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女子中学生、西へ 17


「ごめん、シロ」

「モウシワケアリマセンでした」

 なんとかカーネルサンダース型のデータを破壊したものの、疲労困憊、もう一歩も動けないような状態でビルの屋上でへたり込んでいた美月の所に、麻実とズィアが合流した。そして開口一番に、さらには同時に飛び出した言葉が今のもの。

 美月には両者が異口同音、謝罪の言葉を述べた理由が全く分からない、見当がつかなかった。

 その理由を尋ねようとしたが、体力は限界に近く、口を開くのもままならないような状態。

 それでも長年の売れない役者生活で培った技術、口を開かなくとも話すことができる、所謂腹話術で訊こうと。が、それよりも先に麻実とズィアが疑問を解消してくれた。

「データを逃がしちゃった」

「ハイ、あれはわたしのミスです。キチンと狙って放っていれば」

「違う。あたしの方が近かったんだから、あれはあたしの責任」

「イエイエ、麻実にはサポートをお願いしていました。だから、逃してしまったのはわたしのせいです」

 美月の前で、互いに自分に責任が、と言い合っている、

 しかしながら、この言葉を聞いていても美月には訳が分からなかった。

 脳内の灯っていたデータの信号は消えた。これはデータの破壊を示す証拠。

 そのことを脳内でモゲタンに確認する。

〈キミの疑問はもっともだ。ワタシも確認している〉

 モゲタンも同じ見解であった。

 疲労から少しは回復したのか、ようやく動くようになった口で美月は、

「どういうこと?」

 と、尋ねた。

 出現したデータは脳内の信号では全て退治したはず。その証拠に頭の中で警告音は鳴り響いていていない。

「えっとね、あたしの絶体絶命のピンチをズィアが助けてくれて、それで光の矢で大きな蟹を破壊してくれたの、それで今度はもう一体のデータを一緒に倒そうという話になって」

「ハイ、美月も知っていると思いますが、わたしの力には時間がかかります。だから麻実にデータを引き付けておいてほしいとお願いしました」

「今度のは竜の形でくねくね動いて、それでものすごく速かったの。それでもあたし頑張って竜の形をしたデータを引き付けるのに、けん制することに成功して」

「そこにわたしが光の矢を放ちました」

「それで……」

「当たって、破壊できたんだけど……」

「……ハイ、データを回収しようとした段階で、また別のデータが出現しました」

 新しいのが出現したことに美月は気がつかなかった。

 いや、気付いていた、あの時一瞬だけ妙な違和感、ノイズのようなものを感じていた。それを今の今まで忘れていた。

「もう一体出現したの?」

「新しいのというのはちょっと違うかな。あれはあたしとシロが最初に追いかけていたのだから」

 失念していた。

 倒したデータの数は三体、しかし出現したのは四体。

 最初に、この道頓堀まで追いかけていたデータのことがすっかりと頭の中から抜け落ちてしまっていた。

「それでそのデータはどうしたの?」

「竜のデータを奪って、逃げていったの」

 データがデータを奪うというのは初めての事象であった。

「そんなこと在りうるのか?」

〈初めてのことだ。ワタシが知る限りにおいては、そのようなことは一度もなかった。興味深いな〉

 モゲタンも知らないこと、何が起きているのか理解不能であった。

 美月は重たい身体に鞭を入れて、無理やり引き起こした。

「それじゃ、もう一回探そう。今度は三人だから、見つけられる可能性は上がるはず」

「シロ、そんな状態じゃ無理よ」

「そうですわ、美月は休んでいてください。私は時間がありますから、探します」

「そうそうズィアに任せよ、それにあたしたちは宿に戻らないといけないし」

 修学旅行中で、宿を抜け出してきている。

 このままずっと戻らないままだったら大きな問題になってしまう。

 ズィアの携帯電話にモゲタンの能力を付与し、秘匿回線で通話できるようにして、

「それじゃ、後はお願いします」

 と言い残して、美月は麻実に抱きかかえられて道頓堀を後にした。


「そういえばさ……」

「何、シロ?」

 麻実に抱きかかえられて宿泊先のホテルへと帰還中の美月は、とあることを思い出し、それを口にしようとした。

「どうしてズィアさんが大阪にいたんだろ?」

 いてくれたのは正直大変助かった。彼の存在がなければ、まだ道頓堀でデータ相手に格闘を繰り広げていたはず。

 そして大きな被害を、場合によっては犠牲者を出していた可能性もあった。

「ああ、それね」

「何か聞いてるの?」

 ズィアと再会したのは麻実の方が先だった。

「うん、シロと合流する前にさ、あたしも同じことを思って訊いたんだ。そしたら、けっさく。あたし達と京都で別れた後にすぐに関空に行ったんだけど、チケットが全然取れなくて、ようやく取れたのが今日の便だったんだって」

「……そうなんだ」

「そうだって。でもさ、良かったって言っていた」

「へ?」

「だってさ、そのおかげであたしのピンチを救うことができたって。あたしも、そう思うし」

「うん、そうだね。後でまたお礼を言っておかないと」

「うん。……ところでさ、話変わるけどいいかな?」

「別にいいけど、何?」

「シロ、ちょっと匂うわよ」

「あっ、やっぱりそうかな」

 道頓堀の中へと飛び込んだ、戦闘中はあまり気にはならなかったが、今こうして他者から指摘され、自分の匂いを嗅いでみると言われたよう匂うような気が。

「うん、臭い」

「じゃあ、宿に戻ったらシャワーを浴びないと。ああでも、静かに、他のみんなを起こさないように浴びることできるかな」

 同室の友人達の安眠を妨げたくはなかった。

 睡眠は成長に影響を与える。

「だったら他の場所でお風呂に入ったら」

「どういうこと?」

「だってさ、音を出して知恵達を起こしたくないんでしょ。だったら、別の場所で身体を綺麗にして、それから戻ったらいいんじゃない。まだ夜明けには時間があるし、それ位の寄り道は平気でしょ」

 麻実の案は確かに妙案に思えた。が、

「でもさ、そんな場所何処にあるの?」

 そんな都合の良い場所がすぐに見つかるとは思えない。

「え、そこら中にあるよ」

「どういうこと?」

「ここから見える範囲でも結構な数のラブホの看板が見えてる。ああいうホテルって、人に会わずに入店できるんでしょ。入り口付近なんかは流石に防犯カメラがあると思うけど、そこはモゲタンの力で隠蔽工作をしてもらって」

〈うむ、それ位はお安い御用だ〉

「いや、ダメダメ。未成年といかがわしいホテルに入るのは」

「そりゃシロが男の身体のままだったら問題だけどさ、今は可愛い美少女なんだから。それにシロ、今すごく疲れていて、体を洗うのも大変でしょ。だから、あたしが一緒に入って洗ってあげる、綺麗にしてあげる」

「絶対にダメ、行くのは禁止」

 ホテルに入るのでさえ駄目だと思っているのに、その上一緒にお風呂に入るなんて。

 美月は行くことを拒否する声を上げるが、麻実はそんなことお構いなしに高度を下げ、一路ラブホへと向かった。



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