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桂 2


 服を買うのがこれまで以上に楽しかった。

 おしゃれに目覚めたのは他の子に比べてはるかに遅かった。

 子供の頃はまるで興味が無かった。母親が買ってくる物をなんとなく着る、それだけだった。

 思春期になり、少しだけ興味が出てくるけど、すぐに諦めた。

 自分が着たいと思う服は自分には全然似合わない。

 体型も、雰囲気も。

 だから、見ないようにしてきた。目を閉ざしてきた。

 それが変わったのは大学に合格して上京してからだった。

 今までは制服という共通の服をみんなが着ている。それが私服での登校になる。正直頭が痛かった。なにを着ていけばいいのか分からずにいた。それでも他の子に笑われないような服装にしようと一所懸命に勉強した。

 周囲に合わせようと努力した。

 苦痛だった。

 それが楽しいという感情へと変化したのは彼と、稲葉志郎と付き合いだしてからだった。

 彼も同じように服には興味の無いような人間だった。着られればいいという感性の持ち主だった。

 そんな彼だがかつらの着ていく服を褒めてくれた。可愛いと。

 何気ない会話での一言であったが桂は天にも昇るような嬉しさを覚えた。彼のためにもっと可愛くなりたいと思った。

 苦痛だったことが幸せへと変わる。

 次に少しだけ後悔をした。もっと子供の頃から興味を持っていれば彼に喜んでもらっていたかもしれない。

 それに今の年齢、体形では着られないようなもっと可愛い服をたくさん着ることができたのに。

 そんな後悔は美月みつきと一緒に暮らすようになって一変した。

 今では絶対に着られないけど、昔ちょっとだけ憧れた服を美月に着せた。

 何を着せても似合うし可愛い。

 色んな服を薦めると、最初は嫌がる素振りをみせるけど、最後には着てくれる。

 生きている着せ替え人形、自分が送れなかった青春の代わり、というのは少し語弊のある表現かもしれないが楽しいのは紛れもない事実。

 ファッションには無頓着な、この幼く可愛い従妹を自分の二の舞にしないようにしっかりと教育しないと。

 そんな使命感にひそかに燃えてしまう。

 もし彼との間に娘ができたら、遠い将来こんな風になるのかな。そんな夢想をしてしまう。

 涙が出そうになった。

 そんな未来は永劫に訪れない。

 そんなことない。行方不明だけど、絶対に自分のもとに帰ってこないと決まったわけではない。

 きっと戻ってくるはず。信じている。

 涙をこらえて悲しい感情を追い払うように楽しいことを考えた。

 泣いている、涙にくれている姿を幼い同居人に心配をかけてしまう。

 彼みたいに、彼女も優しいから。

 桂の中にアイデアが生まれた。

 今度の連休に出かけるための服を内緒で買おう。

 そう考えると、楽しくなってきた。

 秘密の企てを実行するために桂はパソコンのスイッチを入れて、ネットの世界へ突撃した。


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