ニュース速報
いつものように夕食後、三人そろって、つまり美月と桂とそれから麻実、が観ていたテレビの画面の上方に文字情報が。
ニュース速報が流れた。
が、しかしながらこの場にいる三人共その速報にあまり反応しなかった。
ニュースの内容はどうでもいいようなことではなかった。
海外ではあるが、旅客機がヨーロッパの上空で消息不明に。
重大な航空事故の可能性も。
にもかかわらず、美月達があまり関心というか、反応を示さなかったのは、これが遠い異国の地で起きていることだから自分達には関係のないことと思ったり、これまでの特殊な事情によってこれくらいのことは些細なことと感じてしまうほど神経が摩耗してしまった、ということではまったくなく、このニュース速報が流れる前にもうすでにこのことを知っていたからであり、ついでにいうとパイロット乗務員乗客全員が無事であることも分かっていた。
これは美月か麻実、どちらかが新たに予知能力を得たというわけではなく、遠いヨーロッパの地から報道機関よりも早く、そして正確な情報を得ていたからであった。
データが出現し、飛行機へと襲い掛かった。
しかし、偶然その機に乗り合わせていたズィアの仲間がそのデータを退治、及び回収し、かつ双発エンジンのうち一つがデータによって壊されてしまったが、近くの空港に無事着陸したことを、ズィア経由で美月達は受けていた。
だから、ニュース速報が突如流れても、多分このニュースだろうなという予測が立っていたためであり、そしてテレビ画面の上に表示された文字を見てやっぱりと思った。
「ねえ、そういえばさ。さっきの連絡でデータはグレムリンみたいって言ってたけど、昔そんな映画が確かあったよね」
桂が何気に言う。
「あったかな?」
と、これは美月。
「何言ってるのよ、シロ。85年のお正月映画の3Gの内の一つじゃないの」
ちなみに残りの二つのGは、一つは『ゴーストバスターズ』でもう一つは『ゴジラ』。
生後すぐの映画事情を言われても分からない。
「いや、観ていないし」
「桂は観ているんでしょ」
見た目だけでは一回り以上年が離れているけど、中身は同い年。
「私は昔ビデオで観ただけだから」
「それよりもさ麻実さん、俺よりも年下なのになんでそんな知識があるんだよ」
麻実はこの中では一番若い。
「これ位の知識なら、多分知恵も知っているわよ」
「あの子はお父さんの影響だって分かるけどさ」
「あたしのは、ほら、好きこそものの憐れなりって。……入院生活って基本退屈で暇だから、興味を持ったことをとことん調べたくなるのよね。病院内でも調べものができる文明の利器もあったし。それで話を戻すけど、映画がどうしたの桂?」
「あの映画に出てきたのって毛むくじゃらの耳の大きな可愛い生き物だったはずだけど。そんなのがデータになって飛行機に襲い掛かったのかなって思って」
「違うわよ、桂」
「……えっ?」
「それはギズモ。ああ、これは個体名か。桂の言っているのはモグワイ。映画の中では桂の言うように可愛らしいけど、三つのルールを破ると凶悪なグレムリンへと変貌して暴れまわるの」
三つのルールとは、光を当てない、水に濡らさない、真夜中に食べ物を与えない。
「あ、そうだった。すごく怖い姿になるんだよね」
麻実の言葉で、桂は幼少時に観た記憶を思い出した。
その後しばらく、映画談義が続き、それがひと段落した頃、
「そういえばさ、さっきのニュース速報見て一つ気になったことがあったんだよね」
と、麻実が切り出す。
「何?」
「今回はいなかったけど、海外で大きな事故が起きた時って大抵日本人がいるかどうかってことも一緒に報道するじゃない」
「うん、まあそうだね」
「それって昔から不思議だったんだよね。絶対に日本人がいなさそうな場所のでも言うでしょ。そんなの必要あるのかなって」
「考えたこともなかったけど、……そういえばそうかも」
「ああそれは……」
「シロ、理由知ってんの?」
「稲葉くん、知っているの?」
答えようとする美月の言葉を、思わず出た二人の声が遮ってしまう。
「……えっと……これが正解かどうかは分からないけど、俺が昔バイト先の先輩から聞いた話によれば、バックパッカーみたいな世界中を放浪、というか旅している人の家族が海外で大きな事故が起きると外務省に問い合わせるんだって。そういう人って所在不明というか、家族には何処にいるか連絡していないらしいから。そういう問い合わせが多かったらしいから、日本人の有無を一緒に報道するようになったと聞いたけど」
かつてバックパッカーをして世界中を放浪していた人から得た知識であった。その人の家族も外務省に問い合わせの経験が。
「へー、そうなんだ」
「シロだって変なこと知ってるじゃん」
麻実がそう言った時、テレビのニュース速報が再び流れ、旅客機が到着予定とは異なるけど、別の空港に無事降りたことを伝えた。




