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大海に沈む(い)  作者: ぬこぬめこ
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少女

2043年 10月2日(土) 14:33

真っ暗だ、何も見えない。

今にも眠ってしまいそうな朦朧とした意識の中、体中の痛みが意識を繋ぎ止める。


何が起きたのかわからない、何も思い出せない。

そうだ、運転席に父さん、助手席に母さんが座っていて、車のスピーカーからは母さんの好きなアイドルの曲が流れていて、嬉しそうに母さんが口ずさんで、父さんはあきれながらも楽しそうに笑っていた。

私も、笑っていた。


そうだ…父さん、母さん。

腫れあがった瞼を懸命に持ち上げ、車内を見渡す。

車内?いや、ここは瓦礫の中?

何が起きたかは定かではないが、車内はあちこちが歪み原型をとどめておらず、左手の窓だけは唯一無傷で残っていた。

父、、、さん?母、、、さん?

口の中を切ったのか、痛みと痺れでうまく声が出せない。

体中の痛みに耐えながらゆっくりと体を起こし、目の前の瓦礫を両手で探りながら、両親を呼び続ける。


何分そうしていただろう、時間の感覚もない。

開き始めた両目が、ふと足元を満たす水たまりにとまる。

自分の足が動くたびに波紋を広げる。

黒い、水たまり。それはおそらく、血の海。

そっと体中を手で撫で、ケガの箇所を確認してみる。

頭からも口からも、体のあちこちに確かに出血は確認できるが、どれも重傷というほどではない。

こんな出血は、おそらくない。

そっと、足元の血の海に両手を浸す。

何かがすくい取れる気がした。

しかしその両手がすくいとったものは、かつて両親のものだったもの。

かつて彼らの体中を駆け巡っていたもの。

流れ出た、痛みと悲しみ。

頬を伝うのは涙か血か、その雫はそっと足元の海へと落ち、溶けて消えた。

意識が遠のく。

両親との思い出が走馬灯のように意識の中で浮かんでは消えていく。

遠くで銃声が聞こえたような気がした。もう何も、聞こえない。




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