プロローグ 1
月に巨大な柱がそびえ立った。
それを多くの人間が同時に目撃した。何の前触れもなく突如出現した。
夜の時間帯の地域はもちろん、昼間の時間帯の地域の人間もその柱をハッキリと視認できた。
この段階では誰も原因を判断することはできなかった。
人々は目の前で起きたことに驚愕していただけだった。
あるものは宇宙人の仕業だと公言した。
ある学者は隕石が落下して出来たものという表明を発表した。
ある宗教団体は、あれこそが神の印として、人類の滅亡は近いと流布した。
様々な憶測が人の口を伝って、または印刷されて、あるいは電波にのって世界中に広がった。子供の妄想のような馬鹿らしいことから、信憑性のありそうなことまで。それこそ数多の噂が流れた。
それでも原因はまだ特定できていなかった。
世界中の科学機関が月の柱の解明に乗り出した。最初に判ったことは、柱は月の裏側から出ていること。
その後、時間の経過に比例して多くの事が判明した。
当初二つの説があった。一つは月の内部には人類が解明していないガスかマグマがあり、それが何らかの原因で噴出したのではないか。もう一つは最初から叫ばれていた隕石の落下。
どちらの説も不十分であった。
柱の主な成分は月の砂や岩だった。観測の結果判別した。
そして詳しく計算すると、隕石説が有力となった。
しかし、ここで新たな問題が浮かび上がった
誰も落ちたはずの隕石を確認していない。あの柱を誕生させる規模の隕石ならば、相応な大きさがあるはず。けど見ていない。
地球に近付いてくるものは安全を考慮して、監視をしているはず。
それなのに該当するような天体は存在していなかった。
多くの科学者が頭を悩ました。
何人もの人間が、その立場を失った。
世界は月の話題で持ちきりだった。
ある学者が原因はダークマター、暗黒物質ではないかと言い出した。
存在は知られているものの、まだ確認されていない物質。
それならば説明はつくかもしれない。
大勢の人間がその説に流れた。未知なことは好奇心を刺激する。知識の無い者、ある者もみなが異口同音に唱えた。
それでも世界中の人間の意見が統一することは無かった。
科学的に証明しようとされているのに、未だに宇宙人説を唱える人間。彼らは新説を発表する。あれは宇宙人の月面基地がアメリカによって攻撃されたと。
宗教団体は神の力として崇めようとした。しかし他の宗教関係から、悪魔の仕業と揶揄される。自称神と悪魔の代理戦争が勃発した。
多くの人間が空の月を眺めていた。
時は移ろいやすい。誰もが一つの話題だけで生きてはいない。
世界の衝撃をもたらした月の柱は徐々に人々の関心から消えつつあった。
それは物理的にもそうであった。
当初は昼間の明るさでも視認できていた柱は、その存在を薄くしていった。
主な成分が柱の構成から離れて宇宙の塵になっていった。
人々の熱狂させた月の柱は約半年ほどでその姿を消してしまった。
残念がる人もいた。でも大勢の人間はさほど気にはしなかった。
何故ならばもっと別の話題が世界を席巻していたから。
人の気持ちは移ろいやすい。
それでも研究をする人はいる。日々新たな発見があった。けれど当初は一面に大きく取上げられていたものは、隅へと追いやれてしまった。
世界の関心は別のものへと変わっていった。
やがて塵は地球の重力に引かれ始めた。
2011年3月某日。
流星群の降る夜、怪物が出現した。
終電間際の秋葉原駅。
突如現れた怪物によって秋葉原駅周辺は壊滅した。