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8話

 世界には様々な国と様々な組織がひしめき合い均衡を保っている。世界に覇を唱える大国や豊かな燃料資源を盾に莫大な利益を貪り食う資源国。更には世界を繋げるネットワークに君臨するハッカー集団。麻薬や違法行為などの闇の住人達。

 そんな巨大な者達が存在するこの世界で小さな異変を感じ取った者達がいた。気付いた原因はほんの些細な違和感だ。


「おい、これ見てみろよ」


「ん、どうした? 別におかしい所は無いと思うが」


「いいや。普通の奴は気付かないが何者か侵入した形跡が在るぞ。俺ですらこれ程の隠蔽はやった事がない。暇つぶしに色んな場所にハッキングを仕掛けていたが、これは見付けものかもしれないな。

 一度、挨拶をしてみるか……」


 何台ものパソコンを連結させ、箱詰め状態の部屋の中で男は歓喜の声を上げた。もう一人の男はまた病気が始まったとため息をつく。

 この世には天才と呼ばれる者達が存在する。殆どの天才達は世に名を知らしめる存在となるが、そうでない者達も少数ながら存在していた。


 マクレーンもその少数の一人。世界を股にかけるハッカー集団、ワイルドカードのトップであり、各国から危険人物として監視されている者の一人である。


 現在20歳の社会人になったばかりだが幼少の頃からコンピューターにのめり込み、ありとあらゆる技能を習得していた。青い瞳と手入れもしていない長い金色の髪を背中で一つに束ねただけの男だ。


 マクレーンが今回ハッキングを掛けた所が日本の大企業の一つであるNNNであった。ペロリと下を舐め回し姿が見えない者の姿を想像する。

 自身と同等の実力を持つ者が世界に存在するとは思って居なかったマクレーンは、モニターを陶酔した目で瞳で眺めていた。


--------------------------------------


「今日も仕事なの? 今日は休みなさい! 何処でもいいから散歩へ出掛けるわよ」


「おいおい、勤労青年を堕落させてどうする気なんだ? 言っておくが俺が働かなくなって困るのはフェアリーも一緒なんだぞ」


「私は困らないわよ。休みなさい解ったわね」


「休まないよ。用意の邪魔だからフェアリーは何処かネットサーフィンでもしていてくれよ」


 清掃の仕事に出かける用意をしていると、いつもフェアリーが邪魔をしてくる。普段から殆ど一緒にいるのにまだ構って欲しいみたいだ。見た目と同じで心はまだ子供なのかもしれない。

 拗ねたフェアリーは携帯の画面から姿を消して、何処かへ消えて行った。何時でもネットを通じて様々な場所に行けるフェアリーの能力が少し羨ましい。


「さてと、俺もバイトに出かけるか」


 玄関ドアを開き俺はバイトへと向かった。



-------------------------------------------


 夜の8時30分、やっとバイトを終え家に帰る事が出来た。今日の仕事はハードで身体中が悲鳴を上げている。リュックを机の上に放り投げ、椅子に座り大きく息を吐いた。


「今日は疲れたな…… 休憩も無しだったから、疲れが何時もの倍に感じる。あ~ ご飯を作るのも億劫だ」


 泣き言を言いながら背もたれに体重を預けて背筋を伸ばす。すると胸ポケットに入れていた携帯にメール着信のライトが点滅している事に気付いた。日頃メールが来る事は少なく、最近だと千景さん位しかメールのやり取りはしていない。


