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家族会議+オマケ 6


 新学期の生活にも慣れた頃、久し振りに家族会議が開かれた。

 議題は来月の修学旅行について。

 美月の漏らした一言「修学旅行に行かない方がいいかも」という小さな言葉を麻実が聞き逃さず、そして桂に報告。

 どうしてそんな言葉が出たのか? 美月の真意への追及が。

「あたしはシロと一緒に初めての修学旅行に行きたいの。だから、行かないなんて言わないでさ、行こうよ」

 と、麻実が説得するように言う。

「稲葉くんはどうして行かないほうが良いと思ったの? もしかして、私と離れるのが嫌だったとか?」 

「それはないかな。食事の心配はあるけど、作り置きをしていけばいいだけだし」

「えー、嫌と言って欲しかったな」

 ちょっとだけ拗ねたような口調で。

「あ、学校でも言ってたけど小学校の時の修学旅行と同じ場所だから?」

 美月に、というより稲葉志郎の小学校の時の修学旅行は、奈良京都だった。

 丸被りというわけではないが、京都に修学旅行というのは二度目ということに。

「それはないよ。前の記憶なんかほとんどないから」

 十数年も昔のこと。訪れた場所はかろうじて憶えているが、細かな記憶なんかはもうとっくの昔に忘却の彼方へと。

 それにあの時はまだ子供。大人になって行ってみれば、見え方も感じ方も異なるだろう。

「だったらどうして?」

 麻実に問い詰められる。

「……えっと……お風呂……」

「「お風呂?」」

 美月の答えた理由に、桂と麻実が同時に声を。

「別にお風呂なんか理由にならないじゃん」

 これは、麻実。

「あ、もしかして自分が一緒に入ることによって他の子の気分を害してしまうんじゃないかという心配をしてるの?」

 見た目は美少女だが、中身は三十路前の男。その正体が露見するようなことは流石にないと思うが、万が一にも知られてしまったらうら若き乙女達の心に大きな傷を負わせてしまうことに。

「そんな心配必要ないと思うけどな。シロの正体が絶対にバレることないし、それにあたしはシロが元男でも一緒にお風呂に入るの平気だよ」

 麻実が見られても平気と宣言。

「……あ、いや……別に見えなくても、というか目を瞑ったままでお風呂に入れるから、それは問題じゃないんだけど」 

 普通の人間ならば、目を瞑ったままで行動するのは非常に困難である。しかも初めて訪れた場所でそれを行うことは難易度がさらに上がる。しかしながら美月はそれが可能であった。クロノグラフモゲタンの力を借りれば、成長期のクラスメイトの肢体を一切網膜に映すことなく入浴ができる。

「だったらどうして、行かない方がいいかなって言ったの?」

 桂が追及する。

 美月としては、お風呂、というあいまいな単語でこの場を逃れる算段でいたのだが、その計画は頓挫してしまう。

 このまま白を切るのは不可能。それを身をもって知っている。

 正直に理由を告白することに。

「……生えてないから」

 小さな声で、恥ずかしそうに美月は理由を口に。

「いやいや、生えているほうが問題でしょ」

「そうよ。それに生えていたら道具なんか……」

「わー桂、それは言っちゃ駄目」

 危うく二人の秘密をばらしそうになった桂を美月が慌てて止める。

 そして、それから……

「そうじゃない、俺の言っているのはアレじゃないから」

 訂正を。

「じゃあ、何なのよ」

「……えっと……毛……」

「は?」

「……だからさ、まだ生えていないから」

 美月には陰毛と呼称される毛が一切生えていなかった。

 それによってムダ毛の処理という、側から見ていても面倒くさそうな手間が省けるのは非常にありがたいのだが、おそらくクラスのほぼ全員が発毛している中で、一人無毛のあそこをさらけ出しながら入浴するのは恥ずかしい。

 そう、羞恥心が本当の理由だった。

 見た目はともかく、中身はとっくの昔に成人を迎えており、クラスの人間の誰よりも経験を重ねてはいるが、それでも恥ずかしいという感情を完全に払しょくなんかできない。

 加えて、生えていないのも恥ずかしいが、それにもまして桂にしか見せたことのなく、また可愛いと言われた自らの幼い性器を衆目にさらけ出してしまうのは。

「生えていないのが恥ずかしいならタオルで隠せばいいじゃん」

「それも考えたけど、湯船に入る時はタオルをとるだろ。その辺はどうなの桂?」

 麻実はこれまでの人生の大半を病院で生活、美月は女湯に入った経験がない。

「タオルのままで入るのはマナー違反だけど。でも、心配しなくてもみんなそんなに他の人の毛のことなんか注目しないわよ」

「そうかな」

「そうよ」

「あ、だったらさ、あたしもシロと同じようにしようか」

「それって?」

「うん、剃るの。シロとお揃いにするの。そうすればシロも恥ずかしくないんじゃないかな」

 自らの陰毛を麻実は剃ると言い出す。

「それは止めたほうがいい」

 真剣な面持ちで美月が言う。

「どうしてよ」

「昔ね、桂があそこの毛を全部処理したことがあったんだ。で、その後なんだけど……」

「稲葉くん、それは言わないでよ」

 桂が慌てて美月の発言を妨げる。

 まだ付き合い始めた頃、人よりも多い毛が気になって全て剃り落としたことがあった。その時は良かったのだが、それからしばらく後その生えていた箇所が鳥肌みたいな感じになってしまったり、また発毛してくる毛がチクチクしたりと、悩まされた過去が桂にはあった。

「ねえねえ、何があったの。すごく気になるんだけど」

 中断された暴露に麻実は興味津々。

「それはもういいの。それよりもどうすれば稲葉くんが恥ずかしがらずにお風呂に入れるのか考えよう」


 その後も無毛な、いや不毛な議論が続いた。

 結論から言うと、この議論は無駄に終わった。

 というのも、修学旅行での入浴は、大浴槽で全員が一斉に入るのではなく、個室の内風呂を使用するからだった。

 まあそこでも、ちょっとした問題が起きたのだが、それはまた別の話。



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