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4話

 俺は清掃会社のバイトをしている。これは去年見つけた日雇いバイトで、以前は前は違うバイトをやっていた。バイトの日は8時間程度入るが出勤日数は少ない。それは大学の単位取得を第一としている為だ。

 だが長期休暇の時などは比較的に多く入る。年間を通すと80日前後は入っているだろうか、日給8000円で80日入れば年間収入64万円の収入となる。それに親が残してくれた遺産が俺の全てだ。


 俺もフェアリーと生活を続けていく内に、フェアリーを使えば違法性の無い別な方法でお金を稼ぐ事ができるんじゃないかと思っているが、それを選ぶ事は今の所無い。

 自分の事は出来る限り自分で何とかする。それは独り身で過ごして来た境遇から体に刻まれた教訓だ。


------------------------------------------------


 時刻は夜の9時、俺は夜にビル清掃の仕事が入っているので自転車で会社へと向かっていた。会社までは自転車で30分程度で近い方だ。


「やっぱり、冬の夜は冷えるな」


 ブルっと体を震わせ、着込んだジャンパーのチャックを一番上まで締め直す。


「今の外気温は3度よ! この後もっと下がる予報が出ているわね」


「フェアリー、そんな情報は知らない方が良かったよ。はぁ、今日のバイトはキツそうだな」


 辛い現実を突きつけられて、バイトを始める前から疲れが出てくる。


「人間って本当に弱いわね。私には寒さなんて関係ないから残念だけど海斗の辛さを理解してあげれないわ」


「フェアリーに同情して貰うつもりもないよ」


 夜間のビル清掃で暖房を入れてくれる会社は少ない。コンクリートで固められた四角い箱の中では、一度温度が下がると体全体に冷気が包み込み、極悪な環境の中での作業となる。


「前から言っているけど仕事なんてしなくても私がお金くらい用意してあげるわよ。勿論、海斗が嫌いな違法行為はしないわ」


「そりゃ、フェアリーなら出来るかもしれないけど、それに頼っていて、急にフェアリーが居なくなった時に困るのは俺自身だからな。それに今の内に色々な仕事を体験するのは、悪い事じゃない筈だ」


「ふーん、そんな物なの?」


「俺がそう考えているだけだけどな」


「わかったわ。そう思っているなら頑張りなさい」


 そんな話しをしている内に会社にたどり着く。まずは更衣室で制服に着替えて、事務所に顔を出す。

 事務所には、社長と社員の人が既に待機していた。


「こんばんは、宜しくお願いします」


「あぁ、今日も宜しく頼むよ」


 社長は軽く手を上げて声をかけてくれた。後は全員が集まるのを待ち今回仕事を行うビルへ車で移動する事になる。


 その後、15分には全員が車に乗り込み会社を出発させた。車の中で簡単な説明を受けた感じだと今日は大手電機会社のNNNスリーエヌの本社ビルに向かうとの事NNNの名前は俺でも知っている程に有名で、自社ブランドのPCやコンビニに設置されているコーヒーメーカー、更に工場の生産ラインに設置されているロボットなども作っている。

 大学の人気就職先ランキングでいつも上位TOP5に名を連ねていた。


「今日はNNNか、気にはなっていたんだよな。俺もこんな会社に就職出来たら安泰だけど…… まっ三流大学生の俺には無縁な所か!」


 NNNの会社に着くと最初に全員で作業ミーティングを行い。各自の作業分担を指示される。俺の仕事は玄関フロアのワックス掛けと決まった。

 何度もやっている作業を任され、慣れた手つきでワックスを掛ける為にポリッシャーをトラックから降ろし作業に取り掛かる。ポリッシャーとは機械本体の下部に取り付けられているブラシが回転し、ワックスを掛けながら進む事が出来る機械である。


 ポリッシャーを操作しながら何十畳にもある玄関タイルにワックスを掛けていく。ワックスを掛けすぎると、歩く人が滑るので、ワックスを掛けた後は念入りに表面を拭き取る作業が待っている。

 最初は俺の仕事ぶりに文句を言ってきていたフェアリーも、1時間を過ぎた頃には飽きて何も言わなくなっていた。

更に2時間程働いた所で社員の方から一度休憩を取る事を伝えられた。俺も集中していたのでフェアリーの事をすっかりと放ったらかしにしていた事に気づく。


 社員の人から缶コーヒーを受け取ると、冷えた手を温める様に両手でギュッと握る。そして他の者と少し離れた場所で腰をおろしてフェアリーに話しかけた。


「フェアリー、ほっといて悪かったな。今は休憩時間だ」


「……」


マイク越しに声を掛けたが返事は帰って来ない。

 気になった俺は胸ポケットから携帯を取り出し画面を見ると、何時もなら必ず画面上にフェアリーは居るのだが今は居ない。

 不思議に思い携帯をコンコンと叩きながら、再度マイクで声を掛けた。


「フェアリー、何処にいるんだ? 出てこいよ」


「……」


 だが結果は先程と同じで画面にフェアリーが現れる事は無い。どう言う状況か分からずにいると、社員の人から休憩の終わりを告げられた。俺は仕方なく、再び携帯を胸ポケットに差し込んで作業を開始していく。


 午前4時、全ての清掃作業が終わり片付けも終えた。後は車に作業員が乗り込み会社へ帰れば今日のバイトは終了する。

 全ての作業員が車に乗り込んだ事を確認した後、車が発車される。車を発車させた時にイヤホン越しにフェアリーの声が聴こえてきた。


「バイトは終わったのね」


 俺が乗っているのは7人乗りのワンボックスカーの中で、隣には誰も居ないが一つ前の座席には別の人が座っている。そんな中で喋っていては疲れて眠っている人を起こしかねない。なので俺は携帯を取り出し、カメラ部分を正面に向けて口だけを動かして声を出さずに喋る。


「何処に行っていたんだ? 心配したんだぞ」


「暇だったから、ちょっと散歩に行っていただけよ」


「散歩だって?」


「えぇ、面白い物を見つけたの。だからちょっとだけ助言を与えてあげたわ」


「まさか…… NNNの会社で悪さをしたんじゃないだろうな……」


 背中に冷や汗を感じる。フェアリーの馬鹿げた性能なら何らかの方法で会社内のネット回線やパソコンにも侵入する事が出来るだろう。


「フン! 悪さとは失礼だわ。ちょっとだけ手助けをして上げただけよ。感謝こそされ、迷惑を掛ける事はないわ」


「とにかく、勝手に変な事はしないでくれ」


 頭を左右に振り、困った表情しか浮かんで来なかった。フェアリーが一体何をやったのか? その事を考えるだけで俺の頭痛の痛みが増して行く。


----------------------------


 それから数日後、携帯から着信音が響く。

 その音はメールを着信した合図で俺は携帯を取り出しメール確認する。


「なんだ? 間違いメールかな?」


 普段は入ってくる事の無いJメール。企業の迷惑メールや登録している商品案内とかが入ってくる事が多い。

 俺がタイトルを確認してみると、どうやら個人から送られている感じである。


【小坂達也。貴方の話を伺いたい】


「小坂達也? 聞いた事が無いな…… 開いても良いものなのか? ウィルスとか在ったり……」


 俺が思案していると、一緒にメールを覗き込んでいたフェアリーが告げる。


「あぁ、私が助言をしてあげた人が確かその名前だったわ」


「何だって、お前連絡先まで残していたのか!?」


「えぇ、でも気づくとは思わなかったわ」


「はぁ、何て事をしてくれたんだ……」


 大きくため息をつき、問題事の匂いしかしないメールを俺は開いてみる事にした。

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