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バースデイイベント


「ねえねえ、あれ麻実さんじゃない?」

 麻実の姿を見つけた文が横にいる知恵に。

「あ、ホンマや。ということは、美月ちゃんももうすでに来とるわけやな。律儀な子やで。時間前にはいっつもキチンと到着して待っとる。今日は主役なんやから、真打は遅れて登場でもかまへんのに」

 美月の設定上の誕生日から二日後、友人達が誕生会を催してくれることになっていた。普段ならばこういう時は大抵美月の、というか桂の部屋に集まってイベントを行うのだが、その場合主賓が来客者をもてなすという本末転倒な現象が起こりかねなかったため、つまり祝ってもらうはずの美月が料理を振舞うことになりそうだったので、外での誕生会と相成った。

 集合場所は最寄り駅。

 集合時間の十分前に到着したのに、もうすでに麻実の姿が。ということは、これまでの経験から則ってもうすでに美月もこの場にいるはず。

 それがさっき知恵の言葉に。

「ほな、行こか。主役を待たすのも悪いから」

 そう言いながら、知恵が麻実の方へと足を進めようとした瞬間、文に肩を掴まれ進行を阻害される。

「何するんや?」

「ごめんごめん。それよりもさ、見てよ。麻実さんの前に座っている人」

「そんなん見やんでも。どうせ美月ちゃんやろ」

「違うって。ほら、よく見てみて」

「あっ、美月ちゃんとちゃう」

 麻実の表情はよく見えるものの、知恵と文のいる場所からは件の人物の姿は見えにくい。

 それでも美月とは違うと判断した。

「誰やろ? それに美月ちゃん何処やろ?」

 知恵が疑問の声を。

「もしかしたら麻実さんは一人で先に着ていて、逆ナンしてるのかな」

 遠目からだが、小学生くらいの少年のように見えた。

「まさか」

「でもさ、麻実さんあたし達以外と話すときにあんな顔しないよ」

 ずっと病院暮らしだったこともあり、麻実はやや人見知りの傾向があった。初対面の人間相手にはちょっと無表情になることも時折。

「そやな、モテそうやのに浮いた話もなかった。もしかしたらショタコン趣味やったとか」

「どうする?」

「どないしようか。もし、本当に逆ナンの最中やったら邪魔になるしな」

「ということは、ここで観察?」

「そやな」

 そう言って二人は麻実に見つからないように身を屈め、出歯亀もとい観測を。

 声は聞こえないから、表情から察するしかないが、麻実の楽しげな顔を見ているかぎり、どうやら上手くいっている様子だった。

「どうする?」

 集合時間が迫っている。

 遅れても別にペナルティなんてないのだが、遅刻には少々罪悪感が。

「けどな、あそこにノコノコ行くのは気まずいような」

「何しているのよ、そんな所で」

 悩んでいる二人の背中に声が。

 声をかけたのは、美月とのお出かけに浮足立ち、普段よりも少々めかしこんでいる靖子だった。

「あ、靖子か。それよりもアンタもしゃがみ。そんな場所で突っ立ったら見つかってしまう。はよ」

「何よ?」

「麻実さんがあそこで逆ナンしているから」

「はー、何言っているのよ」

 呆れたような口調で靖子が。

「ええから、見たら分かるって」

「麻実さんが目の前の男の子と楽しそうに話しているんだって」

 二人が靖子に少々興奮しながら情況を説明。

「だから何を言っているのよ。あれは美月ちゃんでしょ」

 その言葉に件の少年? を二人は凝視。

「……ホンマや」

「……美月ちゃん髪切ったんだ」

 よく知っている、本日の主役の横顔が、知恵と文の目に。

「それにしてもアンタよー気付いたな」

 半ば呆れ、もう半分は感心しながら知恵が靖子に言う。

「当り前よ。大好きな美月ちゃんだもの。どんな姿になっても分かるわよ」

 中学生にしては少々大きな胸を反らし、靖子は断言した。


「それにしても似合ってるけど、なんや少年探偵みたいな服やな、今日は」

 三人が美月と麻実に合流してすぐ、知恵の放った一言。

 美月の今日の服装は、英国少年の探偵風という感じのものだった。より詳しく仔細に描写すると、白地のシャツにネクタイとサスペンダー、グレイ系の膝上のハーフパンツ、白の靴下に、光沢のある黒の紐靴。そして今は脱いでいるがちょっとだけ大きめのブレザー。

