最終話
電気も付けていない暗闇に包まれた部屋の中でモニターから発せられる光を見つめていたマクレーンに笑みがこぼれている。
立ち上げたプログラムは指定された場所をハッキングする為のプログラムで、これはマクレーン自身が作り上げた自信作だ。今までもこのプログラムを用いて様々な企業をハッキングしている。今回はセキュリティーに大金を投入している企業ではなく、一個人でセキュリティーと言っても市販のソフト位だと決めつけていた。
「一瞬で終わってしまうだろうな。データーを抜き出してばら撒く以外にもコイツに成りきって悪事を働き人生を破滅に追い込んでやるよ」
ゴクリと生唾を飲み込み、これから起こす楽しい時間を想像しマクレーンの表情は醜悪な物へと代わって行く。
モニターには作業状況が映し出されており、今は10%前後の数値を表示している。この数値が100%になればハッキングは完了し相手のPCを奪い取る事に成功する。
「……ん、おかしいぞ? 画面がフリーズでもしたのか?」
モニターには10%のままで数値が一向に進んでいない。今までの経験から言うとこれ程まで時間を掛けて10%はあり得ない進捗状況で、異変に気付いたマクレーンもマウスとキーボードを操作し現在の状況を確認してみる。
「オイ! どうなってやがる!? PCUの稼働率が異常じゃないか!! このままだとPCがショートしてしまうぞ」
マクレーンが調べた所、PCUの稼働率が90%を越えており更に上昇している感じであった。更に画面を見ていたマクレーンが驚愕の表情を浮かべる。
「なんだって!? 数値が戻っているだと!!」
モニターには8%の数値が表示され、更にゆっくりとだが数値が逆転していた。
「一体どうなってやがる」
自信が今まで経験した事の無い状況にマクレーンの額にも大量の汗が流れ出る。
「アンタに言ったわよね。やれるもんならやってみなさいってね」
再びスピーカー越しにフェアリーの声が響く。
「お前の仕業か!! クソッどうなってやがる!?」
「私に手を出した事を後悔させてあげるわ。覚悟しなさい」
するとモニターの数値が0を迎え今度は逆にマイナス表示に変わっていく。そのスピードは数値を確認する事すら出来ない程に早くあっという間に-100%を表示していた。その瞬間からマクレーンが幾らキーボードを叩こうがPCは反応しなくなっていた。
「乗っ取られたのか! まさかこの俺が……」
「残念だけどその様ね。ちなみに言っておくけど今から電源を切ってももう遅いわよ。データーは全て抜き取ってあるから」
「この俺が…… 無敵の俺がここまで一方的に…… お前は一体何者なんだ?」
膝を落として両手を床に付け身体を支えながら、マクレーンは力なく問う。
「フン、本来なら教えて上げる義理もないけど、特別に教えてあげるわ。私はフェアリー、ご主人様に使える女の子よ。そうそう貴方の悪行も警察に教えて上げたからそろそろ来るはずだわ。次に刑務所から出てきた時は大人しく過ごすことね」
フェアリーがそう伝えた後、部屋のドアが何度もノックされる。マクレーンがハッとしインターホンのモニターを見ると何人もの男がドアの前で立っていた。
「警察だ! ハイザック・マクレーン居るのは解っている。抵抗せずにドアを開なさい。返事がない場合は強行突入を敢行する」
ここは50階建マンションの最上階で逃げ道は無い。その事を悟ったマクレーンは肩を落とし、ブツブツと独り言を話し始める。
「ありえない…… ありえない…… ありえない……」
その後、警察官達が突入し、マクレーンを確保した後もずっとその言葉を唱え続けていた。
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「海斗、帰ったわよ」
携帯のスピーカー越しにフェアリーの声が響く。俺は丁度晩御飯の準備をしていた所だ。
「おかえり、今は手が放せないんだよ。もう少しで飯が出来るから待っていてくれよ」
「そうなの? いくら料理を作っても私は食べれないから意味ないわ」
「そうだな。でも俺は一人で食うより誰かと一緒に食べた方が美味しいからフェアリーには居て欲しいけどな」
「……仕方ないわね。ならさっさと作りなさいよ」
「わかってるって」
俺が出来上がった料理を小さなテーブルの上に置き、床に腰を下ろした。
「それじゃあ、頂きます」
「よく噛んで食べなさい。消化スピードが変わってくるから」
「へいへい」
「コロッケにはソースがオススメよ。みんなの評価が高いわ」
「俺はケチャップ&マヨネーズ派なんだけど……」
そんなやり取りを繰り返しながら食事をしていると、何時もより早く食べ終わっていた。
「やっぱり、一人で食べるより他の人が居る方が美味しくて、楽しく食べれるな! フェアリーありがとうな」
俺の言葉を受けて顔を真赤にしたフェアリーはフンっと言いながら画面から姿を消す。
テレビでは今日起こったニュースが流れている。
「世界的ハッカー集団の首謀者を逮捕したってよ。そういえばメールを送ってきた奴とはどうなったんだ?」
画面にはフェアリーの姿は見当たらないが、俺が声をかけるとショートカットボタンの隙間からフェアリーが顔を出してきた。
「あれはもう終わったわよ。もうメールを送ってくる事もないわよ」
「確認しておくが、変な事はしていないだろうな?」
「別に私は何もしていないわよ。ただちょっかいを掛けて来ないように懲らしめただけよ」
「兎に角だ。人に迷惑を掛けては駄目だよ」
「大丈夫よ。私からはちょっかいは掛けないから。ヤルとしたらヤラれた時だけよ」
今回の騒動の真相を知るのはもっと後の事となる。
これからもこの電脳少女と一般人の俺は俺の知らない間に世界を巻き込みながら進んでいく。
グダグダだと思いますが、最後まで読んで頂きまして有難うございます。