俺は異世界で生まれ変わったようです
俺が目を閉じているうちに、あの強い光がいつの間にか無くなっていることに気づいた。
俺はゆっくりと目を開けようと試みるが、どこに力を入れてもどうしても瞼が開くことはなかった。
(なんで瞼が開けられないんだ・・・もしかして失明したか・・・?)
俺はその可能性を必死に全否定しようとするが、心が、体全体がその可能性をあっさり認めてしまい、今までにない激しい焦燥感や、恐怖感を同時に味わう事となった。
俺は体全体を全力で動かした。少しでも恐怖が紛れるように・・・自分の前に吊るされた現実から目を背ける為に・・・
(俺はもうあの太陽や月を拝むことはできないのか・・・)
と、ひどく落ち込む俺。
しかし、どうやらその可能性を否定するすべが見つかったようだ。
俺は、だんだん見えと見えてきた瞼の中の透けた血管を見てそう感じる。
俺は、再度瞼に力を入れて、全力で目を開けようとする。
すると、俺の瞼は誰かに意図的に開けられたように、意外にスッ・・・と開く。
俺は目を開ける事の出来たのに対する素晴らしい開放感と安心感を同時に味わっていた。
────俺は、神様に向かってこんなにお礼をしたくなったのは初めてかもしれない。
そう思って、時の魔術師と漆黒を司る神龍を撫でまわしたいと思ったが・・・
────いない
俺はその事実は咄嗟に認め、自分の立てた予想を確かめる為に、あたりを見回す。
(やっぱり・・・ここは俺の家じゃない)
そう。
俺が今いる場所は、高校2年から住み始めたあの見慣れた部屋ではなく、全く見たことのない、というか、日本の建築物ではない、中世の頃の木みたいな感じの部屋にいた。
俺は、ここで自分以外にも人間がいる事に気づく。
────黒の髪に、紅い目をしたイケメンの男が・・・
その男は、この俺に向かって、爽やかな笑顔を見せつけた。
そして────
「この子はよく泣くね、エリカ」
(は?エリカて誰だ。てか、今俺泣いてねーだろ・・・ってあれ?なんだこの頬を伝う謎の感覚・・・俺ってもしかして本当に泣いてるのか・・・?ってうるさ!!なんだこの泣き声!!あっ・・・俺か)
どうやら本当に泣いているようだ。
暫くすると、奥の部屋から銀色の髪をして、左目の色は紅、右目の色は黄金色といった具合に左右目の色の違うオッドアイ患者の女が出てきた。
(多分、今までの話の感じだと、こいつがエリカか・・・すっげー美人じゃん。なんだ、あの男の嫁か?)
「あら、本当ねあなた。あなたみたいに元気な子が生まれてきてくれてよかったわ」
「エミールのこの銀色の髪はお前みたいだよっ!」
「やだもう、エドガーったら♡・・・」
・・・なぜだろう。いい夫婦。うん、いい夫婦なんだよ。この人達は。でもどうしてだろう・・・
────凄く殴りたい。
俺は生きていた中で一度も体験したことの無い、とてつもなく殴りたい衝動を、必死に堪えた。
・・・はずだった。
俺はついうっかり渾身の右ストレートをエドガーっていう男におみまいしてしまった。
そこにいたエリカっていう女は、何か恐ろしいものでも見たかのような表情で口を押えていた。
そして、俺は(やっべ!!俺なにやってんだ!!)と我を取り戻し、自分を責める。
俺はやってしまった、と半ば後悔しながら、人前で色々やってくれたバカ夫婦に制裁を下してやったぞ、という満足感に酔いしれていた。
俺は、エドガーに右ストレートをおみまいした勇敢な俺の右手に視線を落とす。
そこで俺は、ある重要な事に気が付く。
それは────
(俺、生まれ変わったのか・・・)
俺が今見ている右手は、前まで俺の見ていた異常に白い肌の手・・・ではなく、若干黄色い、THE日本人みたいな肌色をしている。
さらに推測するに、俺は多分この夫婦の子供だ。ていうか、今までの話の内容を聞いた限りでは絶対そうだ。
しかし、それよりももっと俺が驚いている事が、今まさに目の前で繰り広げられている。
それは、俺に殴られたエドガーと、それを見ていたエリカの会話の内容である。
「ねえ!エミールは将来魔王を絶対倒せるわ!」
「ああ、そうだな!あいつは生後二ヵ月にも関わらず、俺の肋骨をバキバキにする事ができるくらい力があるのだから!!よし!エリカ、俺はちょっと病院に行ってくる!!もし帰ってこなかったら察してくれ!!じゃあ!!」
「逝ってらっしゃーい!!エドガー!!」
エドガーは肋骨が折れてんのに何であんなに平然と喋る(叫ぶ)ことが出来たんだ・・・
エリカもエリカで、夫が生後2ヵ月の赤ん坊に殴られた夫に向ける言葉がそれかよ。
俺は、このバカ夫婦にとても呆れていたが、俺の親だと思うと、どうしても謎の愛着が沸いてしまう。
そもそも、エリカはこんなに美人なのだから、愛着が沸いても仕方がない。
エドガーは、何というか、その、ドジッ子感?に対してとても愛着が沸く。
俺は、この家庭はとても長続きするだろうと察した。