三年生です、ご都合主義です。
ご都合主義の話。
それに何の意味があるのか? しても変わらないのに。
と、美月はそんな疑問を懐きつつも、それを友人達が望んでいるのであればと考える。
そうは思いつつも、それを実行するのに少々恥ずかしさを覚えてしまう。
一体美月は何を望まれたのか?
少しばかり長くなるが、それに至るまでの経緯の説明を。
新学期初日、久し振りの登校。いつもはバラバラで登校していたが、今日は仲の良い五人が集まって一緒に校門を潜る。一年間勉強した教室には向かわずに人だかりのできている校舎脇に。
そこには新しいクラス名簿が張り出されていた。
さっさと確認してこれから一年間勉強する教室へと美月は向かいたかったのだが、他の四人は見に行こうとしない。
「見に行かないの?」と、美月が促すと、
「だってあたし、クラス替えなんか初めてだから、ちょっと緊張して」と、麻実が。
「まあ緊張するわな。今年は修学旅行もあるし、気の合う子と一緒のクラスやったら楽しいやろうし」と、知恵。
「そうそう、それに考えるのは嫌だけど受験もあるし。そうだ、美月ちゃん祈ってよ。みんな同じクラスになれますようにって」
今度は文。
「ああ、それいいわね。シロ、強く念じ祈りなさい」
またまた麻実。
「祈る?」
「うん、靖子ちゃんみたいに」
知恵に言われ美月はこれまで会話に参加していなかった靖子の方を見やった。目を閉じて胸の前で強く手を組んでいる姿が。
そしてなにやらブツブツと。
普通の人間ならば、その漏れ出た声を正確に聞き取ることは不可能だろうが、美月には可能だった。
「……美月ちゃんと同じクラス……美月ちゃんと同じクラス……美月ちゃんと同じクラス……美月ちゃんと一緒に修学旅行……美月ちゃんと一緒に修学旅行……美月ちゃんと一緒に修学旅行……美月ちゃんと一緒にお風呂……美月ちゃんと一緒にお風呂……美月ちゃんと一緒にお風呂……美月ちゃんの裸……美月ちゃんの裸……美月ちゃんの裸……」
祈りの言葉であるが、後半は完全に邪な願望なような気が。
裸を見られることは構わないが、一緒にお風呂に入るのはちょっと遠慮したいなと美月は思いつつも、願望が外へと漏れ出ていることを指摘しようかどうか悩んでいた。
「そんな穢れた願いは神様は叶えてくれへん」
「何よ、私の願いを盗み聞きしてたの」
「聞こえんでも、アンタの考えてることなんか大体想像つくわ。それにな、こういうのは美月ちゃんみたいな美少女がしたほうが画になるわ」
「そうよ、シロ。やりなさい」
「こういうのは可愛い子がするのが相場でしょ」
「私も見たい」
一心不乱に祈っていた靖子も参加。
だが、今更神に祈りを捧げたことで、どうこうなるとは思えない。
もうすでに紙に書かれ張り出されている。祈りを捧げることによって、既に決定している結果に大きな変化をもたらすなんてあり得ない。
(なあ、俺が祈ったフリをしている間に、お前の能力を使用して書き換えることなんて可能なのか)
左上にはめたクロノグラフモゲタンに美月は訊ねた。
〈データ上の内容ならばいくらでも書き換えは可能だが、あのように紙に書かれた文字を書き換えることは不可能だな〉
当たり前の、落ち着いた冷静な指摘を。
そして、ここで冒頭へと。
意味のない行為を行う必要性があるのだろうか?
だけど、友人達の期待に満ちている瞳を見ていると、行わずに逃げてしまうのは野暮という感じが。
ならば、その期待に応えよう。
少々あった気恥しさはいつの間に払拭され、観ている人間を、観客を喜ばせようという役者魂に火が付く。
四人の見守る前で美月は、胸の前で小さく、そして固く手を握りしめ、その手を口元へと近付け、ギュッと目を瞑り、敬虔な乙女が神に祈るような演技を。
しばし祈る芝居を続けて、それから、
「じゃあ、見に行こう」
と、美月は四人に聞こえるくらいの声で囁いた。
あの祈りに意味があったのかなかったのかどうか定かではないが、全員同じクラスになることに。
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