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里帰り、ふたたび 5

二周年

三年目に突入です。


 あの時、道頓堀から逃げていったデータに相違なかった。

 山頂で悠然と宙に浮かぶ姿は、かつて目にした形とは異なっていたが、間違いないという確証のようなものが美月の中に。

 そしてそれを裏付けるように、モゲタンからの指摘も。

 データは前回の時と違い、逃げるような素振りは全くなかった。

 あの夜は美月達から逃走、大阪の街を縦横無尽に逃げ回っていたというのに。

 それなのに、今回の邂逅では美月のことなどまるで歯牙にかけない、眼中にないといったような様子であった。

 一見すると、簡単に捕獲できるのではと思わせるくらい無防備な佇まいであった。

 にもかかわらず、美月は捕獲に向けての一歩をなかなか踏み出すことができなかった。

 というのも、あのデータは速いという記憶があったから。

 迂闊に接近でもしたら、前回のように逃亡されてしまうのではと考えてしまう。

 そうなったら厄介である。

 この後、予定が詰まっている。

 椿さんを参拝した後に、高速道路で南へと一気に進み、伊勢神宮の外宮へと。

 外宮へと行くだけならば、この場で多少時間を取られても問題はないのだが、実は美月には急いで事態を解決しないといけない、時間的な制約があった。

 去年は、急遽行くということになったためにしっかりと予定を立てたわけではなかった。だが今年は、綿密な、といっても昼食のだが、予定がしっかりと組まれていた。桂の母が、近所の人から外宮の近くに美味しいランチを出す洋食屋さんがあると聞き、そこに予約を入れておいてくれたのである。

 つまり、ここで時間をかけてしまうとその予約の時間に間に合わないことに。

 せっかくの好意を無駄にしたくない。

 桂も楽しみにしていたし。

 ならば、一刻も早く事態を解決するための行動を採るべきなのだが、美月が動けないのには理由が。データの動きが速いというのはもちろんだが、それよりも美月を慎重にさせているのはその姿。

「……姿が変わっているってことは、多分力も強くなっているよな」

 美月がポツリと漏らすように言う。 

 漫画やアニメなんかで形が変化するということはパワーアップの定番。それがこの場でも適応、というか当てはまるかどうかは定かではないが、それでも用心して迂闊に踏み込めないでいた。

〈キミの推察はおそらく正しいだろう〉

 美月の意見にモゲタンが同意を。

「……やっぱりあれか。麻実さんが言っていた他のデータを奪っていったことと関係あるのか?」

〈現段階では確実にそうとは言えないが、おそらくそうだろう。他のデータの能力を自身の身体に取り込んだのだろう〉

 モゲタンの言葉を聞き、美月は依然宙に浮かんだままのデータの姿を、改めて観察した。

 黒い人型の形も、道頓堀の時よりも僅かではあるが大きく、そして強くなっているように映った。

 そして最大の変化した部分、それは尻尾であった。

「……なあ、あの時はたしか尻尾は一本しか生えていなかったよな」

 雑踏の中で狐の姿から人の形へと突如変貌した。そんな最中での、最後の目撃であったから、もしかしたら記憶違いの可能性もあるかもしれない、そう思い美月はモゲタンに訊く。

〈キミの記憶は正しい。ワタシもあの時の姿を記録しているが、たしかに尻尾は一本しかなかった〉

「それが三本になっているということは……」

 データの大きく盛り上がった臀部からは太い尻尾が三本。

〈まだ憶測の域を出ないが、可能性としてはキミが考えていることも十分にあり得るだろう。ワタシ達の認識が及ばない場所で別のデータを捕獲し、その能力を取り込んだ。だから尻尾の数が三に増えている。もっとも一から三に変化したという可能性もあるが〉

「どっちにしても今の段階では分からないってことだよな」

〈申し訳ないが、そうだ。情報が少なすぎて断定することはできない〉

 モゲタンとの会話を行いつつも、美月の目はデータを凝視し続けていた。

 そんな美月達のことなんか、我関せずといった様子でデータは未だに宙に浮かび、空を見上げていた。

「こっちから仕掛けてみるか?」

 いつまでもこのまま観察を続けていても埒が明かない、それにまだ差し迫って、ギリギリという時間ではないのだが、それでも今後の予定があり、時間的な制約があることには違いはない。だったらいっそのこと、動かないうちに捕獲、破壊、回収を一気に行ってしまおうと。

〈してみるか。ただし、馬鹿正直に接近したのでは逃げられてしまう公算は高い。そこでだ、キミは嫌がるかもしれないが、あの姿に変身する時の能力を使用して、データの動きを封じるぞ〉

 美月が嫌がっていたもう一つの変身の姿にはある能力が付与されていた。それは限られた範囲ではあるが空間を閉鎖すること。

「背に腹は代えられないよな」

 このままいたずらに時間を浪費するくらいならば、多少の羞恥心はかなぐり捨てて。

 それに恥ずかしい姿を晒すのはほんの一瞬。後は、見えない空間へと。

 美月は覚悟を決めた。

 だが、覚悟を決めて変身したとしても馬鹿正直に真正面から突っ込んでしまったのでは逃げられてしまう、もしくは反撃を食らう可能性もある。

 それに周囲に被害を出すこともなるべく控えたい。

 そこで美月は脳内でモゲタンと作戦会議。

 わずか数秒でモゲタンが作戦を立案。さらには二の矢三の矢までも。

「行くぞ」

〈ああ〉

 美月がモゲタンの作戦を忠実に再現すべく動き出した瞬間、またデータも動きを。

 突如、上昇を始めた。

「どういうわけだ?」

 今まで全く動くような気配を見せなかったのに、一転して急上昇を。

「俺の接近に気がついたのか? いや、それならもっと早く行動をするはずだし」

 疑問を声に出す。

 そんな美月の脳内にモゲタンの声が響いた。

〈何かが接近してくるぞ。しかも高速で〉

 その言葉で、データはその何かに接近するための移動を開始したという推察ができた。しかしながら、その何かはモゲタンの言葉では分からない。

「何かって何だ?」

〈分からない。他のデータのような気もするが、それを完全に肯定できない〉

「どういうわけだ?」

〈分からない〉

「分からないって」

〈今の段階ではそうとしか答えられない。それよりどうする、追うか?〉

「追いつくのか、あの速度」

 そんなやり取りをしている間にもあのデータは猛スピードで急上昇を続けていた。

〈難しいな〉

 あのデータはジェット機の限界高度辺りにまで上昇し、その動きを止めた。

 この高さにいる人大の物体を通常の人間ではその視界に捉えることは不可能ではあるが、美月はかけているアイウェアに付与されている望遠機能を使用し観察。

「……何をするつもりだ」

 まるで美月の声が聞こえていたかのように、高高度で静止したデータが動いた。

 右手を前へと大きく突き出し、何かを掴む。

〈そうか。別のデータを捕獲するための行動か〉

「どういうことだ?」

〈全てのデータが地上に降りてきたわけではない。中にはまだ無重量空間で機能を停止して漂っていたものも僅かにだが存在する。その中の一つが地球の重力に引かれ落ちてきた。それをどのような手段で知ったのか分からないが、回収に来たのだ〉

 モゲタンが説明をしている間に、データは目的を果たしたのか急降下を。

 そしてそのまま西の方向へと消え去ってしまった。


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