とある米国人の回顧
バーボンの入ったグラスを少し傾け、氷を遊ばせながら、昼間のことを思い出す。
ドイツ人と言ったが、どう見てもゲルマン系には見えない若者のことを。
たしか、ズィアとかいったな。
一目会った瞬間、いやアイツが俺の目に入る前から同じ力を持つ奴だということは分かっていた。
世界中に俺と同じような力を持つのがいることはニュースで知っていた。だが、実際に会うのは初めての経験だった。
USAの中に俺と同種の奴がいることは知っている、新聞に載っていた。だが、ソイツ等とは会うことはなかった。
会う必要もない。
この街の、この近辺の、平和を守るのが俺の役目。
他の場所のことは管轄外だ。
もし今後、祖国に危機的な状況が訪れたのであれば他の連中と協力して事態を解決するために協力し合うだろうが、そんなことは起きてはいない。
だから会う必要性は皆無だ。
この先もずっと会わずに生きていくと思っていた。
それなのに大西洋を越えて来やがった。
それもわざわざ、俺に、いや俺達に会いに。
仲間になれと言う。
若造の、しかもカラーの言うことなんかに素直に応じられない。
狂信的な連中とは俺は違うが、それでも近年の情勢をみるとイスラムの人間を簡単には信じるなんてことはできない。
それに俺には世界のことなんかどうでもいい。
この街で、この近辺で、ヒーローでいられるのならそれでいい。
グラスの中のバーボンを一気に呷る。
強烈なアルコールが身体中に流れ込む。
この身体になる前までは俺は一切アルコールが飲めない性質だった。それで周りから南部の男らしくないと馬鹿にされた過去もある。
だが今はいくらでも飲める。
昔俺のことを馬鹿にした連中よりもはるかに強くなった。
強くはなったが完全に酔わないわけじゃない。
ほんの少しだけ酔いが回る。
古い記憶が蘇ってくる。
子供の頃、宇宙を飛び回るスペースオペラのヒーローに憧れた。
その憧れは成長しても胸の奥にずっとあった。
だけど、周りの人間はそんなものからとうの昔に卒業していた。だから、それを知られないように隠して生きてきた。
スタートレックが流行ったこともあった、スターウォーズで盛り上がった時代もあった。だが、俺はそれに乗れずにいた。
憧れのヒーローはずっとスペースオペラのヒーローだった。
なりたい、とは思うがそんなものにはなれないくらの知識がいつの間にか付いてしまっていた。
だったら、よく似た職種に。
ハイスクールを卒業する半年前に考えた。出た結論は、スペースシャトルのパイロット。
宇宙に行ける選ばれた人間。
しかし、そんな選ばれた人間には俺は絶対になれないことをハイスクールの成績表と子供の頃からずっとある虫歯が教えてくれた。
宇宙には行けない。
ヒーローにもなれない。
好きなものをずっと隠して、南部の片隅で細々と仕事して生きていく。
そう思っていた。
あの日までは。
世界中に流星群が降り注いだ日、俺は子供の頃からずっと夢見ていたヒーローになることができた。
ずっと憧れ続けていたスペースオペラのヒーローの姿に。
金魚鉢のようなヘルメットを被り、銀色の宇宙服を身に纏い、光線銃を手にした。
出現して街を破壊する敵を倒し、そして回収した。
俺が街を敵から守っても報酬があるわけじゃない。誰も俺がヒーローになっていることを知らない。
だがそれでも構わない。
称賛の声が、俺にではなく、変身した後の姿に向けられていても問題ない。
スペースオペラを馬鹿にしていた連中が俺の活躍を喜んでくれている。
何も知らない子供達が俺の姿に憧れてくれている。
だったら、それでいい。
他には何も望まない。
背中の強力なロケットエンジンがあれば俺はこの先もずっと無敵だと思っていた。
ヒーローでいられると思った。
だが、俺よりも強い敵が突如出現した。
まるで歯が立たない。
俺の育った、愛する街が危機に陥ろうとした時、全米中から集まった他の連中が協力して倒してくれた。
守ってくれた、救ってくれた。
街を守れなくなった俺はもうヒーローではいられない。
俺はもう用済みだ。
老兵はただ去るのみ。
そう思った。
だが、引き留められた。他の連中から。
俺がまだヒーローでいることを願ってくれたのは、街の人間もだった。
役立たずと罵ることなく、俺が変身する古臭いヒーローを愛してくれていた。
もう少しだけヒーローを続けることに。
だけど、一人ではなく。
これからは同じような力を持つ者同士で力を合わせることにした。
以前、アラブ系の男に教えられたネットのアドレスにアクセスした。




