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バースデイイベント 2

 

 その後、ファミレスへと移動。

 そこでささやかながらも、美月の誕生会が。

 一応全員中学生だからお金はない。それでも、それぞれがお小遣いを持ち寄り美月にバースデイケーキならぬバースデイパフェをご馳走してくれた。

 本音を言えば、甘いスイーツよりも二郎系のラーメンとか、大盛りの定食、または居酒屋の肴なんかの方が好みなのだが、それでもこうやって祝ってもらえるのは素直に嬉しい。

 パフェを食べながら、誕生日プレゼントを頂いたり、短くした髪のことをいじられたりと、楽しい時間が過ぎていく。

 グラスが空になってからもしばらく話す。が、いつまでもここで駄弁っていても仕方がない。それでも楽しいのだが、それではいつもと同じになってしまう。誕生日会ではなくなってしまう。

「そんじゃ、そろそろ行こか。今日は美月ちゃんが主役やで、何処にでも付き合うで」

「そういえばさ、美月ちゃん主役で遊びに行くことってなかったよね」

 この一年、美月はみんなの後をついて回っていた。

「美月ちゃんがどんな場所に行きたいのか、すごく興味があるわ」

 そう言われても、とくに行きたい場所が、遊びに行きたいような所が思いつかない。

「ほら、シロ。早く言いなさいよ」

 麻実にせっつかれ、美月の脳内にとある場所が浮かんできた。

 そこならば、全員がまあ楽しめるはず。

「……ゲームセンターかな」

「誕生日記念のプリクラを撮るの?」

「じゃあ、行きましょ」

 文が尋ね、美月が答える前に靖子が美月の手を握りしめスタスタと店から出ていこうとした。

「……えっと、それもあるけど、したいのはちょっと違うんだ」

 プリクラを撮るのは別に吝かではないが、行きたいという美月の理由は異なる。

「プリクラじゃなかったら、何しに行くの?」

「ああ、景品ゲームか」

 今度は麻実と知恵。

「それも違う」

 ぬいぐるみやフィギュアといった景品にもあまり興味はない。

「じゃあ、何?」 

「久しぶりに格ゲーかシューティングをしてみたいなと思って」

 中高の時はそれなりにゲームはしていた。下手の横好きではあったが、プレイしていた。

 当時はできなかったことも、今の能力ならばできるかもしれない。動体視力は学生時代とは比べ物にならないほど向上している。この目をもってすれば、昔憧れていたワンコインクリアが可能に、それどころか楽勝なのでは。

 そんなことを考えながら美月がゲーセンに行きたい理由を答える。

「ほんじゃゲーセン行こか」

 知恵の掛け声に全員異論なし。

 移動しようとした矢先、美月の脳内にあるゲームという単語が、とある思い出を蘇らせた。

 思わず、

「あっ」

 と、美月は小さく声を出してしまう。

「どうしたのシロ?」

「……ゲームショップにも行きたいかなと思って。……ああ、でもこれはまた今度一人で行くから」

 学生時代に友人から借りてプレイしたゲームを突然思い出し、久し振りにしてみたいと急に思ってしまった。

 だが、探すのにみんなを連れまわすのは忍びない。

「いいよ、別に」

「私も美月ちゃんがどんなゲームをするのか知りたいから、一緒に」

「ゲーセンで遊んだ後に、ゲームショップ巡りということで」

 この後の予定が決まった。


 まずはゲームセンターへ。

 ファミレス近くのゲームセンターには美月が望んだシューティングゲームは設置されていなかった。それでも格闘ゲームが数台。

 連綿と続いているシリーズの筐体にコインを投入。

 念願のワンコインクリアを成し遂げるが、美月の中には達成感よりも虚しさが。その理由は、自らの実力ではなく、優れた動体視力というチート能力でクリアした、自分の力で成し遂げたわけではない、すなわちズルをしたようなちょっとした罪悪感のようなものが。

 だが、そんな感情は心の奥底に仕舞いこむ。

 ハレの日なのに曇った顔なんかしていたら、周囲に心配をかけてしまうから。

 腐っても元役者、心とは裏腹の表情の演技ができる。

 その後、みんなでプリクラを撮り、ゲームセンターを出る。


 今度はゲーム探し。

「そんで美月ちゃんの探しているゲームってどんなの?」

 この質問に上手く答えることができなかった。

 というのも、ゲームのタイトルがそもそも分からない、というか忘れてしまった。高校時代に友人に借りてプレイさせてもらったことがあるのだが、十年以上の前のことなどで件のゲームの情報の大半が記憶の奥底へと埋没してしまっていた。

 ただ、ちょっと面白かったということと、時間がなくて完全クリアをしていない、という記憶だけは残っていた。

「……見れば思い出せると思うんだけど。……憶えているのはプレステのゲームでRPG……後は可愛いキャラだったことくらいかな」

 わずかばかりの手掛かりを口にする。

 こんな情報だけでゲームを探すのは困難だ。

 こんなことでみんなの時間を浪費させてしまうのは申し訳ない。

「ゴメン。やっぱり行くのは止めよう。後で、一人で探すから」

「別にええよ」

「そうそうなんか楽しそうだし」

「まるで探偵みたいで面白そうかなって」

「ああ、それは言い得て妙ね。シロの今日の格好は、まさに探偵みたいだし」

 全員探す気満々であった。

 そんな中でこれまで空気を読んで話しかけてこなかった左手のクロノグラフモゲタンが美月の脳内に言葉を。

〈キミの記憶野からゲームの題名、その他諸々をサルベージすることが可能なのだが〉

(そんなことできるのか?)

