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第8話:アルベルト、転移の原因を暴く

「ナターリアお姉様! お兄様が来るのを知ってたなら、なんで教えてくれなかったの!」

「先にアルベルト様が来ると分かっていたら、あなたは頼りきりになってしまうでしょう。ビアンカ様は下級学年の取りまとめでもあるのですから、トラブルはなるべく自分で対処していただかないと」

「うー……」


 ビアンカは子供っぽく口を尖らせる。ビアンカにとって、アルベルトは敬愛する兄なのだ。お兄様大好きっ子のビアンカとしては、彼が来ると分かっていたら甘えてしまうのは自覚していた。


「さて、生徒たちの噂から大体の状況は把握しております。あなた方は異界より来られたと聞いておりますが……」

「はい。私はバトラーと申します。我が祖国では幼いながらも『月光姫』の名を冠するに至った、偉大なる主、セレネ姫に仕えております」


 バトラーは椅子から立ち上がり、深々とお辞儀をし、セレネもそれにならって軽く会釈する。


「丁寧なご挨拶ありがとうございます。先ほど妹が叫んでいたのでご存知でしょうが、私はアルベルト。この国の第一皇子であり、学院の生徒会長を任されております」


 アルベルトは、バトラーとセレネを安心させるように笑いかけた。

 しかし、セレネには効果がないようだ。

 この国の皇子らしいので一応挨拶はしたが、セレネからすれば正直どうでもいい。


 そんな事より三体のモンスターを選ぶ方が重要だ。


 セレネにとって、女性なら誰もが魅了されるアルベルト皇子は、モンスターをくれるおっさん博士程度のポジションだった。


(うおっ!? な、何で皇子が出てくんだよ!? まさか、俺の異世界金儲け計画に気付いたとかじゃねえよな?)


 セレネは、突如現れたヴァイツ帝国第一皇子を適当に流すという暴挙に出たが、レオのほうは戦々恐々である。


 孤児院の男の子として過ごしていた頃、とある事故によりレオはお忍びの皇子をぶん殴った上に、彼の持っていた金貨を半ば強奪した事がある。正体がばれたら死刑待ったなしと思いこんでいるからだ。


 だが、アルベルトはセレネとレオの態度を特に気にした様子も無く、ナターリアに状況を確認する。


「さて、ナターリア、ビアンカ。早速だが本題に入ろうか。彼らが転移してきた経緯を聞かせてくれるかい」


 そうして、ナターリア、ビアンカ、そしてカイとバトラーも加わり、お互いの情報をすり合わせ、アルベルトに伝える。アルベルトは手近にあった椅子に腰かけると、何かを考え込むように黙り込んだ。その姿はじつに優雅で、背景と相まって一級品の絵画のように見える。


「恐らく、龍の血の誤作動だろう」

「やっぱり、アルベルト様も私と同じお考えでしたか」

「お兄様、ナターリアお姉様、それじゃ分からないわよ」


 アルベルトとナターリアの中では解答が出ているようだが、ビアンカにはさっぱり分からず、頬を膨らませた。


「バトラー殿、あなたがセレネ姫と行使した魔術は、龍を称え、その力にあやかる物でしたね?」

「その通りです。もっとも、あちらの世界の龍に異界を渡る力はありませんが」

「ですが、こちらの魔力は龍の力を源にしていると言われています。恐らく、それを誤検知したのではと推測されます」

「アルベルト皇子、恐縮ではありますが、もう少々詳しいお話をうかがってもよろしいですか?」


 バトラーが頼みこむと、アルベルトは頷き、この世界の『力』について説明した。


 この世界には二種類の超常の力が存在する。

 一つは精霊力と呼ばれるもの。もう一つは王族に流れる魔力というもの。

 そして、その魔力は、荒ぶる龍の血を根源としているという言い伝えがある事。


「今の王侯貴族には龍の血が流れていると伝えられています。そして、その力を持つ者が、召喚術によってこの学院に呼び出されるのです」

「なるほど。我々が龍の力を借りたいと願った結果、こちらの龍の力に反応してしまった。という事でしょうか」

「考えられるとしたらそのくらいでしょう。現代では、召喚の魔法陣は国内の十二歳とほぼ限定出来ていますが、過去、技術がまだ確立していなかった頃は、国外からも呼び出される人間が居たと聞きます」

