里帰り、ふたたび 6
上昇時よりも早い速度で移動、というか落下しながら、西方へと消えていくかつての狐型のデータを目で追いながら美月は、
「追いかけるか? けど、あの速度に追いつくのか?」
と、自問自答するように言う。
〈不可能だな。もうすでに君の目では捉えることのできない位置にまで移動した。……あのデータの信号もロストした。これでは追跡は、向うが待っていてでもくれない限り不可能だ〉
左腕のクロノグラフモゲタンが美月の脳内に話しかける。
「それにしても一体あのデータは何だったんだ?」
自分でも疑問の言葉をさっきから言い過ぎであるとは思いつつも、またやはり疑問の声を上げてしまう。
〈分からない。いうなれば、イレギュラーな存在としか今のところ言えないだろう〉
「まあ、そうとしか言えないよな」
と、美月は嘆息をつきながら言う。
実際分からないことだらけである。
〈それよりもこのまま、ここでずっと待機をしているのか?〉
「あのデータが舞い戻ってくる可能性は?」
〈ゼロではないが、そんなに高くはないだろう〉
「ならば、戻るか」
麓の椿大神社では成瀬一家が美月の帰りを待っている。
いつまでも待たせていたら申し訳ない。それにこの後の予定も詰まっていることだし。
「じゃあ、帰るか。けど一応警戒だけはして」
〈了解だ〉
美月の言葉に反応するようにモゲタンは自らのデータ探索能力を限界にまで上げた。
〈キミまで不必要に警戒することはない。ワタシの探索網にデータが引っかかるまでは桂達との観光を楽しむといい〉
「ああ、そうさせてもらう。頼んだぞ、相棒」
〈ああ〉
空間跳躍を幾度となく繰り返し、会館のような建物の中へと美月は移動した。
この建物の中に入ったのだ、それが別の場所から出てきては桂を除く成瀬家の方々に不審がられてしまう。
会館から出る瞬間、美月の脳裏にある考えが浮かんだ。
「なあ、もしかしたらアイツは敵じゃなくて味方かも」
〈それはどういう意味だ?〉
「アイツは俺達と同じようにデータを集めているみたいだろ。だったらもしかして、目的は一緒なんじゃないかなと思って」
〈一緒だから味方という考えは、少し単純な思考なのでは。単に力を得るための行動をしているとも考えられる〉
「けどさ、それだったら力を行使しないか。たしか昔、モゲタンが説明してくれたような記憶があるけど、データは活動を開始したら示威行動かなんか知らないけど暴れまわる傾向にあるんだろ」
〈ああ、たしかにキミにそう説明したことがあったな〉
「なのに、あのデータは全然破壊活動をしない。データを奪ったらそのままどこかへと去っていく」
〈普通ならばありえない行動だ。イレギュラーな存在だ〉
「イレギュラーな存在ならさ……まあ、お前と俺もだけどさ……他にも遭遇したことがあっただろ」
世間一般にデーモンという名で呼ばれている、人の力を遥かに凌駕した存在ではあるが、美月は他のデーモンとは異なっていた。それは通常ならばその身体に力が付加される、宿るのだが、美月の場合は愛用のクロノグラフに。
そして力を得た去年の夏、力に溺れ、目的を忘れ暴走した少年と対峙した。
自身を含め、二つのイレギュラーな存在を知っていた。
〈ああ、そうだな。だが、今の段階ではまだ敵か味方かの判断はできないのは事実だ。再び遭遇した際に、味方と思い込んでしまい無暗に接近するのは危険だ〉
「……それは確かにそうかもな……」
「美月ちゃーん」
鳥居の前で大きく手を振りながら桂が呼んでいた。
美月はモゲタンとの会話を止めて、成瀬一家の待っている鳥居前へと小走りで駆けていった。