「千景さんかな?」


 ポケットから携帯を取り出し、受信メールボックスを開く。中には見覚えの無い宛名のメールが一つ未読の状態で残っていた。


「……マクレーン? 何だこのメールは? 迷惑メールかな?」


 知らない名前を見て警戒を覚え、次に題名の方へ視線を動かす。


「NNNのハッキングの件だって!?」


 この事を知っている者の数は少ない。俺が知るだけで言えば一人だけ。その人も一度だけメールを送ってきただけだ。

 なんだか解らないが、恐怖を覚えてゴクリと生唾を飲み込んだ。空けるべきか? 空けない方がいいのか? 未読のメールを見つめジッと考えていた。


「あら帰ってたのね。お疲れ様」


 そんな時に何処へ姿を消していたフェアリーが携帯の画面に戻ってきていた。ジッと携帯を見つめる俺をフェアリーもジッと見つめている。


「私が可愛いからと言っても見つめ過ぎじゃないかしら?」


フェアリーはニヤリとした笑みを浮かべている。


「フェアリー邪魔! メールが見えない。このメールどう思う?」


 犬を払う様にシッシっとジェスチャーを行い。今日来たメールについてフェアリーの意見を求める。


「何よこのメール…… へぇ~ 私の形跡を追って来た奴がいるのね。面白いわ」


「こいつはフェアリーがハッキングした事を知っているみたいだぞ。それに態々メールを送ってくる理由も解らない。どうしたらいいと思う?」


「この件は私に任せて。ちょっとどんな奴か見て来てあげるわ。それとこのメールは開いちゃダメよ。ウィルスが仕込まれているから」


 それだけ言うとフェアリーは画面から姿を再び消した。


「まっ確かに俺はパソコンの事に関しては全然だからな。ここはフェアリーに任せるしか無いか…… そう決まると腹が減って来たな。飯の用意、飯の用意っと」


 携帯を机の上に置いて台所に向かう為に立ちあがる。


---------------------------------------------


 マクレーンはモニターを見つめていた。待っているのはラブレターの返事。まだ見ぬ姿を色々と想像させながら鼻歌を歌う。痩せた頬に大きな目が特徴的な男で金髪の髪は長く伸ばされていた。


「相手は俺の存在に気付いただろう。さてどう動いてくるか……」


 そんな時、パソコンに取り付けられているスピーカーから女の子の声が聞こえてくる。


「私に何の用かしら? めんどくさい事は嫌いなの。だからわざわざ来て上げたわよ」


 その瞬間、マクレーンの目がギョッと見開いた。確かにメールは送ったがまさか此処までたどり着けるとは思いもしなかったからだ。幾つものサーバーやダミーを経由し、警察の専門でもたどり着けた事は一度としてない。予想以上に相手が手ごわい事を瞬時に理解する。だが、マクレーンの表情にはまだ余裕があった。


「これは、音声データーを送っているのか? まさか此処まで辿りつけるとは御見それした。さて何て返信すれば良いか……」


 キーボートを叩きながら、思考しているとフェアリーがイライラした感じで声を荒げる。


「何をブツブツ言っているのよ。メールの返信なんてしなくて喋るだけで伝わるわ。アンタ馬鹿じゃないの?」


「ふっどうやら回線まで繋げられていたとは…… それにこの声は女性? 音声変換で変えている感じはしない。俺はマクレーンと言う者だが君の名前を聞かせてくれないか?」


「ふんっ! フェアリーよ。用件は何? 用が無いなら帰るわよ」


「来た早々にそれは無いだろう? 俺は君の腕前に感服してね。どうだろう、俺の仲間になってくれないか?」


「何で私が貴方の仲間にならなきゃならないの? 意味解らないんですけど!? そんな用件なら私はもう帰るわ」


 一方的なフェアリーの態度にマクレーンも苛立ちを露わにする。


「おい! さっきから上から目線だが。余り調子に乗らない方が身の為だぞ。お前の全ては既に俺が握っているからな。俺がその気になればお前を犯罪者に仕立て上げ、一生檻から出れない様にする事も可能だ」


「あらそう? じゃあやって見なさいよ」


 フェアリーはそう告げると、その場から去って行った。


「馬鹿は貴様だ。こっちは既に動いていたんだよ。後はエンターキーを押せば、お前のPCのデーターは全て世界中を駆け回る事になるぜ」


 そう吐き捨てると、躊躇する事なくマクレーンはエンターキーを押す。

 するとモニター上では一つのソフトが起動し行動を始め、その様子を笑みを浮かべて見つめていた。

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