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悪くないけど


 悪くはないけど、それでもやはり世間の評判というものが気になってしまう。

 美月のデータとの戦闘を見ていて、一度はこのままでも良いはずとは思ったものの、その後しばらくしてからヨーロッパ勢の意見を再び見て、やはり変えたほうがいいかもしれないと意見を翻し、麻実はまたデザイン創作へと没頭する生活へと。

 いくつかの案が浮かび、それを絵に描き起こす。

 が、一つに絞り切ることができない。

 そこで麻実は美月にプレゼンテーションを、と書くと少々大げさに思えるが、それでも着るのは、というかその姿に変身するのは麻実ではなく美月であるのだから、当事者の意見が一番大事という考えのもとで、決めきれないアイデアの中から選んでもらおう、もしくはこの中に好みがなくても要望を聞き、新たにデザインしようと目論んだ。

 かくして、夕食後に桂も含めて三人+モゲタンで話し合いを。


「向うの人ってサムライとか日本刀って好きでしょ。それでこういうのはどうかなって? シロはまだBカップじゃないけど、そのうち大きくなってるはずだし、これならシロもそんなに嫌な気がしないでしょ」

 そう言って提案されたデザインは、新選組をモチーフにしたもの。

「かっこいいけど。Bカップってどういう意味なの?」

 と、桂が疑問を。

「ああ、つかこうへいのか」

 美月が小さく言う。

「そう、流石シロね。牧瀬里穂をモチーフにしてみました」

「へー、牧瀬里穂も()ってたのか」

「えっ、シロ映画のことを言ってたんじゃないの?」

「俺は舞台しか知らない、そうか映画にもなっていたんだ」

 美月が映画のことを知らないのも無理のない話であった。劇作家として有名なつかこうへいが書いたこの作品は、元々がつかが自身の劇団で公演した作品であり、その後も何度も舞台化されたもの。舞台人とまではいかなくとも、それでも役者の端くれにいた身としては、それ位の知識はある。しかしながらそんな有名な作品が映画になったことを知らなかったのは、映画の制作がまだ美月、というか稲葉志郎、が子供の頃に創られたものであり、そしてその映画を見る機会がこれまでなかったからであった。

 一方、美月よりも年の若い麻実が何故その作品を知り得たかというと、昔入院生活を送っていた時分に偶々テレビで観たことがあったからだった。

「色は白と青じゃなくて、黒と赤というのもカッコいいね」

「でしょ。そのままじゃ、ちょっと拙いかなと思って色をいじってみたんだけど、コッチのほうがダークヒーローぽくてカッコイイんじゃないかと思ったんだ」

「良いけど……でもポニーテールみたいな髪になっているのは何で?」

 この春から美月はショートカットにしている。

「長い方が動きが映えるのよ」

「ふーん、まあそうかもな。けどさ、俺刀を持ってないけど、これはどうするの?」

「モゲタンに頼んだら作ってもらえないかな。それにシロ、昔アクションのバイトもしたことがあるって言ってたから刀を使うのも大丈夫かなって」

「いや、殺陣でするような動きと、実際の切る動きは違うよ。まあ、俺は本物の刀を握ったことがないからよく分からないけど。仕事で一緒になった人がそんなようなこと言っていたような記憶があるし」

