 美月には飛行能力はない。 

 しかし、空間を転移することは可能。

 横軸での移動を主としてこれまで使用してきたが、今回は縦軸での移動を。

 つまりB-29よりも高い位置に転移し、上から攻めるという作戦。

 現在B-29は高度およそ一万メートルの位置を飛行中。

 直線距離にして約十キロ。

 この高さに、それよりも高度への転移は可能ではあるが、それは一度で行える距離ではない。数度の空間転移を使用して到達する高度。

 美月は幾度か空間を跳躍。

 高度が高くなるとその分酸素濃度も低くなり、活動に支障をきたすのだが、その点においても美月とモゲタンにはぬかりはなかった。

 かつて用いた作戦を今回も流用。美月の能力の一つ、円盤状の盾を何枚も使用して簡易の酸素ボンベを構築。前回は海中での使用であったが、今回は空中で。

 目論見通りに、B-29の上を、より高い高度をとることに成功。

 空間転移を止め、重力に引かれ、頭からB-29を目がけ落下。

 自由落下でもそこそこの速度は出るのだが、それでは足りぬとばかりに美月は円盤状の盾を足裏に何枚も幾層に重ね、それを踏み台にし、両足で強く蹴り、推進力を得て、加速する。

 そんな美月に、機銃の雨が突然襲いかかった。

 自由落下中、さらにいえば速度を増した状態。空を自由に飛行する能力を有してない美月にはこれを避ける術がなかった。

 結果、機銃の雨の中へと美月は突入するはめに。

 当たる直前にモゲタンが美月の前に円盤状の盾を何枚も展開。

 展開された円盤状の盾は銃弾を受け、壊され、砕け散った。

 モゲタンのサポートによって接近する前にダメージを受けてしまうという事態は回避された。だが、誤算が。

 先程の攻撃の衝撃によって、美月の速度が減退されることに。

 予定では、B-29の上へと落下し、機体内部に乗り込むはずだったのだが、美月の小さな身体はB-29の作りだした飛行機雲の中を素通りし、そのまま落下し続けることに。

「おい、あんなのなかったはずだろ」

 落下中にもかかわらず、美月は悪態を。

〈公表されたデータ通りならば、あの個所に機銃はついてないはずだ。世界中を飛び回っている間に機体が変化したのだろう〉

 左腕のクロノグラフモゲタンが冷静な声で。

 公開されたレポートによれば、通常の火器はオミットされていると記載されていた。

「この分だと多分、下にもあるよな」

 なお自由落下中で、B-29とどんどんと離れていく最中に美月はモゲタンと会話を継続。

〈ああ、そう考えて間違いないだろ〉

「けど、たしか下は一門だけだったよな」

 一般的なB-29には上部に二門、下部に一門、そして尾翼付近に機銃が設置されている。このことは事前に調べてあった。

〈ああ、その通りだ〉

「なら、下の方が手薄ということか」

 美月は小さくそう呟くと、落下中の身体を反転させ、足元に円盤状の盾を幾層にも展開し、それを蹴り上げ、上昇を開始、B-29へと再度接近を試みた。


 足裏に円盤状の盾を展開させ、蹴り、さらに速度を上げる。

 美月の小さな身体は急上昇し、B-29との距離を一気に詰める。

 その間、わずかな時間であるが美月は、セオリー通りに上からの攻めではなく、この下から試みる攻撃も存外悪くない手ではないかと思考。

 機体の上部には二門設置されていた機銃は、下には一門だけのはず。単純計算だが弾幕の数が半減したことになる。

 そしてなりよりの懸念、二発の原子爆弾。

 原爆はおそらく、というか十中八九、下部のハッチが開き、そこから投下されるはず。落とされないようにしながらデータを破壊、そして回収できればなによりなのだが、万が一にでも、美月という存在への攻撃手段として用いられた場合、完全に防ぐことは不可能かもしれないが、それでもこの人がほとんどいない山岳地帯でならば、大きな被害を出さないで対処できるのではないのか、と。

〈公開された資料の通りの代物ならば、盾を何重にも張り巡らせば爆発の衝撃を封じ込めることは十分に可能だ〉

 左手のクロノグラフモゲタンが美月の脳内の考えを即座に理解し、計算をし、その結果を。

「問題は放射能か」

 核兵器の恐ろしさは、その破壊力だけではなく、残留し続ける放射能。

 人体はもちろん、自然環境にも今後何十年という長い月日影響を与える。

〈それについても、この辺りならば人間には大きな支障はでないだろう〉

 ほとんど、いや、全く人がいないような山の上。放射能という危険なものがまき散らかったとしても人間社会にはさほど大きな影響を及ぼさないだろうとモゲタンは判断。この山岳付近数キロの範囲が立ち入り禁止区域になるだけ。

「そうか……けど、そんなことにならないうちに解決するけどな」

 ジュラルミン地の銀色の機体が美月の眼前に。

 あともう少しで、美月の手が、プロペラ翼をぶら下げた大きな翼に触れようとした時、B-29は美月達が想像もしていない動きをした。

 水平だった主翼が、急激な傾きを。

 主翼は垂直に。

 それでもなお横軸の回転、ロールを止めずにB-29の大きな機体は天地逆さまに。

 下部に設置されている機銃から、機体への接触を躱されてしまい上方向へと進行を続ける美月の無防備な背後に、斉射が。

 即座に円盤状の盾を展開。

 これを防ぐ。

 と、同時に自身の上方にも同じように盾を幾層にも。

 身体を反転させ、運動エネルギーを殺す、そしてそのまま反動をつけ、再度B-29への接近を試みようとした。

 そんな美月にまた機銃の雨が。

 反転していた機体は、いつの間にか一回転を。

 二門の機銃が美月に襲い掛かる。

 円盤状の盾を展開する。が、不意を突かれてしまい対応がほんの少しだけ遅れた。

 何発かの銃弾が、幾層にも重ねた円盤状の盾を貫き、美月の身体を掠めていく。

「威力上がっていないか?」

〈短い間に進化したのかもしれん〉

「けど、これ位ならまだ防げる」

 事実、薄い部分が貫かれただけで、後の銃弾は防いだ。

「それにしてもB-29って、あんなに運動性能の良い機体だったのか」

 と、その後続けて愚痴のような言葉を。

 あんな動きをするなんて想像を全くしていなかった。

〈当時の爆撃機としては運動性能が良いと言ってもいいだろう。だが、あのような動きが可能な機体ではない〉

「どうする? このまま突っ込むか? それとも様子を見るか?」

〈調べたいことがある。データに近付いてくれ〉

「了解」

 美月は足裏に円盤状の盾を展開させ、それを足場にし、B-29へと。


 接近すること数回。

 そのいずれもが見事に躱されてしまう。闇雲に一直線に向かう、というだけではなく飛べないなりに工夫し、円盤状の盾を周囲に張り巡らせ、軌道を変えるフェイントをかけたり、上下からだけではなく前後からの接近を試みたりした。

 だが、全て不発。

 けど、徒労に終わったわけではない。

 モゲタンが分析を完了。

「それで何が分かったんだ?」

〈良い分析結果と、悪い分析結果がある〉

「じゃあ、良い方を先に」

 B-29に躱され、現在自由落下中の美月が。

〈二発の原子爆弾の投下の可能性はなくなった〉

 一番の懸念材料が消えた。

 それはそれで喜ばしい事なのだが、美月にはこの後に控えている悪い分析のことも含め、嫌な予感しかなかった。

「……それで悪い方は?」

〈あの機体は、あのデータは、核融合を動力源にしている可能性が高い〉



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