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戦火のロートス~転生、そして異世界へ~  作者: べりや
第三章 アルヌデン平野会戦
62/163

戦端開く

挿絵(By みてみん)

赤:洪水作戦

サヴィオン軍攻勢作戦。

主目的は王都ノルト攻略の足掛かりを作るためアルヌデン平原を東進し、各砦及び要塞の占領。

また、それを阻止せんとするレオルアン在留アルツアル軍の前進阻止。

東進兵力二万。南下兵力六千。


青:堤防作戦

アルツアル軍守勢作戦。

主目標は南下してくるサヴィオン軍の迎撃。総兵力約六千(エフタル義勇旅団込み)。なお、別途王都に迫るサヴィオン軍に対して第一王子隷下の第一近衛騎士団一万が出撃。


挿絵(By みてみん)



 いよいよ夜が明けた。

 地平から生まれたばかりの太陽が顔を覗かせ、川面に宝石をちりばめたような輝きを作り出してくれている。

 殺気に当てられたせいか、鳥の声は無い。風も凪いで静かに淀んだ空気がそこにあるだけ。

 非常に静かだった。

 互いの国の威信を賭けた決戦と言うのに。



「ロートス! 戦闘準備完了だよ」

「分かった。ミューロンは選抜猟兵(スナイプイェーガー)を所定にの位置に」

「了解しました」



 サッと風のように中隊本部を出て行く幼なじみの背中を見送り、俺も本部を出て塹壕からひょっこりと顔を出す。

 三十メートルくらい先の河を見ればいよいよ色彩を強めた茶色いそれが横たわり、その遙か彼方に赤を基調した軍勢が見えた。そして白地に黒十字――第二帝姫の軍旗も――。

 数はおよそ六千。うち騎兵は二千ほど。事前の報告だと敵の総兵力は七千と聞いていたが、どうやら誤報のようだ。いやぁ千人も敵が少なくて良かった、良かった――。


 ってこの人数差なら誤差じゃねーか。それに相手は羽飾り付きだ。千人程度どうでもいいわ!


 そして敵との距離はだいたい五百メートルは遠方か。

 それを見守っていればラッパが響いた。友軍では無い。サヴィオンの連中だ。



「戦闘用意!」



 ラッパ手が『戦闘』を告げる音を吹けば河にそった防衛陣地の各所から同じ音階が響いていく。



「ザルシュ曹長!」

「はいはい。今行くから待ってろ!」



 塹壕のどこかからか「良いか、敵が来たら目つぶるなよ」と新兵を脅す声が聞こえた。

 そして兵士の間をくぐってやってきたドワーフは泥にまみれた姿のままのそりと姿を現す。



「お呼びで?」

「あぁ。敵が動き出したな。このまま泳いでやってくるのか?」

「どーだろうなぁ……。見たところ流れは緩いから泳いで渡れない事はあるまい。だが二百メートルを泳いできていざ戦闘ってのは人間には無理だろうな」



 なるほど。

 確かにただ泳ぐのではなく武具を抱えなければならないのだから負担も増大すると言うもの。

 だが橋は落としてあるのだからどう出てくるのだろうか。



「……船ですか?」

「それが現実的だろ」



 だが対岸に船はおろか筏さえ見あたらない。

 一体、何をたくらんでいるのだろう?

 そう思っていると対岸が何カ所か光り輝いた。それと同時に蒼穹の空に黒点が飛び出していく。



「魔法だ! 伏せろ!!」



 即座に頭を下げたい誘惑にかられつつ敵陣に視線を向ける。第二射は……? 無い。魔法って何発も連続では使えないのだろうか。それはそれでありがたい話だが。

 そして風切り音が迫ってくる。

 圧倒的な質量を持つ氷塊が重力に引きずられて着弾。

 地響きを感じつつ振り向けば塹壕から後方、五十メートルほどに土煙が上がっていた。


 くっそ。アルヌデンの時は名乗り合いをしていたのにいきなりかよ。

 いや、これだけ距離があれば名乗ろうにも名乗れないか。



「敵、魔法発動!」



 兵士の声に振り返れば対岸から再び氷が投射された所だった。

 くそ、連続で使えないんじゃなくて着弾観測しながら当てる気か。そりゃそうだろうな。砲兵だってそうなんだから。



「砲兵はどうした!? 伝令!」

「はい、中隊長殿! 伝令、承ります!」



 人間族の男が身を低くしながら走ってきた。



「大隊本部へ。我、魔法攻撃を受けつつあり。砲兵の支援を要請す。復唱しろ!」

「復唱します。我、魔法攻撃を――」



 内容を確かめるや走り出していった伝令を見送ると次なる衝撃が襲ってきた。

 今度は河に盛大な水柱が生える。雪解けの水を押しのけ、大量の水が河原にあふれ出す。それは河原を乗り越え、その勢いのまま迫って来る……!



