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2話

 SDカードにはモニター上に佇み優雅な動きで笑みを見せ挨拶を行う可愛い少女が入っていた。

 それにしてもやけに流暢に喋るアイコンだと感心してしまう。

 俺が知っている音声読み上げソフトはもっと機械的な声と発音だが、この少女の声は普通に電話で人と喋っているのと全く相違ない。

 次に見た目はどう見ても小学校の低学年にしか見えず。金髪を腰まで伸ばしツインテールでまとめられていた。顔の造形は日本人と言うより外国人がモチーフの様で白い肌と青い瞳を持ちテレビで見た事がある外国人の子役タレントより数倍可愛らしい。

 服装はゴシックと言えばいいのか? 西洋風のスカートの部分がフワッとした黒を基調としたドレスを着ており、金髪には良く似合っていた。ゴシックファッションに身を包んだ金髪の少女の声はスピーカーを通じて語りかけて来ている。


「女の子のキャラが出てきたけど、これは何をするソフトなんだろ…… えっと設定画面やヘルプ機能はどこかな……」


 まずは使い方を調べないと行けないのでヘルプを探そうと画面上に目を泳がせる。


「無いわよ」


「ん、気の所為か?」


 声を掛けられた気がしたが気の所為だろうと思い再び画面を見直す。


「だから、設定画面なんて無いって言ってるじゃない! 耳付いてるの?」


 画面上の女の子は俺をビシィっと指差しそう告げた。


 何と驚いた事にこのキャラは俺が喋っている事が聴こえているらしい。どこから聴こえているのだろう? 

 それにしても俺の言葉に反応するなんてどう言う仕組みなんだ。確かに俺はネットやコンピュータに詳しいとは言えない。パソコンを使って出来る事と言ってもニュースを見たり買い物をする程度。

 携帯でも音声認識機能がある時代だが、今の出来事は俺が知っている音声認識を遥かに凌駕していた。


「なんとも変なソフトだ。喋るプログラムって所か? まさか小坂さんがこんな物を作っていたなんて…… このソフトで俺に一体どうしろって言うんだよ」


 少女を見つめながら愚痴をこぼしてみる。

 だが今のまま放置する訳にも行かない。例え設定画面が無いと言われても操作方法や利用目的が解らなければ先に進めないのが現状で、マウスを操作し何とか設定画面を探す。


「あれ何だこれ? 今まで使っていたOSじゃ無い。どうなっているんだ?」


「フフン。今頃気付いたの? 最初入っていたOSは遅すぎて私が動き辛いから勝手に作り変えたのよ。 だ・か・ら、アンインストールはもう出来ないわ」


 人差し指を立てて左右に振りながらチッチッっと得意気な仕草をする画面上のアイコンを見てカチンとくる。

 頭に血が上り何とか設定画面やソフトが入っているフォルダーなどを見つけてやろうと、マウスを操作して色々探してみたがスタートメニューすら無くなっている。確かに当初入っていたOSの面影は今や何処にもない。


 電源を抜くと言う奥の手もあるのだが、ここまでされると逆にこの少女に興味が湧いてくる。

 ネットに繋がっている訳でも無いのでウィルスとかが紛れ込んでいてもこれ以上パソコンが重くなったりする事もなく、大体このノートパソコンに入っていた大事なデータすでに抜き取ってデスクトップパソコンの方へ移している。なのでこのノートパソコンは最悪壊れてしまっても痛くはない。

 俺は小坂さんが作ったプログラムに少し付き合ってみる事にしてみた。


「お前は面白そうだな。どうして俺の言葉が判るんだ?」


「お前って本当に失礼ね。私の名前はフェアリーそう言ったでしょ。そんな事も覚えられないほどバカなの?

 まぁいいわ。質問に答えてあげると、付属のカメラから海斗の動く口を読み取って解読してるの。私にとってはこんな事位は朝飯前よ」


 確かにこのノートパソコンにはカメラが組み込まれているタイプだが、にわかに信じられない。もし本当ならこのプログラムは凄い性能だ。


「じゃあ、俺の名前を知っているのは?」


「はぁ、またそんな下らない質問を…… OSを作り替えた時に事前に入力されていたデータを見たに決まっているじゃない。これじゃこの先が思いやられるわね」


 それにしても口が悪い、なんて生意気なプログラムなのだろうか。


「フェアリーって言ったな。ちょっと口が悪いぞ! そんな喋り方しかできないのかよ」


「私を誰だと思っているの。基本的な話し方は今ので設定されているけど、言語変換プログラムなら幾つか持ってるわよ」


「じゃあ、もっと大人しい喋り方に変えてくれないか」


「いいわよ。ちょっと待っていなさい」


 少し怒ったフェアリーが頬を膨らませた後に一瞬だけ消え、すぐに姿を見せる。

 言語変換が完了したのだろう。ハングアップの仕草で喋り出した。


「これでグッド? トゥルースに用件が メニィーなマスターね」


「待て待て、それは何処に住んでいる大柴さんの物マネだよ」


「何よ、これじゃ駄目なの?」


 するとまた画面から一瞬だけ消える。次に現れた時は服装も変わっており、何処の時代の代物か解らないが、藁で作られた傘帽子を被りその上から雪がシンシンと降っている演出付きだ。


