水着deデート
サブタイトル詐欺です。
美月は試験勉強に励んだ。
真面目に取り組んだおかげなのか、はたまた桂の教え方が上手かったのか、それとも偶然山が当たったのか、いずれが効果をもたらしたのか定かではないが、とにかく予想以上にできたという自負、というか自信があり、余裕綽々でテストの返還を楽しみに待っていた。
そんな間にも美月を取り巻く環境はわずかではあるが変化し続けていた。
京都で出会ったズィアとその仲間達は、精力的に動き、自身の住んでいる地、つまりヨーロッパ以外の地にも足を延ばして、まだほんの数人ではあるが着実に他のデーモンとの接触を図り、モゲタンの管理するネットのチャットルームへの勧誘を。
つまり、参加人数が右肩上がりに。
そんな中で試験勉強を終えた美月は何をしていたかといえば、精力的に動き回るヨーロッパ勢同様に、自身も世界各地とまではいかなくとも、日本全国津々浦々に足を延ばし、同じような境遇の人間を探し出す……ということはせずに、いつも通りの生活を。
というのも、探すという行動には異論はないのだが、二度目とはいえ一応義務教育期間の年齢、そんな年端もいかない少女が学校にも行かずにあちらこちらと飛び回るのは世間体があまり良くない、というか悪い。
それに美月自身も学校を、中学をサボるつもりは毛頭なかった。良い成績だけでは良い学校、この場合美月の進学目標は桂の勤めている高校だが、に進学はできない。世の中には内申点という物が存在する。現在の成績ではまだ合格確実ではないために、少しでも他のことでの底上げを。つまりサボるという行為は御法度であった。
さらに付け加えると、モゲタンが、美月の周辺、つまり関東地方には同じような力を有するデーモンは存在しないだろうという見解を述べていた。去年の夏に対峙したあの少年以降、何度もあったデータ出現に際し他の者が出現するような兆候が全く見られなかったことを考慮して、そのような判断を。
美月もモゲタンの意見には同意であった。
ということで、前置きが長くなってしまったが、テスト以降に美月がしたことについて書きたいと思う。
していたのは、水着選び。
お風呂での会話を実行したことになるのだが、実情はちょっと違う。
本当ならば、実店舗に行ってあれこれと選び、選ぶのは桂がだが、そして購入する予定だった。だが、テストが終わればあとは返ってくるのを待つだけの身の生徒とは違い、一枚ずつ採点しなければいけない桂はそれに忙殺され、行くことができない。ならば、美月一人、では恥ずかしいから、麻実や他の友人達と連れ立って買いに行くという手もあったのだが、桂は自身が美月の水着を選びたい、色々と着せて遊びたいという内なる欲求を制御することができずに却下。
つまり、後日桂の仕事が一段落した頃にデートがてら一緒に買いに行くことに。
ならば先の文章にあった水着選びとは何かというと、購入してきた水着特集のファッション誌とそれからネットとで情報を収集し、桂と麻実があれこれと自身の好みを言い合い、美月に似合うのは何かと相談し合い、時には意気投合したり、または意見が対立したり、それから協議したりしていた。
そんな中で当の本人である美月は何をしていたかというと、傍観していた。
美月本人としては、もう購入することが決定しているスクール水着一着で十分だと考えていた。他の水着は買う必要ないと思っていた。
だが、そんな美月の意見は早々に二人に不許可を出されてしまう。
というわけで、着る当人であるにもかかわらず美月は蚊帳の外へと。
二人の議論が。
まずは麻実が、美月の髪型に合わせてスポーティーのセパレートな水着をチョイス。それに真っ向から対立するように桂が選んだのはフリフリのワンピース。
どちらも甲乙がつけ難い選択であった。
美月の容姿はショットカットの美少女。スポーティーなものが似合うのは当然ながら、可愛い水着も絶妙なアンバランスさを醸し出していて悪くない。
ならばと今度は桂が。選んだのは先程とは違う、大胆なビキニであった。それに対して麻実は白のワンピースを。
これも決着がつかない。
というのも、互いが選んだ水着を非難することができずに、内心ではそっちも良いかもと二人とも思っていたからである。
その後も、対決という名の美月をおもちゃとした遊びが。
美月の成長中の身体には合わないようなブラジリアン水着が出てきたり、グラビアアイドルの着るようなセクシーなものが挙がったり、他には今や懐かしのハイレグとか、オフショルダー、肌を露出してはいけない女性用のブルキニとか、ラッシュガード、ネタに走った囚人服のようなもの、はたまたジュニアアイドルが着せられているような水着だか紐だか分からないようなもの。
色々と候補が。
そんな二人のやり取りを美月はただ黙って、口を挟むことなく聞いているだけだった。
「シロはどれがいいの?」
不意に、麻実が黙って聞いているだけの美月に訊ねる。
当の本人は、これまで挙がった候補の中でどれが一番気に入ったのか、と。
「俺は別にどれでもいいよ。ああでも、最新の高性能な競泳水着だけは遠慮したいかな」
「そうなの?」
「なんか意外かも。稲葉くん、可愛いのよりもそういう機能的なものの方が好きだと思ったのに」
麻実と桂がそれぞれ感想を。
「うんまあ、機能的でかっこいいとは思うけどさ、いざ自分が着るとなると大変だから」
間近に迫ったロンドンオリンピック関連の番組で、新型の競泳水着の情報にふれ、タイムを出すために窮屈でいて着るのに時間と手間がかかり、そして存外破れやすくて、その上高価という、知見を得ていた。
「それじゃあさ、こういう水着でもいいの?」
そう言って麻実が美月に見せたパソコン画面には、普段の美月ならば絶対に拒否するような可愛いらしい、ガーリッシュな水着が。
「うん、いいんじゃないかな」
これまでの美月ならば全力で拒むようなデザインであったが、悪くないと言う。
「じゃあ、これは?」
今度は桂が淡いピンク色のフリルが付いたワンピースタイプの水着を。
「うん、可愛いね」
これも肯定を。
「じゃあ、こういうのは?」
セパレート型を桂が。
「上下別れているのは楽そうだよな」
去年の経験から鑑みて、スクール水着のような一体型のものよりも、別れたデザインの方が着替える時や、トイレで用を足すときは楽ではないかと想像して美月は言う。
「これは?」
麻実が大胆なビキニを薦める。
「この体型にはまだちょっと早いような気がするけど、まあ二人が薦めるのなら」
現在成長中とはいえ、まだまだ子供の身体。小さな胸とお尻では、この手の水着の魅力を半減させてしまうと美月は考えるのだが、強いリクエストがあるのであればそれに応えるのも吝かではないと。
「どうしたのよシロ?」
「……何が?」
「いつもの稲葉くんなら、絶対にこんなの着ない、死んでも着るもんかって駄々をこねるのに」
拒否はするが、決して駄々をこねているわけではない。むしろ、嫌がっているのに半ば無理やり着せてくる桂の方がどちらかといえば駄々をこねているんじゃと内心思いながらも、見た目とは違い中身はいい大人なので、そんなことを口に出せばむくれて拗ねてしまう未来が容易に想像できてしまい、美月は内心思ったことは吐露しなかった。代わりに、
「まあ恥ずかしいかなとは思うけどさ」
「だったら、どうして着てもいいと思ったの?」
「うん。水着の上にこういうのを着たり、パーカーを羽織ったりしたら平気かなって。水遊びではしゃぐような歳じゃないし、ずっと人目につく場所では隠していれば問題ない。だから、こういう水着でも別に構わないぞ」
そう言って美月は、笑いながらマイクロビキニを指さした。