「銃兵待避! 火薬をぬらすな!」



 その叫びを聞くか、聞かないかの間に塹壕に詰めていた兵士達が慌ててカートリッジが詰め込まれた弾薬箱を持ち上げたり、後方へ走り出す。

 ダメだ。間に合わない。



「うわあ!?」



 岸を越えてあふれ出した泥水が塹壕に流れ込んでくる。

 うわっぷ!?

 押し流され、足元がすくわれる。



「痛ってぇ……。くそ、さっぱりしたぞ」



 野営続きで風呂に入っていなかったから逆に綺麗になったかな。チキショウ。絶対に殺してやる。



「被害報告! 被害報告!!」



 泥水をかき分けて立ち上がりながら叫ぶと陣地内に持ち込んでいた火薬や個人携行のカートリッジが塗れて使い物に成らない事と数人の軽傷者が出たと報告が飛んでくる。



「排水を急げ! ナジーブ! ナジーブ!!」

「はいだ!」



 オークの臨時少尉が大きな体をゆらしてやってくる。彼らにとって塹壕は狭くてたまらないようだ。



「第四小隊は排水作業にかかってくれ」

「はいだ! おい、おめぇーら! 桶さもってくるだ!」



 力自慢のオークに塹壕に貯まった水をなんとかしてもらいつつ、今度はワーウルフ族のリンクス臨時少尉を呼びつける。



「一個分隊を使って塹壕から使えない火薬の搬出をしろ。それが終われば弾薬集積所にいって新しいカートリッジを持てるだけもって来させろ。だが、塹壕内には入れるな。また濡らしたくない」

「了解です中隊長」



 踵を返して消えていく彼を見送り、今度はザルシュさんを探す。

 くそ、一気に忙しくなったな。



「警告! 警告!! 敵、第三射!」

「まったく、ふざけやがって」



 ふと、己の軍帽が無い事に気づき、地面を探せば茶色く濁った水に浮かぶそれをすぐに見つけた。

 水を吸って型くずれし、黄帯も汚くなっている。それを頭にひっかければポタポタと不快な水が流れてくる。

 まったく、ふざけるな。

 もうここまで来ると誰に怒りをぶつけて良いのか分からないくらい(はらわた)が煮えたぎっている。



「おい、エルフの。生きてたか」

「ん? ザルシュさんも無事なようで」

「敵はどうだ?」

「……。ん!?」



 見間違いかと思って目をこする。泥水が目に染みて痛い。だが無理矢理目をこじ開けて、見る。



「橋が……」

「橋がどうした!?」

「奴ら橋を作ってやがる!?」



 橋板を取り払った橋に橋板が架けられつつあった。いや、違う。



「くそ、土魔法か!? 奴ら土魔法を使って橋板を作ってやがる」



 魔法使いだろうか。大きな盾を抱えた兵士に護衛された杖持ちが居る。そいつらの背後には台車を押す人夫が続き、そこから土の塊のような物が浮いたと思うと幅広い板のような物に加工されていく。

 一体どんな術式や魔法式(ことば)を使っているんだ!?



「戦闘用意を急がせろ。選抜猟兵(スナイプイェーガー)は攻撃開始! 撃て!」



 命令だけ叫んで一度、中隊本部に向かう。そこには周辺の地図や作戦計画の他にも俺の銃を置いてきていたのだが――。



「当たり前か」



 塹壕に流れ込んだ泥水が塹壕内に置かれた中隊本部に牙を向かない道理は無い、か。

 見事にずぶ濡れになった銃を引っ張り出し、簡単な点検を行うも――。



「いや、これ無理だろ。湿って使えないっれレベルじゃねーぞ」



 仕方ない。



「伝令! おい、そこのお前。大隊本部に乾いた布を塹壕に届けさせるよう言ってこい。さぁ行け。あとそっちの猫耳! お前だ。お前はザルシュ曹長に大隊本部から送られてくる布を受領して中隊全員に配布して銃を拭かせるよう伝えろ。早く!」