「そうですか。となると、別の場所に戻る魔法陣などがあればよいのですが」

「その点は恐らく問題ありませんわ。バトラー様」


 アルベルトの仮説にどうした物かと思っていると、バトラーに助け船を出すようにナターリアが声を上げた。


「アルベルト様の仰ったとおり、『この大陸の王侯貴族』には龍の血が流れ、それによって呼び出されます。そうでないものは、そもそも召喚の対象にならないのです」

「召喚の対象にならない?」

「セレネ姫とバトラー様は、暴走によって呼び出された方々です。今は魔法陣が魔力を消費したため沈黙していますが、中庭にはまだ陣そのものは残っている事は確認しています。元々、正当な龍の血を持っていないあなた方は、恐らく魔力が回復した時点でまた暴発に巻き込まれるでしょう」

「他の世界にまた飛ばされる、という事でございますかな?」

「それは違う。例えるなら、今のあなた方は、水面の波紋のようなものです。一時的に波打って不安定になりますが、水はまた元の姿に戻ろうとします。つまり……」

「魔法陣の魔力が回復すれば、また元の世界に戻れる、と」

「ええ、もちろん仮説に過ぎませんが、確率はかなり高いと思います。かつて国外から呼び出された魔力の高い人間が、すぐに元の土地に弾かれて戻ったという記録ならあります。これも誤検知によるものです」

「おお! それは心強い!」


 異界を渡るなどという所業はさしものバトラーでも難事であったが、アルベルトとナターリアの仮説が正しければ、特に苦労する事なく帰還出来る。

 バトラーはほっと胸を撫で下ろした。


 一方、セレネはというと相変わらず押し黙っていた。別に行儀よくしている訳ではない。

 ただ、目の前の三人の美少女の誰に貼り付くか、未だに吟味していた。

 当然、重大な話もろくに聞いてない。とりあえずなんか帰れるらしい事は分かった。


 どうせもう異世界転生は一回体験しているので、一回やるのも二回やるのもセレネの中で「こまけぇことはいいんだよ」という扱いだった。

 ちっとも細かくないが、セレネはいい加減なので細かくない事でも細かい事にする。


 これまでも何とかなってきたのだから、これからも何とかなるだろう――というのが、セレネの人生哲学だった。人、それを行き当たりばったりという。


 セレネは獲物に飛び掛かるタイミングを今か今かと待ち構えていた。

 なんか隣で龍がどうこうという話が聞こえてくるが、セレネにとって、この三人の美少女の誰にドラゴンダイブをぶちかますかの方が、よほど重要である。


 ドラゴンダイブは命中率に不安があるのが難点だ。やはり、ドラゴン技はげきりん安定である。


「それで、その魔法陣の魔力が回復するのに、どの程度の時間が必要なのでしょうか?」


 思考までポケットなモンスターと化しているセレネをよそに、バトラーは少しずつ異世界の謎を解き明かしていく。バトラーがいなければ、セレネは一日で野垂れ死んでいるだろう。


「平均的な期間で言うと、恐らく一週間程度だと思われます。大変申し訳ないが、セレネ姫とバトラー殿には、学院の外にある来賓用の屋敷に移って貰おうかと思うのですが」


 アルベルトが提案すると、今度はビアンカが補足に入る。


「本当は色々とお話してみたいんだけど、悪意が無くても、二人が異分子であるのは事実。お兄様もナターリアお姉様も、それに私も学院の中で取りまとめ役だから、騒ぎになるような事はなるべく避けたいの」


 ビアンカは自分の気持ちを伝えつつ、申し訳なさそうにセレネ達に述べた。

 ビアンカとて、異世界の姫君とその従者に興味が無いわけではない。むしろ興味津津(きょうみしんしん)だ。

 だが、その前に、ビアンカ達の立場では、学院の秩序を守る事が第一なのだ。


「待って、ください!」

「まって!」


 知識と良識ある判断により、穏便に話が纏まろうとしている中、異議を唱える二つの声。

 黒の少女少年レオと、白のおっさん少女セレネである。


「私、この子、お話したいです。たくさん、たくさん、色々な事」

「わたし、レオノーラ、おはなし、したい!」


 せっかく、舞台の幕が閉じようとしていたのに、むしろ戦いの幕が切って落とされた。

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