俺は異世界への片道切符を手に入れたようです
俺は朝、目が覚めると最初にすることが必ず決まっている。
俺の住んでるマンションのベランダに毎朝やってくるカラスと鷹に餌をやることだ。そのカラスと鷹は、俺が住み始める大分前からこの部屋に毎朝寄っていたようだ。それを管理人が俺に気を遣うように言ってきたのは覚えてる。そして、俺がそのカラスと鷹に餌付けをしていたのがバレたときにすんげー怒られたのも、今となってはいい思い出だ。
毎朝六時半くらいになると俺は、カラスと鷹にやる餌を台所で作り始める。
最初作り始めた頃は、カラスにはパンの耳、鷹には手作りの油分控えめのウインナーなど、とても安価で手に入るものがメインとなっていたが、今は牛肉を焼いたものを与えたり、今までのパンより二つほどランクを上げて、ヤ〇ザキのパンを与えたりしている。
え?毎日牛肉を鷹なんかに与えちゃってお金がもったいない?
カラスなんかにヤ〇ザキのパンを与えたりして、会社に失礼だろ?
「ふっ・・」
俺は自問してしまい、思わず笑いがこみ上げる。
なぜ俺は毎日牛肉を与え続けて資産に余裕があるのか・・・
それは────
「なんか知らねーけど、お金が勝手にたまっていくんだよなあ」
俺がそっけない独り言をした瞬間、ベランダに二匹のお客さんがやってくる。
カラスと鷹のことだ。
俺は寝起きのおぼつかない足取りで、ベランダの窓を開ける。
「おはよう、『時の魔術師』、それに『漆黒を司る神龍』」
カラスと鷹は、名前を呼んだ俺に呼応するように同時に鳴く。
ちなみに、カラスが時の魔術師で、鷹が漆黒を司る神龍という名前である。
俺は高校2年の頃にここの部屋に住み始めて、その時にこの2匹に名前を付けた。厨二病のまっただ中に。
俺はとてつもなく恥ずかしい名前を覚えさせてしまったことに後悔を覚えながら、黙って2匹の朝飯の準備をする。焼いた牛肉を皿の上に乗せその牛肉の近くに卵をかける。
そして、2匹は皿に盛られた料理を眺め、俺が向こうの部屋に行くのを確認したのと同時に朝飯を食べ始める。
(それにしても、もっとこう・・・インパクトのある人生をあくりたかったなあ)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
俺がこの人生にそろそろ飽きてきたのは、今から2年前・・・
俺は二十歳を迎え、大学もその時に卒業した。
大学を卒業したその日に、高校卒業後にすぐに就職した友達に、全世界の言語でスピーチをやって見せた。スピーチを読み終えたとき、ほとんどの人は俺をほめたたえてくれていたが、部屋の端っこ。そこに、高校の俺の大親友だったやつが、ぽつんと座っているのをみた。
俺はそいつに話しかけようとしたが、ほかの人たちに埋もれて、声を発することが出来なくなった。
そうしている間にそいつは、俺の方を向いて、醜悪な表情をして、しかし、俺の近くまで寄ってきて、俺の耳元でこう囁いた。
「お前、全員に騙されてるよ・・・」
俺はそいつの言葉を聞いたあと、「え?」と聞き返してみたが、俺の言葉を無視してその部屋を出て行ってしまった。そのあとは確か、誰かが酒を飲み始めたので、それにみんなも合わせてのみ始めた。
俺の記憶はそこまでだ。
俺はその時の記憶を思い出してしまい、軽く嘔吐く。
そうだ。あの時から俺は友達というものはただの人を区別する記号に過ぎないことをしり、人間の持つ関係が全て嘘くさく見え始めて、自分だけ違う世界を生きているような空虚感に襲われ始めたんだ。
だから今俺が感じている時間がとてもつまらなく感じるのか・・・
俺は何度も自分の導き出したその答えを、頭の中で違う答えが無いのか探し続けた。
自分だけが違う世界を生きているという答えを否定する為に。
何度も、何度も、何度も────
俺がそんな事を考えてしまい泣きそうになっている所に、鳥が何かを吐き出す声が聞こえた。
それは間違いなく時の魔術師のもの。
俺は急いでベランダに行き、時の魔術師の安否を確かめた。
「よかった、時の魔術師は大丈夫みたいだ・・・」
時の魔術師が吐き出す声を聞いた漆黒を司る神龍は、早足でこっちに向かってくる。
それを見た俺は、
「こいつら・・・仲がいいんだなぁ(泣)」
と、気づいたら目をウルウルさせてそう言っていた。
それに気づいた俺は、相手は動物なのに、なぜか泣き顔を見せるのが急に恥ずかしくなって、俯いてしまった。そこで俺は、時の魔術師の吐しゃ物の中に含まれていたあるキラキラ光る物が紛れ込んでいることに気づく。それを、俺は手袋でキラキラ光る物をつかんで、台所で回りについている物を洗い流す。
すると────
「なんだこれ、指輪か?」
俺がそう言うと、2匹が俺に近づいて来る。
そして、漆黒を司る神龍は俺の右腕につかまり、時の魔術師は、嘴で指輪の側面に書かれてある文字をゆっくりとなぞる。
それを見ていると、嘴はやっと一周なぞることができた。
すると、指輪を持つ手がいきなり熱くなり、うっかり指輪を床に落とす。
俺は未知の体験に、幽霊を見た小さな子供のような怯え方をする。
しかし、その指輪の熱さは、床を焦がし遂にはかなりの光を伴って、あたりを見えなくさせる。
俺の視界は、指輪の光に盗まれ、今感じていられるのは、俺の両腕に時の魔術師と漆黒を司る神龍が掴まっていることのみ。
その指輪の光は、暫く放っておいたらおさまるだろうと考えていたが、そうやら時間が経てば経つほど光は強くなるようだ。
俺はその未知の恐怖から逃れる為に、目を瞑ることにした。