 あれこれ指図して再度、中隊本部を見る。片づける暇は無いな。

 とりあえず本部はこのままにしといて選抜猟兵(スナイプイェーガー)の元に向かう。

 膝下まで貯まった水をかき分け、塹壕陣地の右翼に向かう。そこに配置された選抜猟兵(スナイプイェーガー)の指揮を取るミューロンだが、まさに苦戦していた。



「これ燧発銃(ゲベール)の弾丸じゃない。早く螺旋式燧発銃(ライフル・ゲベーア)の弾丸を持ってきて!」

「ミューロンどうした!?」

「あ、実は皆のカートリッジが濡れちゃって……」



 泥で汚れた兵士達がやるせなくそこで弾薬を待っている。自身の持つカートリッジは濡れ、新しく配られたカートリッジは燧発銃(ゲベール)の物。

 くそ、弓と違ってこうした局面に非常に弱いのが銃だ。まだ戦闘が始まったばかりだと言うのに――。

 その時、塹壕の後方、二十メートルに氷塊が突き刺さった。地を揺らす衝撃に思わずミューロンが俺の袖をつかんでくる。そんな彼女を庇うように抱きしめてやるも、内心の焦りを体言する心臓の動きを彼女に悟らせてしまうのでは無いかと臆病が首をもたげた。



