俺は異世界でチートに目覚めたようです
異世界に転生してから月日は経ち・・・
俺は18歳の青年までに成長していた。
俺が18歳になるまでにたくさんの出来事が起きすぎて、魔王討伐は不可能となってしまった。
魔王討伐が不可能となった理由。
それは────
────俺が今住んでいる≪エレガナ国≫と、魔王が直接的に統べる≪アグバッシ帝国≫が絶対的友好関係を築いてしまったこと。
それが国民に伝えられたのは、確か俺が12歳の頃だったはず。
当時は国民は勿論のこと、貴族や国会議員でさえも、その関係を非難した。
しかし、友好関係といっても実際は石油や鉱物の共有や、両国間での取引などが合法化されたなど、どっちかというと≪連盟≫に近い感じだったから、その関係を非難する者はいつの間にかいなくなっていた。
それからというと、魔族の奴が、市立の図書館で本を読んでたり、俺の家の近くの公園で魔族の子供と人間の子供が遊んでたり、しまいには肉体的な関係を築いてしまうものだっていた。
まあ、俺はそんな奴等を徹底的に非難していた訳だが・・・
「何か考え事でもしてるのか?」
そう聞いてきたのは、俺の向かい側のベンチに座っている金髪の蒼い目をした同い年の男。
その男の名は、アラン。
「昔の事を思い出してただけだよ、アラン。」
俺がそう言うと、アランは「フッ」と、鼻で笑い、つづけて俺に話しかける。
「お前は俺に初めて朝飯を分けてくれた日も、そんな顔で下を俯いてたな」
「お前・・・覚えてたのか・・・ってあれ?」
俺が何かに気づいたような顔をして、自分の方を向いたことに気づいたアランは、一つ、ため息を吐いて、「気づいてなかったのか・・・」とあきれた風に言ってきた。
そして、アランはベンチからすっと、立ち上がり、俺に向かってある重要な事を言い放つ。
「俺は別の世界で時の魔術師と呼ばれていた者だ」
その意外な言葉に、俺は公園の空気は凍り付く。
そして、内容がようやく飲み込めた俺は、アランの目を見て、こう言った。
「お前・・・本当はそんなイケメンだったのか・・・」
俺のそんな軽い言葉に、アランはポカーンとする。
するとアランは、自我を取り戻したようにハッ!とした顔で、こっちにかなりの声量で言い返してくる。
「おいエミール!!やっと気づいたかと思ったらいきなり『お前・・・そんなイケメンだったのか・・・』とか意味不明な事言いやがって!!ってかお前にイケメンって言われたらなんか見下されたみたいで腹立つわ!!」
「ま、まあ落ち着いて・・・てかそんな事よりギルドに冒険者として登録しに行くんだろ?」
久しぶりに大きな声を出すことのできたアランは、鼻息を荒くしながらも、俺の呼びかけにちゃんと反応した。
「お、おう。そうだったな。いきなり騒いでしまってすまなかった。」
「おう。早く行こうぜ。」
他愛もない挨拶を交わした俺とアランは、公園から離れ、街の方へ向かっていった。
────そう。
アランは、俺がいた世界でカラスの姿をした生き物だった。
それも、俺が毎朝餌をやっていたカラス────
────時の魔術師。
即ちアランと俺が出会ったのは、今から3年前の15歳の時。
俺は街の方で開催される美顔コンテスト{女性の部}になぜか参加してしまっていた。
どうやら、手続きのミスとかでは無く、純粋に親が仕込んだものだったらしい。
俺は幸運な事に、出場する前にほかの参加者に男だという事がバレて、こっぴどく注意された後、男性の部の方に移されたのだ。
そして俺とアランは、その美顔コンテスト{男性の部}の決勝で対面する事になる。
どうやらアランの方が俺の顔を覚えていてくれたようだ。
ちなみに、俺はその美顔コンテストで見事優勝をおさめている。
だから、アランにイケメンという単語をぶつけてみると、さっきみたいにいきなり叫ばれる。
———情緒不安定かよ、あいつは。
「あったぞ!!エミール!!冒険者ギルドだ!!」
俺がまた昔の事を考えていると、俺とアランは遂に冒険者ギルドに着いていたようだ。
その歩き続けた時間、まさに40分。とても長い旅だった・・・
俺が冒険者ギルドに着いた喜びと達成感に浸っているうちに、アランはもう中に入ってしまったようだ。
「ま、待てよアラン!!置いてくなよ!!」
俺は早々に冒険者ギルドの中に入ってしまったアランを追いかけて、続いて入っていった。
俺が扉を開けるとそこにあったのは、屋根にぶら下がった大きなシャンデリアと、建物内の中心にある大きな噴水。どれも、この街の最先端の技術を象徴する、そんな雰囲気を漂わせている。
「おーい、エミール!こっちだ!!」
アランは、冒険者登録所で手を振って、俺の到着を待っていた。
俺は、急いでアランの所へ走って向かう。
「おせーよ、エミール。」
そういってアランは俺の肩を結構な力で叩く。
それを暖かい目で見ていたショートヘアのギルド職員の女性は、こちらに向かってコホン、と咳払いをし、冒険者登録書を2枚差し出す。
「では、まず最初にそのシートに記載されている質問に答えてください。」