「えー、でもさアレは蝶ネクタイでしょ。美月ちゃんは普通のネクタイでしょ」

 現在でも連載中の某探偵マンガの主役を頭に浮かべながら文が言う。

「それとちゃう。ウチが言うたのは、横山光輝や」

「横山光輝? 誰?」

 この手の知識が全然ない靖子が首をひねりながら訊ねる。

「ああ、アンタは知らんのか。まあええわ、教えたる。横山光輝というのはな、鉄人28号の作者や。他にも三国志なんかも有名やな」

「鉄人なら知ってますわ。……あれ? ……でも、プロ野球選手だった気が……」

「なるほど、金田正太郎か。そう言われればそうかも」

「やろ。……あ、ちょっと待った訂正するわ。国際警察機構のエキスパートや」

「ああ、大作くんね」

 手を打って麻実が言う。

「そや。さすが麻実さんや、ちゃんと分かってくれたわ」

「けどさ、どうして大作くんなの? 別に正太郎くんでも支障はないような気がするけど」

「腕時計。美月ちゃんはいつもごっついクロノグラフを身に付けてるやろ。それがGRの操縦に使う時計みたいやん」

 美月の左腕の大き目のクロノグラフを指しながら、知恵はなぜそう思ったのかを説明。

「なるほどね」

 麻実は納得という感じで大きく肯くが、他の三人はポカンとした表情。

「麻実さんはもちろんやけど、このネタは美月ちゃんにも通じると思たんやけどな」

「それは無理ね。シロにはまだGRを見せていないから」

「さよか」

「ああ、だったらさあたしの今日のコーデ間違ったかな。チャイナのミニを着てきたら、シロと良い感じになったのに」

 本日の麻実の服装は、ロングワンピースにデニムを羽織ったもの。

 GRことジャイアントロボのアニメではヒロインがチャイナ服を着用していた。

「いやー、街中でチャイナはちょっとキツイんちゃうか」

「別にあたしは平気だけど。まあでも、チャイナなんか持っていないんだけどね」

「ああもう、二人だけでディープな会話をしない」

「そうですわ、今日の主役は美月ちゃんなんだから」

「そうそう、靖子ちゃんの言う通り。……でもさ、驚いたよ。今日は絶対にゴスロリ系の服を着てくるというか、桂さんに着せられると思っていたのに。だからそれに合わせたのに」

 文の服はゴスロリではないが、それ風の装いを。

「これは桂……さんの趣味で」

 これまで口を開かなかった本日の主役が。

 美月の本日の衣装は新たに目覚めた桂の趣味。先日の買い物時に古着屋をはしごして買い揃えたもの。

「変かな?」

 夜着た時には桂は喜んではくれたが、もしかしたら周囲からはすごく浮いているのでは、そんな疑念が美月の中にちょっとだけあった。

「におうとるよ、めっちゃ」

「ううん、すごく良い。靖子ちゃんはどう思う?」

「…………」

「靖子は、シロが長い髪を切っちゃったから残念とか」

「……違う……すごく良い。……長い髪で美少女の美月ちゃんはもちろん可愛いけど、こっちは美少年のようで王子さま度が上がった……」

 かつて靖子は美月のことを、王子さまと称したことがあった。

「えっと……ありがとう」

 褒められたのだから一応お礼を。

「それにしても桂さんやるわね。美月ちゃんの魅力をこんなにも引き上げるだなんて。これはライバルとして絶対に負けてはいられないわ」

 独り言のように呟く靖子を一人その場に残して、

「ほな、そろそろ行こか」

 知恵の声で一同はそこから移動を。

「ちょっと待ってよー」

 置き去りにされたことに気が付いた靖子は慌ててみんなの背中を追った。

 


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