〈ああ。だが、それだけではない。周辺のゲームを扱う店舗の在庫リストにアクセスして、どの店にあるのか割り出すことも可能だ。それを実行すれば、先程からキミの中にある申し訳のなさや、時間の浪費が回避できると思うのだが〉

 モゲタンの提案は魅力的だった。

 モゲタンの能力を使用すれば、すぐに探し物が見つかるはず。

(……いや、いい)

 和気あいあいと、楽しそうに、そしてやる気満々で話し合っている年下の友人達を見ながら美月は答えた。

〈どうしてだ?〉

(こういうのは自分で探すから面白いんだよ)

〈そういうものなのか?〉

(ああ、そういうもんだ)

〈了解した。だが、ワタシの力が必要な時にはいつでも声をかけてくれ〉

(その時は頼むな、相棒)

 美月が脳内でモゲタンとの会話を繰り広げているうちに、一件目に向かう店が決まったようだった。


 最初のお店は駅前のB○〇K OFF。

 古本がメインの全国チェーンの店だが、中古ゲームも取り扱っている。

 ゲームは扱ってはいるが、美月の探し物であるプレステのソフトは少数。

 すぐに捜査、もとい探し物は終了。

 空振りに終わってしまったが、成果が全くなかったわけではなかった。

 偶然、美月が知恵達と話すきっかけとなったゲームの全年齢対象版のソフトが百円コーナーに。

 エロシーンがないのは少々残念だが、それでもこのプレステの全年齢対象版はボイス付き。

 安さと、懐かしさが相まって美月は購入。

 続いて今度は駅の反対側のゲームショップに。

 こちらの店は新作を主に扱う店舗。それでも少数ながら中古品も。

 ここもすぐに探索は終了。

 成果はなし。

「どうする? 選択肢は二つ。バスに乗って郊外の大型店へ行くか、それとも電車に乗って立川方面、もっと先の中野、さらに行って秋葉原というのも」

 知恵が提案を。

「別にいいから。絶対に欲しいという物でもないし、それにみんなに交通費を使わせてしまうのも悪いし」

 これ以上みんなを付き合わせるのは申し訳ない。余計なお金を使わせてしまうのも。

「別にいいよ、立川へ行きたいとも思ってたし」

「……立川って前に言っていた例の本が買える場所ですよね。……せっかくだから美月ちゃんと行ってみたいかも」

「ああ、あたしは中野がいいかな。まんだ〇けに行きたい。名古屋のお店は行ったことがあるけどブロードウェイの店には行ったことがないから」

 美月の遠慮の言葉など、どこ吹く風といった感じで、全員行く気満々。


 電車に乗り込み、降りた駅は中野駅だった。

 中野の店が一番おいてある可能性が高いのではないのか、と考察。後は、純粋にみんなが中野ブロードウェイに行ってみたい、遊びたい。

 色々と目移りしそうになるが一行はまずゲームを取り扱っている二階へ。

「……あった。これだ」

 店に入る前に件のゲームを美月が発見。

 というのも、そのゲームは通路に面したショーウインドウの中に飾られていた。

「えっ、見つけたの」

「どれ? 美月ちゃんの探していたゲームは」

「だんじょん商店会、これかいな?」

 1998年に開発元キノトロープ、販売元講談社、藤波智之佐々木亮の両名がそれぞれシステムとシナリオ、それからキャラクターデザインを担当したRPG。

「うん、そう」

「なんか、シロの好みとはちょっと違う可愛いキャラのゲームね」

「このイラストの人が三重出身の人って聞いてプレイしたんだ」

 当時、この手のことに詳しい友人に勧められ、同時に同人誌も数冊一緒に借りて、プレイした。一応はエンディングまで見たけど、マルチエンドなので全てをクリアしたわけではない。そこに少しだけ未練が。

 それが今目の前にある。

 心残りを解消するチャンス。

「……けどな」

 プレミア価格とまではいかないが、それでも美月が予想していた値段よりも幾分高いものだった。中古だから、もっと安く手に入れることができるかもと皮算用していたのに。

「結構するな」

「本当だね」

「ゲームって買わないから全然分からないけど、でもこの値段はさっきのとは全然違う」

「けどまあこの値段なら、定価よりは安くなっているんじゃないの」

「うーん」

 美月はショーウインドウの前で考えた。

 予想以上の金額ではあるが買えない値段ではない。

 だが、思い出のため、当時のやり残しをするためだけに、この金額を出せるのか。

 絶対にしたいわけではない、ふと思い出しただけのゲーム。だけどこのゲームを探すために友人達を付き合わせてしまった。

 ならば、ここは買うべき。

 だけど、決心がなかなかつかず。

〈ちょっといいか〉

(今考え中だからちょっとだけ待っててくれ)

データ出現ならば脳内に警告音が鳴り響くはず。それにモゲタンの声ももっと緊迫したものになるはず。そうでなかったから、火急の用事ではないと美月は判断した。

〈そのゲームの情報なのだが〉

その言葉に美月は一時考えを中断。

(何だ、その情報って?)

〈ウム。ゲームタイトルが判明した時点で、ワタシの独断で検索をかけた。その時に得た情報なのだが、このゲームは正月に文尚から貰った携帯ゲーム機でダウンロードして購入することが可能だ〉

 今年の正月に美月は桂の兄の文尚からPSPを貰った。

「……えっ?」

 モゲタンとの会話は脳内で行うことができる。声を出す必要はないのだが、変な音が漏れ出てしまった。

〈購入金額もキミが予想していた範囲内、千円以内で納まる〉

 これまでの行動は全くの無意味だった。時間だけを無駄に過ごしてしまった。

 それも自分一人だけではなく、みんなを巻き込んで。

 そのことに美月は愕然として膝から崩れ落ちそうになってしまった。



久し振りにプレイしました。

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