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女子中学生、西へ 0

ソニックイングス2


「ほんで、美月ちゃんが行った場所はどこなん?」

 修学旅行は全行程が参加者全員での団体行動ではない。

 五人ないし六人でグループを作り、各班がそれぞれ話し合って、京都市内の歴史的な場所を二か所巡って、後にレポートを提出することになっていた。

 美月はいつものメンバーと。

 何処を巡るかという会議のさなかで出たのが、先の言葉。

 美月、稲葉志郎が修学旅行で京都に行ったのは干支を一周するよりもはるかに前。

 そんな気遣いなんか無用だけど、それでも配慮してくれたことに内心で感謝し、それから当時のことを思い出そうと努力する。

 まず真っ先に記憶に蘇ってきたのは太秦うずまさの撮影所。

 そこで時代劇の撮影を見学。思えば、あれが人生初に撮影現場だったかもしれない。

 まあ、そんなことはともかく、

「……太秦かな」

 質問に答える。

「映画撮影所は行っても大丈夫なのかしら?」

 歴史的な場所に映画撮影所を含んでいいのだろうかと心配しながら靖子が訊く。

「さあ、どうやろ」

「シロが行った場所は除外するんだから、そんなこと気にしなくてもいいんじゃないの」

「けどさ、太秦って変な名前だよね」

「秦氏が時の天皇に、絹をうず高く積んだことから、うずまさという名前を与えられて、それに太秦という漢字をあてたはず」

 地名の由来を美月が答える。

「ホンマ、何でこの子はそんなこと知ってるんや」

「紙芝居のお兄さんに教えてもらった」

これは元役者だから知っているという知識ではなく、美人の師匠になったあの人との雑談で得た知識だった。

「それで、他には?」

 促されて、美月はまた記憶の扉を開ける努力を。

 たしか平安神宮は行ったはず、それから八坂神社にも……あれは家族旅行でか。他には……平等院鳳凰堂、ああでもあれは京都市内じゃないし……。でも、いいのか。

「金閣寺と清水寺かな」

「ほな、そこは除外ということで」

「いいよ別に除外しなくても。前に行った時はあんまり歴史に興味なんかなかったから。今行ったら、当時とは違う感覚で見学できると思うから」

 配慮は無用であることを伝える。

「ええんや。ほな、みんな、美月ちゃんが言った金閣寺と清水寺以外で行きたい所あるか?」

「ああ、あたしあそこ行きたい、南禅寺。そこで石川五右衛門ごっこがしたい」

 まず真っ先に麻実が希望を。

「麻実さん、斬鉄剣で何を切るつもりなの?」

「そうじゃないよ。麻実さんが言っているのはルパンじゃなくて、歌舞伎の石川五右衛門。南禅寺の門の上で見得を切るのがあるから」

 文の疑問を、美月が返答。

「でも、門の上になんか登れるんか?」

「多分無理じゃないかしら」

「そうなの、残念ね」

「でも、南禅寺というのは良いかもしれない。由緒あるお寺だし、それに琵琶湖疎水というのがあって石造りの水道橋が走っているみたいだから」

 京都のガイドブックを広げながら靖子が言う。

「他に行ってみたい候補あるか?」

「あたしは晴明神社に行きたい。最近陰陽師ものにはまってるんだよね」

「私は伏見稲荷の千本鳥居に行きたいかな。幻想的な場所を美月ちゃんと一緒に潜るの」

 文と靖子がそれぞれに自分の希望を口にする。

「美月ちゃんは?」

 再度美月のシンキングタイム。

 行って見てみたい場所は一応あるが、そこへみんなを連れて行くのは。

 美月が行きたいと思いついた場所は、御土居おどい

 かつて豊臣秀吉によって造られた京都を囲う土塁。これによって洛中と洛外に。

 学生の頃はそんなものに全く興味なんかなかったが、劇団時代に歴史に詳しい人たちと話す機会があり、そこから興味を持ち、時代小説なんかも読み漁っていた。

 御土居の遺構が丸々残っているわけではない。その大半はもうすでになくなっている。が、今でも見られる場所があることを最近教えてもらった。

 良い機会だから、見てみたいと思うが、土塁なんかみても女子中学生が楽しめるはずがない。だから口に出すのが躊躇われる。

 結局美月の口から、御土居という単語は出なかった。代わりに、

「北野天満宮はどうかな?」

 代替案を。

「天満宮?」

「うん、僕達一応受験生だから、道真公に合格できるように祈願するというのは」

 菅原道真。流罪で太宰府に送られ、そこで死去。後に、雷神となり、都に祟りをおこし、それを鎮めるために建立されたのが北野天満宮。

 雷神としてだが、後に学問の神として信仰されている。

「それいいかも」

「それじゃ、そこは候補の一つで」

「そういえば知恵はまだ候補を上げていないけど」

「うん、ウチか。ウチはな、京都駅の中央コンコースを堪能して、それから京都タワーがロボに変形するのを妄想できたらそれでええんや」

「ガメラね」

 間髪入れずに麻実が言う。

「そや。あそこでガメラとイリスの激闘した場所なんやなと楽しむんや」

「けど、ガメラは分かるけど。……京都タワーは?」

 麻実にはもう一つのネタが理解できなかった。

「……もしかして真尾まお?」

 思い当たる節があり、美月が言う。

「麻実さんでも絶対にこれは分からへん思ったのに。まさか美月ちゃんが分かるとわな。ホンマ、この子はちょっと昔のことをよう知っとるわ」

 美月にしてみれば、そっちこそどうして知っているのと疑問の声を投げかけたいとこだが、それをしたら正体がバレてしまいそうなので黙っておく。

 知恵の言った京都タワーのロボが出てくるのはソニックウイングス2というシューティングゲームの一面に出てくる敵で、美月の言う真尾まおとはそのゲームのキャラクターである。

「美月ちゃんはプレイしたことあるん?」

「うん、まあ」

「そんでどのキャラ使っとったん。やっぱり、まお」

「ううん、僕はF23のイルカ」

 時にはまおの乗るF15を使用することもあったが、メインはコチラ。

「ああ、あれか」

 他の三人を置いてきぼりにして盛り上がりそうになったが、一応授業中なので担任に注意される。

 そうして再び、場所選びへと。



参考資料『ブラタモリ』。

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