女子中学生、西へ 18
戦塵と道頓堀の汚れを綺麗に洗い流したのに、美月は自身が汚れた、穢れたような気持ちで一杯になってしまった。
というのも、疲労困憊で力が入らずに、一人で入浴して身体を洗うことがほぼ不可能だった美月は、麻実と一緒に入浴することに。
美月は最初、それを拒んだ。
妹のような存在と一緒に風呂に、裸の付き合いをするなんて以ての外。
さらにいうと、麻実はまだ未成年、見た目はともかく中身はもうすぐ三十路に届きそうな成人男性が、そんな年齢の少女と一緒にラブホのお風呂に入るなんて、まかり間違えば未成年との淫行に抵触しかねない性犯罪すれすれの所業。
「別にシロになら見られても平気だから。それにさ、シロはこれまで散々桂の裸を見てきてるんでしょ」
抵抗している美月に麻実はこともなげに言う。
そう言いながら力が入らない美月の服を強引に剥ぎ取り、麻実自身も全部服を脱ぎ捨てお風呂へと。
浴槽にお湯をためている間に美月は全身隈なく洗われてしまう。
その際、これまで桂しか触れていない部分まで念入りに洗われたり、麻実のちょっとした悪戯で高級なお風呂屋さんでするような身体の一部を使った洗い方をされたりした。
これが美月が精神的に汚れてしまった、穢れてしまった、超えてはいけない一線をこえてしまったと感じた理由。
入浴を済ませてもすぐに宿屋には戻らなかった。
ラブホに入店する前に立ち寄ったコンビニで購入した、コンビニに入ったのは互いに金銭を持っておらず、モゲタンに能力を使用して預金口座から金銭を引き出すため、お弁当やカロリー補給食を食べる。
食べ終わると、美月の体力が少しだが回復。
宿へとすぐに戻ろうと主張する美月に対し、麻実はせっかくお金を払うんだから、もう少し楽しんでから帰ろうと主張。人生初のラブホをもう少し堪能したかった。
室内のテレビでいかがわしい、十八歳以下が観てはいけないR指定の映像を視聴しようとする麻実、それを阻止しようとする美月。
二人のちょっとした攻防戦がベッドの上で繰り広げられている中、ズィアからの電話が。
『申し訳ございません。見つかりませんでした』
ならば体力も少しだけど回復したことだし、また道頓堀へと舞い戻り一緒にデータの捜索を行う旨をズィアに伝えようとした美月であったが、その言葉を発する前に思い止まった。
美月が行くのであれば、おそらくではあるが麻実も同行すると言い出すだろう。
通常の状態であるのならば、人手は多いほうが良いから、その申し出を素直に受けるのだろうが、今は事情が違う。初めてのラブホで現在は多少はしゃいでいるような様子ではあるが、本格的なデータとの戦闘しかも連戦を経験し、麻実も相当疲れているはず。
何度も書くが麻実はまだ未成年。つまりまだ成長期間。
無理はさせたくない、というのが親心ならぬ兄心であった。
それにこれは美月の勝手な推測であるが、もしかしたら責任を感じているのかもしれない。一番近くにいたにもかかわらず逃がしてしまったことについての。だからこその、このはしゃぎぶり。
しかしながら、見つからないからといって放置しておくのも危険。
どうしたものだろうかと思案している美月に耳にズィアの声が再び。
『だけどそんなに心配をしなくてもダイジョウブじゃないかと思いますわ』
「……それはどういうことですか?」
『はい、あの時わたしはデータに向けて攻撃しました。当たりはしませんでしたが、それでもかなりダメージを与えられたと思います』
ズィアの必殺の一撃の威力を美月は目の当りにしている。
〈たしかにあの威力ならば、掠めただけであってもデータに相応のダメージを与えた可能性がある。ならば、データは自身の回復のために再び休眠状態に入ったということも考えられる。そうだったらいくら捜索をしてもまず見つからないであろうし、そして彼の言う通り心配は無用かもしれない〉
美月の脳内でモゲタンが。
「……モゲタンも心配の可能性は低いと言っています」
『そうですか。でしたら、わたしはも少しだけ探して、それからエアポートに向かいます』
「はい、それでお願いします」
『了解。それじゃ今度はオンラインで逢いましょ』
「はい、それじゃ。あ、気を付けて帰って下さいね、後、ありがとうございました」
『こちらこそ、ありがとうございます。麻実にもよろしくと伝えておいてください』
「分かりました」
電話が切れたところで、麻実にズィアとの会話の内容を伝えようとし、美月は彼女のいる方向を見る。
麻実は美月によって阻止されていたビデオの音量を絞り視聴していた。
「ねえねえ、シロも桂にこんなことしてもらったの?」
大きなモニターには、セクシー女優がモザイクで隠された大きなものを口一杯に頬張りながら前後に動かしている。
口頭での性行為、所謂フェラチオ。
若気の至りで一度お願いしたことはあった。その時一応してはもらったが、慣れないから故に動きが拙く、当然ながら気持ち良くなかった。そしてそれ以降、桂に二度としたくないと言われ、それ以降はなし。
それを言うのは恥ずかしい過去である。
「いいから、もう行くよ」
強引に話を打ち切り、動画も停止した。
帰還後、就寝から目覚めた靖子に「美月ちゃんと、麻実さん、同じ香りがする」という鋭い言葉を突き付けられて少々慌てたり、朝食ではまだ完全に回復をしていない美月が押し寄せてくる自身の中の食欲と葛藤し、他の生徒のことも考えながらも、それでも三杯もご飯をお代わりしたり、徹夜したせいなのか妙なテンションで、普段なら絶対にのらない麻実の話にのったりして、知恵と文、それから靖子に心配されたりもしたが、恙なく修学旅行三日目の大阪見学を終了し、一同は帰京するために新大阪駅へと。
ここから新幹線に乗って、東海道を三時間ほどかけて東京へと。
家に帰るまで遠足とはよく言うが、修学旅行も同じである。
無事に帰り着くまでは修学旅行、つまり学習の一環である。
とはいえ、そんな建前のようなことは当の中学生達には関係なし。
この三日間で疲れ果てている者もいれば、最後の盛り上がりに興じている連中も。
美月も油断したような状態であった。
浮かれていながらも、頭の中で今晩の夕ご飯は何にしようかという算段を。
定刻通りに新幹線は新大阪駅を出発。
出発しておおよそ十分後、車内でテロが起きた。