「こいだばまねの? 本当さ我儘のご主人様きゃ。 へば、こいはどんだんず?」


 俺は頭痛を感じて額に手を押さえる。そして怒りを通り越して悟りの境地に達す。


「何処の方言かすら理解できないぞ。もぅいい元に戻してくれ」


「フン! 言う通りにすれば文句ばかり言って。もう変えてあげないからね」


 腰に両手を当ててプンプンと怒っている様子は意外と可愛い。最初は腹が立つ奴だと思っていたが生意気な子供だと思えば可愛いものである。


「でもまぁ、お前は面白いから消さずにいといてやるよ。まぁこれから宜しくなフェアリー」


「当たり前じゃない。私程の高性能プログラムを消す理由なんて何処にも無いわよ。これからはドンドンと私に頼りなさい」


「へぇじゃあ。フェアリーは何が出来るんだ? こうやって俺と会話が成立してるだけでも凄いとは思うけど、他には何が出来る?」


「私に出来ない事は何も無いわ!」


「う~ん、そうだな…… それじゃ金だ、大金が欲しい」


 少々考えてみたが特に何も思い付かないので、適当に答えてみる。実際は金も今の生活さえ持続出来れば、それ程必要だとは思っていない。


「お金が欲しいのね。じゃあ働きなさい」


 ビシィィっと指を指されてドヤ顔で小学生が言いそうなおちょくり方をされた。そのドヤ顔具合にイラッと来る。


「そんな事解ってるんだよ。もっと簡単な方法は無いのかよ!!」


「働きたくないのね? 本当とんだニートだわ。本当に人生の負け組ね。いいわこのPCをネットワークに繋いでみなさい」


 本当に口が悪く俺の事を主人と言っていたにも関わらずディスりが止まらない。

 そして俺の要望を叶える為にはネットに繋ぐ必要があるらしい。どうしようかと少し悩んでみたが、最終的に俺はRUNケーブルをノートパソコンに繋いだ。

 するとフェアリーはデスクトップ画面からパッと消え、1分位後位にデスクトップ画面には銀行の個人口座明細が開く。


「何だこれは……銀行の口座か? えっ何だこの金額は!! 一、十、百、千…… 一億円!?」


「どう? まだ足りなければ幾らでも集めれるわよ」


「いや、この金はどうしたんだよ? 一体どこから……」


「銀行からに決まってるじゃない。ハッキングして移して来たのよ。あんな緩いセキュリティーとは思っても居なかったけど。これで私の実力が解った?」


 何度も首を縦に振る。これでお金持ちになったと呆然としていたが、逆に窃盗で捕まる恐怖が俺を包み込んでくる。


「フェアリー、盗んだ金をATMや窓口降ろしたりしたらバレるだろ!! それにネット銀行の俺名義って…… これじゃ取った事がバレるんじゃないのか。悪い事はするな。頼むから元に戻してくれ」


「はぁ、またそうやって私に無駄な仕事ばかりさせてから。もう今回だけだからね」


すると直ぐに残高表示が0円となるが一度でも移した記録が残るんじゃないかと俺は焦っていた。


「もし今の事が警察にバレたら俺が捕まるじゃないか! どうしてくれるんだよ」


 半分泣き顔になってそう告げた。


「何言ってんの捕まる訳無いじゃない。心配しなくても痕跡は全て消してあるわ。その辺は抜かり無しよ」


「馬鹿野郎、バレなければ何をやってもいいって訳が無いだろ。俺は悪い事をする奴は嫌いだ! 人の物を盗んだりするのは以後禁止だからな」


 真剣に怒って見たが、プログラム相手に効果が在るかは判らない。だがこんな騒動に巻き込まれるのは2度と御免だった。


「わかったわよ。そんなに怒らないでよ……」


フェアリーはシュンとして下を向いたまま素直に謝っていた。意外と効果が在ったみたいで逆にこっちが驚く。


 そんなやり取りを続けている内に時間はあっと言う間に過ぎてもう寝ないと明日に響く時間になっていた。疲れも出てきて今日はもう良いかと、おもむろにノートパソコンを閉じてやる。

 閉じる瞬間にフェアリーが叫んでいたが、それは無視しておいた。


 そして俺はベットにダイブし、深い眠りへと入って行く。


-----------------------------


「起きなさい。何時まで寝ているつもりなのよ」


 翌朝、何者かの声が聞こえ目を覚ます。


「もう、幾ら起こしたと思っているのよ」


 聞き覚えのある声にハッと意識が戻り、ノートパソコンの方へ視線を向けた。だがノートパソコンは閉じたままになってある。


「そこじゃないわよ。コッチ、コッチ」


 どうやらその声は俺の脱ぎ捨てた上着のポケットから聞こえてくる。もしやと思い、身体を起こし服から携帯を取り出すと、携帯の画面の上にはフェアリーが映っていた。


「フェアリー!? 一体どうやって携帯に……」


「海斗は本当に馬鹿ね。昨日貴方が眠っている間にノートパソコンからルーターに飛んで、ルーターに繋いである無線LANの親機からWifi経由で携帯に飛んだのよ。言っとくけど携帯のOSは既に作り替えたから、今日から此処でお世話になるわね」


 確かにルーターには携帯用で後付で取り付けていた安物の無線LANの親機があるが、まさかそれを経由してくるとは予想すら出来なかった。

 今度はかなり激しい頭痛に襲われ、フェアリーをインストールした事を少し後悔する。

 俺の苦悩を横目に、フェアリーは最高に可愛い笑顔を俺に向けていた。

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