「な、なに。大丈夫さ。なぁ」



 故に顔だけでも。

 ひきつりそうになる表情筋に鞭を打ち、微笑んであげる。出来るだけ彼女を安心させらえるように。



「へ、変な顔」

「うるさい」



 その時、轟音が後方から響き渡った。

 友軍の砲兵だ。

 まず、基準砲となる砲が評定射を開始。それが遙か対岸――橋の先に着弾する。

 砲列の基準となる砲が照準を終えれば他の砲も同じような角度、方位、装薬量で砲撃が行われる効力射が出来るようになる。それをジリジリとした気分で待つのだが――。



「くっそ。ハミッシュめ。腕が鈍ったんじゃないのか!?」



 まだ第一射なのに焦りを口走ってしまう。

 くそ、落ち着けよ。俺。戦は始まったばっかりなんだからさ。



「弾薬と布を持ってきました!」



 伝令に出ていた兵士がやってくる。

 その伝令から受け取った布を引き裂き、乱雑に銃身を拭っていく。銃身の中には込め矢(カルカ)で押し込み、最後は火魔法を何回か唱えて濡れた部位を乾燥させていく。



「各個、自由射撃。目標は敵魔法使い及び指揮官。撃ち方はじめ!」



 すでに橋は半分ほどまで修復されつつあった。

 未だ、兵の多くは濡れた銃の整備に戸惑っている。てか、この調子じゃ撃発不良が頻発しそうだな。



「考えても仕方ないか」



 弾薬箱に詰められたカートリッジを取り出し、噛み千切る。「ぺッ」と紙片を吐き出して塹壕の外を伺えばまた氷の塊がこちらに向けて飛び立ったところだった。

 それに呼応するように砲声が響く。

 今度は背後と陣地の左翼彼方からも。おそらくイザベラ様の近衛第二連隊も砲撃を始めたのだろう。

 そして対岸に二つの土煙が上がった。

 一つは敵の戦線後方に。もう一発は橋の間近を捕らえて。

 おそらく橋の方が大隊砲兵の物だろうが……。同じように着弾するからどちらがどちらの弾なのか判断しずらいな。



「足引っ張る気か?」



 ふと手元を見ればちょうど火薬を銃口に流し込んだ所だった。もう体に染み着いた所作で込め矢(カルカ)を引き抜き、弾丸を突く。

 そして手早くそれを抜いて銃身下に戻し、撃鉄を完全に押し上げる。

 そして狙う。相手は大盾の陰に居る魔法使い。



「……盾が邪魔だ」



 標的となった魔法使いが盾に隠れたり、出てきたりを繰り返して照準が定まらない。

 えぇい。こうなったらまずは盾だ。

 引き金を絞る。銃声と火花が飛び出し、盾に穴があく。

 それにつられるように塹壕の各所から発砲音が響きだし、橋の上に鉛弾が飛び交う。

 そして一人の盾持ちが崩れ落ちた。そのむき出しになった空間に死を秘めた弾丸が殺到。杖を持っていた少女らしき陰が血しぶきをあげて崩れ落ちた。



「よし、弾幕を張れ。なんとしても橋に進入させるなよ!」



 銃声が溢れ、砲声が木霊する。

 絶え間ないこちらの攻撃のせいで橋の上の集団は完全に孤立。身動きが取れなくなる。



「ロートス! 新手だよ」

「よし、そっちを狙え!」



 橋に魔法使い達を救出しようとさらに盾を持った歩兵達が駆け寄っていく所だった。

 まずその先頭を走る男を狙い、撃つ。ハズレ。

 だが鼻先を飛去った弾丸に男の足が鈍る。そこをミューロンが撃つ。命中。

 足を吹き飛ばされた男が悲鳴と共に橋に崩れ落ちる。

 それに続くように他の選抜猟兵(スナイプイェーガー)も銃撃を加え、救助に向かった兵士達を続々と肉塊に変えてしまう。



「痛てぇよおお!」



 風にのって悲鳴が聞こえてくる。

 く、ふはは。良い声だ。そうやって泣き叫んでくれ。そうすれば他の連中は「あそこに行けばあぁなってしまう」と恐怖してくれるはずだ。

 だから怯えてくれ。だから泣いてくれ。だから叫んでくれ!


 く、フハハ!!


 ――急に横殴りの衝撃に襲われ、装填をしていたミューロンを押し倒してしまった。

 それと共に頭上から大量の泥と堅い何かが襲いかかってくる。

 思わず顔を庇い、立ち上がろうとするも先の衝撃で三半規管が狂ったのか、まっすぐ立てない。

 ぐらぐら揺れる視界の中、隣で倒れるミューロンが何か呻いている。



「――! ――!?」



 遠くから何か聞こえる。耳に何かつっかえがされたような、くぐもった音しか聞こえない。そして時間が粘りけをもって流れるように周囲が緩慢に見えた。

 頭の芯がぼやけるような中、壁伝いに立ち上がる。



「ぃい! ――トスぁいい!!」



 口の中に入り込んできた泥を吐き出す。だが乾いた喉が「何か流し込め」と言ってくる。ジャリジャリした唾をその要請に応えるように飲み込めばつっかえが取れ、周囲の時間が元に戻った。



「ロートス大尉! 敵の魔法攻撃です!」



 そう言っているのはレオルアンエルフで編成された第五小隊長についたエルフだった。

 元は中隊の直轄分隊を率いていた軍曹で、レンフルーシャーの隣村に住んでいた――。



「すまん臨時少尉。名前を思い出せない」

「そんな事、どうでも良いです! 敵の魔法攻撃が本陣地を直撃! 第五小隊第四分隊、総員戦死もしくは戦傷! 指示を」



 彼の背後には崩れた塹壕と泥に埋まった手足達。奇妙なオブジェのように突き出たそれの酷く現実感の無いこと。



「く、フハハ」

「――?」

「ク、フハハッ!! 臨時少尉。やっと俺達は帰ってきた。戦争に帰ってきた」

「大尉?」

「何をしている。負傷者を後送しろ。生き埋めになっている者の救助もだ。急げ!」

「は、はい!」



 慌てて指示を出し始める臨時少尉を見やり、それからミューロンを探せば頭を押さえた彼女がのろのろと立ち上がる所だった。



「怪我は――」

「くっふふ! よくもやってくれたわね! 皆仲良く殺してあげる。仲間外れは可哀想だもの。くっふふ!」



 完全にスイッチが入っている。

 増悪一色に澄んだ碧の瞳が敵を捕らえ、泥にまみれた白磁の頬が楽しげに歪む。

 あぁ、泥に汚れながらもどうして湖面に浮く白蓮のように綺麗なのだろう。彼女の喜怒の全てが慈しい。俺にはもったいないエルフだ。

 思わずいきり立ちを覚え、その衝動のままに彼女を押し倒したくなる。だが、今はダメだ。

 様々な欲求を押しのけてやってくるのは殺戮衝動のみ。



「さぁ、殺してやる。く、フハハ!!」



 あぁ、これほど高ぶる戦闘は初めてだ。初めてだチクショウ!


遅れてごめんなさい!

地図作ってたらこんな時間に……!


ちなみに私はペイントとペイントネットと言うフリーソフトを使っているのですが、他の作者様はどうやって作ってるのか気になる所です。


それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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