 その時にアクションとは違うと教わった。ついでに切るとは違う峰打ちのやり方も教わったのだが、これは別の話。

「でもさ、アクションで切る動きはできるんでしょ?」

「一応ね。まあでも下手だけどさ。それより刀なんか出せるようになるのか」

〈それについては問題ないぞ〉

 美月の疑問に左腕のクロノグラフモゲタンが脳内に返事を。

「できるって」

「それじゃ二人の意見を参考にして、これをもうちょっとブラッシュアップしようかな」

 意見交換が始まり、それを麻実が描き起こす。


「ねえねえ、ちょっと思ったんだけどさ、新選組の格好よりもいっそのこと着物にした方が外国の人の受けはいいんじゃないかしら」

 話し合いの途中で桂が。

「却下」

 その意見に美月は即座に否認。

「えー、どうして? 艶やかで綺麗じゃない。あんな水着を着ることもできるんだから、着物くらい平気じゃない」

 マイクロビキニを桂の前で着用した実績が。

「あんなのってどんなの?」

 その事実を知らない麻実が追及。

「えっとね、ちょっとエッチな水着を着てくれたんだ」

 美月は慌てて桂の口を塞ぎ、そのことが露呈することを防ごうとしたのだが、間に合わずに、麻実に知られることに。

「言うなよー」

「えー、だって稲葉くん最初はちょっと恥ずかしそうだったけど、その後はずっと平気だったから話してもいいと思って」

「どんなの着たの?」

「えっとね、これ」

 そう言いながら桂は携帯を操作して、その時に撮った写メを麻実に。その際、一緒に撮った自身のビキニ写真は巧妙に隠しながら。

「これが平気なら、何で着物は駄目なの? 全然恥ずかしくないじゃん」

 話が元に戻る。今度は麻実が質問を。

「着物って動きにくいだろ。動きに問題がないのなら別に着てもいいけどさ」

 拒否する理由は動きだった。

「「そうか」」

 これには桂も麻実も納得であった。


 その後、他の案もプレゼンされた。

「シロはどれが気に入ったの?」

 アイデアを出し、意見も言うけど、最終的に決めるのはそれを着用する、というかその姿に変身する美月である。

「うーん、俺としては別にどれでもいいんだけど」

「そうなの?」

「だってさ、俺が意見を言ったところで絶対に桂に否定されるのは目に見えているから」

「そんな、私そんな非道なことしないよ」

「本当に?」

「本当だってば。それじゃ稲葉くんはどんなのになりたいの?」

「うーん」

 デザインのセンスがあるわけでもなし、これまでずっとある意味人任せにしてきたのだから、即座に答えられない。

 しばし美月は考えた後で、おもむろにネット検索を行い、ちょっとだけ頭によぎった理想の既存変身ヒーローをモニター上に出した。

「これは絶対に駄目です」

 数分前の発言を盛大にひっくり返して桂が拒否の声を。

「だろ」

「だってこれ男の姿じゃない、こんなの絶対に可愛くないから」

 桂としても早く元の稲葉志郎の姿にもどってほしいけど、可憐な美少女の姿でいる間は、変身する姿も可愛いものであってほしいという願望の言葉であった。

「シロは永井豪好きなの?」

「好きっていうか。昔観たアニメはそうでもなかったけど、大人になってからは結構良いなと思って」

 子供の頃アニメの再放送で観た時は、緑色の変なヒーローとしか認識していなかったが、後に成人して付き合いで行ったパチンコ屋のポスターを見てカッコイイと思った。

「だったらさ、同じ作者のこれなんかどう?」

 そう言いながら麻実が提案したのは空中元素固定装置を内蔵した女性型アンドロイド。

「懐かしいー、これもいいかも」

桂が声を上げる。

「そうだ、けっこう仮面はどうかな?」

 続けざまに麻実がアイデアを。

「えっ、月光仮面も同じ人が書いた作品なの? あれって戦後すぐじゃなかったの?」

「違う違う、月光じゃなくて濁点のないけっこう」

 桂が勘違いしたのは戦後の覆面ヒーロー、麻実が言ったのはそのパロディ作品。

「そうなの?」

「そう。まあそれは別にいいけどさ、それよりもけっこう仮面は拙いでしょ」

「シロ、知っているんだ。エッチだな」

「何? エッチなの? どういうこと?」

「全裸で顔だけを覆面で隠している女」

「そんなの絶対に却下です。私以外が稲葉くんの、美月ちゃんの生まれたままの姿を見るのは駄目」

 桂が腕で大きく×印を作って言う。

「でも、あたし見たよ」

「……まあ、麻実ちゃんは特別で」

「まあ、それは置いておいて。やっぱり駄目だよね、これは」

「俺も流石に全裸というのは。少しくらいエッチなかっこうだったら我慢できると思うけどさ」

「え、エッチなものでも、露出の多いのでもいいの?」

「構わないよ」

「それじゃあさ、フリフリな衣装は?」

「動き難くなければ問題ないかな」

「どうしたの稲葉んくん?」

「そうだよシロ、前だったら絶対に拒否したのに」

「うん、前も、水着の時も言ったけどさ、どんなかっこうでも隠してしまえば問題ない。ちょっと疲れるけど、モゲタンの助けを借りればある程度の広さなら外から見られないような閉鎖空間にすることが可能だから。それならどんな姿になっても大丈夫だろ」

 大阪での戦闘で、円盤状の盾を複数枚展開して周囲を囲んでしまえば外からはほとんど見えない状態を作り出せることを知った。

「でも……広い範囲は無理なんだよね」

と、桂が。

 この言葉に美月は、

「それも問題ないはず。実際に目撃されるのはしょうがないけど、撮られて拡散されるのは防げるはずだから。モゲタンの能力で」

〈ああ、可能だ。少し手間がかかるのは仕方ないが、それでキミが心置きなくデータの回収に努めてくれるのなら、それ位はお安いものだ〉


「そうか……なるほど……隠すか……」

 途中から会話に参加しなくなった麻実の脳内に突如アイデアが降りてきた。


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