超要塞 3
チリといっても、南米大陸ではなかった。
では、何処に?
南米大陸から大分と離れた太平洋上。
イースター島にデータが出現し、そしてフーファイターが目撃された。
出現したデータはモアイ像であった。
モアイとはイースター島にある人面を模した大型の石造の彫刻であり、造りかけの物も含めるとおおよそ900体程存在している。
そのうちの一つにデータがつき、そして活動を。
島の伝承にあるように、モアイ像は歩いて移動を。真夜中に、月明かりを浴びながら。
その姿が多くの人々に目撃されることに。
イースター島の主産業は観光。島民自体は少ないのだが、世界中から観光客がやってくる島。
深夜という時間帯に出現したのだが、それでも地響きで目が覚めた観光客たちは何事かと起きだしベッドから這い出て、歩くモアイ像を目撃することに。
普通ならば、パニックが起きてもおかしくない状況であった。
だが、そうはならなかった。
目撃した多くの観光客は歓喜した。動くモアイ像というレアなものが見られたから。
しかし多くの人々は、自身の状況をまるで分っていなかった。非常に危険な状況に自分達がいるということを。
モアイ像の動き、歩みは遅々としたものであった。だがそれでも数十トンもあるような巨石である。それが少しバランスを崩し、人々の上に倒れこんだりしたら。もしかしたら次の瞬間に突然動きが早くなる可能性だってあり得るのに。非常に危うい事態であるにもかかわらず。
だがしかし、幸か不幸か、そのような状況になることはなかった。阿鼻叫喚な地獄絵図と化してしまうような、悲劇の、惨劇の舞台になることはなかった。
偶然島に居合わせたデーモンの一人が、モアイ像の動きを止めて、周囲に被害を出すことなくデータの回収に成功。
この時に撮られた画像、映像が瞬く間に世界中に拡散。
多くのメディアを騒がせた。
多くの人々がモアイに注目している中、美月達デーモンは、同時に撮られたフーファイターの画像の検証作業にあたっていた。
この画像は、モアイ像の活動を止めたデーモンとは別の、一緒にイースター島に訪れていた別のデーモンによって撮影されたものであった。
データ出現時に、彼女はもしかしたら例のフーファイターが出現するのではないのかと考え、一緒にいた彼にデータの対応を任せ、自分はデジカメをもって夜空へと。
この予想は見事に的中。
フーファイターは雲の切れ間に、月明かりを浴びながら、その姿を現した。
飛行能力で追跡し、そしてデジカメで、その姿を収めることに成功。
飛行して追跡しなくとも、地上からでも撮影には一応成功したのかもしれない。
だが、フーファイターとデータが出現した時間は夜中。夜間の撮影は難しい、その上フーファイターはそれなりの高度を飛行。
この条件下での撮影は非常に困難。
だから、彼女の選択は正しかった。
追跡し、ある程度近付いたことによって、鮮明とまではいかなくとも、これまでの中で一番その姿を捉えた写真を。
写真に収めた後、追跡を続行し、そして破壊及び回収ができていれば、大成功といっても過言ではないのだが、世の中、そんなに物事が上手く働くはずもなく、フーファイターはその後、雲の切れ間に姿を隠し、そのまま消えてしまった。
つまり、逃げられてしまった。
しかし、大手柄であることは間違いない。
撮られた画像はすぐにモゲタンが構築したデーモン達のサイトにアップされ検証が始まった。
あくまで観光として訪れた場所。
データ、及びフーファイターとの遭遇が偶然の産物である。
手にしていたカメラは、市販のデジカメ。
ある程度接近したとはいえ、全景を捉えたとはいえ、細かい個所までハッキリと撮れているわけではない。
しかし、そこは人知を超えた存在が活躍を。
モゲタンが解析能力を駆使し、画像解析を。
銀色の、ジュラルミン地が剥き出しの、機体に四発のプロペラ。
その画像を基にあらゆる検証を。その結果、ほぼ間違いなくB-29であることが判明。
そして、所々汚れている、ノーズアートは消えかけているが、それでも尾翼の機体識別番号とおぼしき数字が。
これで正体が分かる、とまではいかなくとも、それでも何処から出現したのか、おおよそ判明すると誰しもが思った。
だが、事態は思わぬ方向へと。
生産台数はおおよそ四千台以上もある機体ではあるが、同時に多くの資料も存在した。
尾翼に書かれている数字が分かっているとはいえ、資料と照らし合わせて確認するのは普通の人間ならば、多大な労力の時間を有するような作業である。
しかし、デーモン達にはモゲタンという頼もしい存在が。
人類を遥かに凌駕するような演算能力を有するモゲタンの手にかかれば、ネット上にいくつも存在しているB-29の資料と照らし合わせ、すぐに機体が判別できるはず。
ものの数分、いや数秒で判明すると誰しもが思っていた。
これによって前日に美月が出した仮説、フーファイターの正体はB-29についた狐型のデータ、を裏付けるようになるのか、それとは反対に否定するものになるのか、それも同時に判明すると思っていた。
だが、美月の脳内に流れた言葉はその期待とは違うものであった。
〈存在しない機体だ〉
モゲタンの声が美月の脳内に。
「はあ?」
モゲタンとの会話は声を出す必要性はないのだが、美月の口から変な音が漏れて出てしまう。
〈尾翼に書かれていた番号の機体は、少なくともネット上に該当する機体は存在しない〉
「シロ、どうしたの?」
モゲタンとの会話が聞こえない麻実が訊く。
「……存在しない機体だって……モゲタンが」
「はあ?」
先程の美月と同じような反応を。
これは麻実だけではなく、世界中のデーモンが同じ反応を。
判明したと思ったのに、謎が増えた。




