水着deデート ふくしゅうへん
このふくしゅう譚は一通の小包から始まった。
中間試験の結果が思ったよりも良く、この人生初といっても過言ではない好成績に喜びながら、まだまだ先の高校受験のために勉強に励もうとしていた美月を阻害したのは、先程の小包であった。
桂はまだ帰宅しておらず、受取可能の人間が自分しかいないために美月は宅配に応対することに。
荷物は桂宛てであった。
珍しいと、美月は思った。
宅配を受けること事体は珍しいことではないのだが、その場合事前に荷物が届くことを桂は美月にちゃんと連絡している。
今回の荷物に関しては何も聞いていなかった。
荷物の中身が少々気にはなるが、親しき仲にも礼儀あり、勝手に開けて中を見るわけにはいかない。
というわけで、美月は荷物を受け取ったものの、そのまま放置し、また勉強を。
それからしばらくしてから夕ご飯の支度を。
支度を終えた頃合いに桂が帰宅。
いつものように麻実を呼んで、三人そろって夕食を。
食べ終えて、片付けをして、麻実はすることがあると言って、そそくさと自分の部屋へと退散。
部屋が二人だけの空間になった途端、それまですっかりと頭の中から抜け落ちていた小包のことを美月は思い出し、
「そういえば桂宛てに荷物が届いてたよ」
と言って、渡す。
「ありがとう、稲葉くん」
「それ何を買ったの?」
「知りたい?」
質問したのに、反対に満面の笑みを浮かべた桂に問われてしまう。
「別にそんなに知りたいわけじゃないけどさ。けど、桂その荷物のこと何も言っていなかったと思って」
「実はね、稲葉くんには秘密にしておこうと思っていたんだ」
「俺には秘密なの?」
「秘密というか、本当はいきなり見せて驚かせたかったんだけど」
「ふーん」
「私が買ったのは……あれ……ちょっと待ってね……なかなか封が開かない……あ、開いた。じゃーん、これでーす」
ちょっと厳重に梱包されていた中身を取り出すのに苦労し、ようやく桂が商品を手にし、両手で広げ、美月へと掲げる。
それはマイクロビキニと呼ばれる、着用者の必要最低限な部分だけを覆い隠した水着であった。
「桂また水着を買ったのか、それで三着目だろ」
そんなことを言いながらも美月は内心少し喜んでいた。
彼女がこんな大胆な水着を選んで着用してくれる。これで喜ばない男は、まあ美月の見た目は美少女だが、いない。
しかしながら、どうせなら実際着たところでサプライズしてくれたならば、もっと嬉しいのにとも思ってしまう。
「違う、そうじゃないの、これを着るのは私じゃなくて稲葉くん」
「……俺?」
「そう、だってさ私だけ二着も水着を買うのは不公平でしょ。だから稲葉くんにも二着目をと思って、これを選んだの」
「いや、俺も二着購入しているぞ」
「へっ?」
「こないだ一緒に選んだセパレートのと、それからスクール水着」
「スクール水着はカウントしません」
「まあそれは別にいいけど、でもさ二着も買う必要はないだろ。桂が二着買うことになったのは、まあ事故みたいなものだし」
「あの時稲葉くんが止めてくれれば、あんな恥ずかしいことにはならなかったし、余計な出費もする必要もなかったし、それに絶対に外で着れないような水着を買うことにもならなかったの。……だからちょっと復讐をしてみようかなと。私みたいに、恥ずかしい水着を着てもらって私の目の保養になってもらおうと思ったのよ」
マイクロビキニを両手で持ちながら、桂は思いのたけを美月にぶちまけた。
「……うん、分かった。着ればいいんだな、その水着」
「着てくれるの」
「ああ、その代わりに桂もこないだのを着ろよな」
まるで紐のようなマイクロビキニを、少々手間取りながらも美月は着用。
鏡に全身を映してみるが、あまり似合わないような気が。
そもそも、こういう水着はまだまだ成長段階の幼い肢体にはあまり向いていない、こういうのが好みの人間がいることは否定しないが、それでも自身の嗜好としてはもっとメリハリのきいた体型、例えばお尻なんかが大きな、の方が合っていると美月は思ってしまった。
一方桂はといえば、試着の段階で美月に見られてはいるのだが、それでもやはり自身のお腹でこれを着るのは冒涜に値するのではと思ってしまい、試着室の時よりも厳重に両手でお腹を隠して登場。
「やっぱりこれ無理」
登場早々に桂が泣き声を。
「俺もこれは無理かな。俺の貧弱な身体じゃ似合わない。来年か、再来年くらいなら良い感じになっているかもしれないけど」
「……それじゃこの水着はお互い封印ということでいいかな」
「ああ」
互いの同意があり、二人の約束が締結された。
……のだが、それはすぐに破られることに。
いつもとは違う雰囲気に、ちょっとだけ良い感じになってしまい。
ほんのちょっとの悪戯心で水着のままで。
その後も何度も、この水着を着てプレイしたのだが、それはまた別のお話。