俺とアランは、目の前にあるシートに視線を落とし、シートに書かれてある質問に次々と答えていった。
そして、最後の質問。
「なあ、最後の質問のあなたは童貞ですか?っていう質問の意味が分からないんですけど・・・」
「その質問の通りですよ?」
俺の質問をバッサリと何事もなかったように切り落とすギルド職員。
そして、その最後の質問に、深刻そうな顔をして渋々「童貞」と書いているアラン。
それを見たギルド職員は、いっそう顔をパアッと明るくさせ、とんでもないことを軽々く言い放つ。
「実は私も処女なんですのぉ。今夜、お互い初めてを卒業してみませんかぁ~?うぇへへへへ・・・」
「こいつ・・・狂ってやがる・・!!」
「多分お前の顔がこいつの望む顔と合致したんだろう。付き合ってやれ。」
「や、やだよ!!って、おいギルド職員!?よだれ垂れてる垂れてる!!いいからよだれ拭いて!!早く!!」
「ああ、しまった・・・私としたことが・・・」
ギルド職員は、さっきまで繰り広げられていたなにやら妙な雰囲気を思い出すように、いきなり顔を赤くさせ、手で顔を覆う。
「あの、さっきの事は・・・黙っていただけませんか・・・?」
「ああ、別にいいが・・・」
アランは、ギルド職員の目を見ずに、わざと目を反らすように、建物の屋根を見上げる。
そこで俺は、アランの異変に気付いてしまった。
(あれ?なんかアランの顔が妙に赤いような・・・まさかこいつ・・・)
まあ、そんな事はどうでもいいとして。
「あの、全て記入終わったんですけど・・・」
「あ、すみません・・・って、二人とも童貞ですか、うぇっへぇ~・・・じゃなくて!!記入が終わりましたので、右手にある丸い水晶の前で少し待っててください」
こいつ、なんか一回変な方向に進もうとしていたような気が・・・
もしかして、この女性は≪童貞≫という単語に反応するのか・・・?
────いいことを知ったぞ。
「こちらの水晶に触れると、下にあらかじめ設置してある紙に、自分のステータスが表示されます。そのステータスを見て、自分に合ったジョブを見つけてください。」
「まあ、早く水晶に触れて、自分に合った職業を見つけようぜ。」
「そうだな、アラン。よしっ!まずアランから頼む。」
俺がそういうと、アランはなんの躊躇もなく、右手を水晶にあてる。
すると、水晶は急に青く輝きはじめ、周りに緑色の小さな粒子が巻き上がる。
それにめくりあげられるように、アランの髪はふわっと、浮き上がる。
10秒程すると、水晶の輝きは失われ、周りに浮いていた粒子は、地面にパラパラと散っていった。
「おっ!俺のステータスが刻まれて行ってるぞ!!」
その紙にアランのステータスが刻まれるのと同時に、アランは紙を引き出すようにして、手に取る。
「おや、LV.1なのに、なかなかのステータスをお持ちのようで・・・って、魔力3495!?ば、化け物!?」
「し、失礼な!!ちゃんとした人間だよ!!」
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名前 アラン
LV 1
役割 町民
職業 無職
属性 光
攻撃力 124
防御力 533
魔力 3495
運 15
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「ふむふむ、俺は魔法を主軸とする冒険者となりそうだ、エミール」
「ああ、そうみたいだな。って、運が15って、少なすぎだろ!!」
「運が少ないってことは、自分の実力で倒せってことだろ?」
「ここまでポジティブになれる人は初めて見ましたよ・・・」
アランの驚愕の運の数値に驚きを隠せない俺とギルド職員。
「それはそうと、次はエミールの番だぞ!」
「お、おう・・・そうだったな。」
俺も、アランのように何の躊躇もなくいきたいところだが、やっぱり怖い。
俺は腹をくくり、心の中でその恐怖を超える何かが誕生するのを確認すると、右手を水晶に押さえつける。
(ええい!どうにでもなれ!!)
水晶は、青い輝きを放ち、周りには小さな粒子が浮き上がる。
と、いきたいところだが、なんと・・・
「え、え!?なんか赤くなってるよ!!」
その水晶は、青くなるどころか深い紅色を放ち、周りには不規則な紅い光輪が現れ、そして・・・
———消えてしまった。
俺は、紙に正常に記録されているステータスを引きずり出し、目を凝らして眺める。
「これは・・・凄い・・・」
俺がそういうと、アランとギルド職員は、俺の後ろに回り、ステータスを一緒に眺める。
そして俺達3人は、一斉に・・・
「「「これ、なんていうチート?」」」
見事に3人の言う事がハモった。
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名前 エミール
LV 1
役割 町民
職業 無職
属性 闇
攻撃力 1357
防御力 2586
魔力 48697
運 1
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