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女子中学生、西へ 11


 ギアを上げて追跡したが、データを捕獲するという目的は叶わなかった。

 データはモゲタンの予測通りに、道頓堀へと侵入してしまう。

 深夜という時間帯にもかかわらず、昼間ほどではないが、それでも大勢の人が。

 そんな中にデータが侵入、続いてサイクリストのような姿をした美月が入り込めば、瞬く間に人々はパニックになり、周囲は阿鼻叫喚とまではいかなくとも、それなりの騒乱に見舞われてしまうのは必至かと思われたのだが、存外そうはならなかった。

 というのも、何度も書くが遅い深夜帯。

 こんな時間に外に出ている人間の大半は出来上がっている状態、つまり酔っぱらっている連中。

 アルコールというのは脳の機能を正常に働かせない作用が。

 普通ならば、このような状況では危険を察知して逃げるという行動をとるのだが、それとは反対に酔っぱらい共は何事かとわらわら近寄ってくる。

 瞬く間に美月の周囲に人だかりが。

「何そのかっこ?」

「ねえねえ、それってさコスプレ?」

「俺らと一緒に遊ばない」

 集まってくるだけならまだしも、話しかけてくる者も多数存在。

 さらには美月の小さな身体に手を伸ばして、一緒に写メを撮ったりする強者も。

 それだけにとどまらず、

「子供がこんな時間に、こんな場所に、危ない場所におったらあかん」

 と、説教をかましてくる人間まで。

『ちょっとシロ、何してんのよ。逃げちゃうわよ』

 上空から依然データを捕捉している麻実のちょっと怒った声が美月へと飛ぶ。

「そうはいっても、この人たちを蹴散らして追いかけるわけにもいかないから」

 美月の能力をもってすれば、周囲にこれだけの人がいても、簡単に振りほどき追跡を再開することは可能であった。

 だが、力加減を間違って行使してしまった場合、それでなくとも真っ直ぐに立てないくらいに出来上がっている連中、もしかしたらちょっとした美月の動きでバランスを崩し、こけてしまう。それくらいで済めばいいのだが大怪我を、もしくは一生残るような障害が。

だから美月は無理に振りほどくことはできなかった。

「離してください。急いで追いかけないと」

 と、必死に訴えかけるが酔っぱらっている連中にはそんな言葉は届かない。

 美月の周りの人だかりが厚くなっていく。

『そんな連中まとめて水の中に放り込めばいいのに。そうすれば酔いも醒めて一石二鳥よ』

「……できないって」

『ああ、もう……』

 美月の脳内に響いていた麻実の声が消えた。

 消えたと思った瞬間、今度は鼓膜に麻実の声が振動した。

「ちょっとアンタ達いいかげんにシロから離れなさーい」

 上空から麻実が怒鳴った。

「上にも誰かいるぞ」

 その怒鳴り声に大勢の酔っぱらいが一斉に頭上を見上げた。麻実の姿を発見する。

 注目が麻実と移り、美月の周囲にわずかな隙間が。

 その隙に、美月は群衆の間を縫うようにして抜け出し、再びデータを追った。


 データと美月の追いかけっこが再開。

 人ごみを縫うようにして逃げる四つ足のデータを美月が追う。

 四本足と二本足、普通に考えるのならば四本足でしかも逃げる側のデータがすごく有利なはずであったが、美月と距離はあまり開かなかった。

 というのも、いつものデータであるならば前方に人がいようが、或いは建築物があろうが、お構いなしに進むはずなのだが、今回のデータはたくみに人を避け、さらには建築物にも被害を与えない。

 これは美月にとっては幸いであった。

 あと少しで追いつきそうな位置にまで。手を伸ばせば届きそうな距離に。

 美月は必死に手を伸ばし、データの尻尾を捕まえようとした。

 その瞬間、目の前で尻尾が消えた。

 消えた、のではなくデータの姿が眼前で突然形が変わった。

 ついさっきまでは狐のような姿をしていた。それが一瞬で人型へと変貌。

 これまでもデータの姿が変わる、あるいは成長するというのは目撃してきた。だが、このように全く異なるフォルムに変貌を遂げるのを目撃するのは初めての経験だった。

「……変身するのかよ」

 心の中の感想のはずだったのに、思わず声になって出てしまう。

〈あのような姿だったのだ、変身してもさほど変ではないだろう〉

 そう、狐の姿であった。だったらモゲタンの言う通りに変身、もとい化けてもおかしくないのかもしれない。

「だけど、それは昔話の世界だろ」

 そう愚痴をこぼしながらも、足を止めることなくデータを追った。


 追ったのはいいが、やはり人の流れが美月の行く手を阻む。

もう少しという距離に美月は迫るが、データは躱し続ける。

あと一歩の距離がなかなか詰まらない。

 人ごみの中へとその姿を隠してしまう。

 そんな状態でもなんとか追いかけることが可能なのは、データの信号を脳内で捕捉しているから。

『何やっているの、シロ』

 ついさっきまで酔っぱらいの被写体になっていた麻実が、ようやく追いつき、上空から声を。

「人が多くて進めない。麻実さんの所から見える? データは人型に変わっているから」

 状況と確認、それから報告を一息で。

『人型って……ここから見えるのは全部人なんだけど。って、いた、黒い人型よね』

「そう」

『橋の上。あのグリコの看板のすぐ横』

 道頓堀といえば戎橋、そしてグリコの看板。

「分かった」

 返事と共に美月は跳びあがり、人の頭の上をいくつも飛び越え、橋の欄干へと。

 橋上は深夜なのに人が多く、その間を抜けてデータを追うのが困難であったが、流石に欄干の上にまでは人はいない。

 欄干を走り抜け、データへと迫る。

 遮るものが何もない。

 さらに美月にとって幸いなことに、データは欄干の横にいる。

 これで確実に捕まえられる、回収できると思った矢先、美月の脳内に二個目のデータ出現を知らせる警告音が。

「まさか同時出現か」

 これまで一日で複数のデータが出現したことはあったが、同時の、しかも近距離に出現するというのはなかった。

〈そのまさかだ。しかも近いぞ〉

 欄干の上を走る美月の横で大きな水柱が立った。



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