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真面目な未来の話


 女子中学生は別に砂糖と素敵なものでできているわけではない。

 時には深刻な話も。

 話題に上がっていたのは高校受験。おおよそ一年後に迫っている人生の岐路。

 まだ二年生で実感は薄いが、来月には最高学年へと進級する。

 受験の当事者になってしまう。

 といっても受験の話を最初からしようとしたわけではなく、まず知恵が父親から青春時代の思い出であるアイドルの出身校を受験しろと言われたと笑いながら話したことが発端で、しばし90年代アイドルの話になり、その後紆余曲折しながら自身達の近い将来の話へと。

「けどまあ、私立と公立どっちがええんやろ?」

 思い悩みながら知恵が言う。

「あたしは公立かな。だってうちのお姉ちゃん私立に通っているけど、それでいつもお金がかかってしょうがないってお母さんに小言を言われてるから。それなら学費が安くて、近くの学校のがいいかなって」

「そっか、学費か。……ほな、ウチも公立を第一希望にしようかな」

「私は……」

「ああ、アンタは別に言わんでもええ。どうせ、美月ちゃんと同じとこ行く言うんやろ」

「まあ、それはもちろんだけど。……でもね、昔はお母さんの通っていた私立の女子高に行きたいとも思っていたのよ。ああ、そうだ美月ちゃんもそこを一緒に受験しましょ。それで高校も仲良く二人で」

 そう言いながら靖子は美月に抱きつく。

 抱きつかれながら、女子高はちょっとな、昔ならいざ知らず、少女の身となって女の世界を垣間見て、純朴で世間知らずであった時代に懐いていた綺麗な女だけの園という幻想はすでに美月の中からきれいさっぱりと除去されていた。

「アホ、美月ちゃんは桂さんのおる高校やろ。それといつまでひっついてるんや」

 抱きつかれたままの美月を知恵が解放する。

「そうなのシロ?」

 麻実が訊く。

「多分行かないと思う」

「ええー、意外。なんで?」

「それじゃ私と一緒に女子高へ進学しましょ」

 嬉々とした声で靖子が。

「うーん、女子校もちょっと」

 さっきまでの喜びが一瞬で反転してしまう靖子。肩を落とした姿は見事なまでの落胆ぶり。

 先程書いたような理由でやはり女子高に進学するのは。

「まあ落ち込んでいる靖子ちゃんは置いといて、どうして桂さんのいる学校には行かないの?」

「学力的にギリギリだと思うし、それに僕がもし通うことにでもなったら、お互い気まずくなるような気がするから」

 桂の勤める私立高校に入学するにはそれなりの学力が必要で、現在の美月の成績ではもう少し頑張らないと合格は難しい。

 だが逆をいえば、一年間受験勉強に集中すれば受かるはず。

 なのに受験を希望しないのは、気まずくなるからではなく、それはオブラートに包んだ言葉であって、本心は一緒に過ごす家で時折ポンコツ具合をみせる桂が終始自分と一緒にいたりなんかしたら仕事に支障をきたしてしまうんじゃないかという心配があったからだった。

 もっとも、気まずいとのいうのも事実ではあるが。

「ほんなら、何処受けるつもりなんや?」

「近くの公立の高校かな」

 特に希望があるわけではない。

 そんな受け答えをしながら、そういえば公立高校の受験の仕方は都道府県によって違うよな、うろ覚えの知識だが三重の隣県である愛知では複合選抜制度とかいう異なる制度があったよな、都内じゃどうなんだろう? 調べておかないとな、と考えてしまう美月だった。

「ほならウチは美月ちゃんと一緒の高校受けよかな」

「あたしもー」

「じゃあ、私も……」

「いや、アンタは女子高やろ」

「ちょっと待ってよ。私もみんなと同じ高校に行きたいんだからー」

「はいはい。それよりさ、麻実さんはどうするの?」

 これまであまり会話に参加しなかった麻実へと。

「うん、あたしは……進学しないで高認試験を受けようかなって、ちょっと考えているんだよね。ほら、みんなよりも年上で、来年には大学の受験資格の年齢に達するでしょ。それならいっそのこと大学に一足飛びで行くのも手かなと思って」

 麻実の言葉を聞きながら、美月はその手も有りかなと思ってしまう。

 中学に通うようになったのは世間の目を気にしてのこと。本来ならば二度目の中学生活なんか送る必要はなかった。

 現在元の男の姿に戻るために鋭意努力中。

 それが何時になるか分からないが、進学してそこで元に戻ることになってしまったら合格者の枠を一つ潰してしまうことになってしまう。

 ならば、受験しないというのも選択の一つかもしれない。

 そんなことを考えながらも「絶対に受験しろ」と桂は言うだろうな、と密かに想像し、ならやはり受験をしないとなと考える。

 そして二度目の高校受験のことを考えると、ちょっとだけ憂鬱な気分になってしまった。



現実の受験事情とは異なりますのご留意を。

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