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戦火のロートス~転生、そして異世界へ~  作者: べりや
第三章 アルヌデン平野会戦
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不期遭遇

 意気揚々と出発したのだが、すぐにそれは終わってしまった。



「待たれよ!」



 レータリ出てすぐの街道を封鎖するように幾人かの騎士達が立ちはだかっていた。

 まるで検問のようだ。てか、それに引っかかるような事したか? いや、してないはずだ。この撤退支援のための攻勢作戦意外で。

 やっぱり駄目だったか。だが攻勢についての作戦はエンフィールド様にも話していないし、一体どこでバレたんだ? もしかするとタルギタオス中尉のところからか?

 そんな疑問を浮かべつつ平静を装って声をかけて来た騎士に敬礼して訪ねた。



「何か?」



 騎士達の前で止まった橇から降りると老境の騎士――見覚えがあるな――が近づいてきて「騎士中尉。手間取らせてすまぬな」と気さくに声をかけてきた。



「えと……。准将閣下。何用でありましょうか。我らは特殊作戦のためレータリを発たねばならぬのですが」



 籠手に刻まれた飾りを一瞥して思い出した。この人、アルツアル王国第三王姫イザベラ殿下の従者の方だ。銃兵の視察の時に顔を会わせていたな。



「なに、大した事ではないのだが、荷を改めたい」

「荷を?」



 いったい何で? 別にやましい物は入っていないはずだが。

 ふと、振り返るとケンタウロス達がばつの悪そうな顔をしている。おい、何積み込んだ。



「閣下、質問の許可を」

「許可する」

「なんのために荷を調べるのか、目的を聞く権利が俺にもあると思うのですが……」

「……なに、定期的な検問だ。帝国と内通していないか、ここを通る者達全員を――」

「我々が帝国に内通!? そんなバカな!!」



 するとその場に居た誰もが目を見開いて驚いていた。そりゃ、いきなり怒鳴れば誰でも驚く。怒鳴った俺も驚いているのだから。

 いつから俺はこんな瞬間湯沸かし器のようになったんだろう?



「い、いえ。失礼いたしました。しかし我々はこの身を公国のために、そして王国のために捧げてきたのです。幾多の転進支援をし、これからもそれを行うために出陣すると言うのに内通者の疑惑をかけられるとは不快以外の何物でもありません。どうか言葉の撤回を」



 言ってから己が上官反逆罪とか、不敬罪とかで処罰されるんじゃないかと後悔した。

 威勢の良い啖呵を切ったと言うのになんと情けない小胆さ。己の卑しさと今後の処罰について不安になる浅ましさがイヤになる。



「そうか。分かった。貴官を信頼して通す。おい」



 そう准将が声をかけると街道に広がっていた騎士達が道をあける。



「ではこれにて失礼します」

「武運を祈る」



 敬礼を交えてから橇に乗り、再び出発。

 その様子を見ていたミューロンがぽつりと「失礼な人間たち」と隠れて舌を出した。



「コラ。相手は騎士様だぞ」

「でも――」

「たぶん、あの人は結構偉い身分の人だぞ。准将だったし、殿下付きの従者なのだから雲上人って方だろ」

「え? うそ。見られてないよね!?」



 おろおろとする彼女を見ていると思わず吹き出してしまう。それが次々に伝染し、橇の上に笑顔の花が咲いていく。

 これから戦争をしに行くと言う事をみんな忘れているのかもしれない。それくらい穏やかな笑み。

 あぁ。出きれば故郷で――家で暖かい食卓を囲んで笑い合いたかった。こんな寒空の下などでは無く――。



「はぁ。早くお家に返りたいね。サヴィオン人を追い出して」

「あぁ。そうだな。春になれば――」



 勝てるのだろうか。ふと、そう思った。

 アルヌデンの会戦では完膚無きまでに叩きのめされたと言うのに王国はサヴィオンに勝てるのだろうか。

 いや、勝たねばならない。そのために今の内に敵の力を少しでも漸減させねばならない。



「ま、春を前に盗み食いだ。派手にやろう」

「うん! 今回も一杯殺そう(がんばろう)

「そう言やミューロンさん」

「なんですかロートスさん」



 なんやかんや、色々あって忘れていた事があった。



「前回の浸透作戦でお前のカートリッジが異様に無くなっていたよな。なんで?」

「一杯使ったから」

「一杯?」

「一杯」



 それが? と言う顔でキョトンと見つめ返す彼女に言葉が詰まった。

 まさか――。



「こっそり俺の知らない所で撃ちに行っていたのか?」

「あ、やっぱり不味かった?」

「不味いって……。てか定数で百二十発は配っていたはずだが……」



 それを使い切ったと?

 と、言うことはエンフィールド様に報告した以上の戦果を上げている事になるんだが。



「はぁ。一人で行くのは危険だ」

「でも――」

「もし追っ手がかかったらどうする。ま、エルフが森の中で人に負けるなんて考えられないが、万が一がある。ミューロンが付けられて俺達の所に戻ってみろ。全員が危険に襲われるんだぞ」



 どうも、ミューロンはサヴィオン人の事になると視野が狭まってしまうようだ。

 ここで一度、キツく叱っておこう。それにミューロンの事を良しとして他の選抜猟兵(スナイプイェーガー)が単独行動を取るようになるとリスクが増える恐れがある。



「帰ったら罰を与えるからな」

「えー」

「えーじゃ無い」



 不満たらたらのミューロン。だが、締める所を締めなければ中隊は崩壊してしまう。

 ここは心を鬼にしなければ。

 そう思っているとアル=レオ街道の風景がだいぶ変わってきた。

 人の香りが薄くなり、次第に自然の匂いが強くなってきている。

 そろそろ旧街道との交差域にさしかかるのでは無いかと言う時、ケンタウロスが叫んだ。



「くそ、ありゃサヴィオン軍か!?」



 風圧で目が痛い。それでも前方を伺うと白い世界に銀と赤に輝く騎兵達が見えた。

 だが数はそう多くは無さそう……。



「橇を止めろ! 迎撃する!」



 どうせ重い橇を背負ったままでは軽快なサヴィオン騎士にすぐに追いつかれてしまうだろう。なら選択肢など無い。



「戦闘用意! 獲物が勝手に飛び出してくれたぞ。く、フハハ」

「あはは。わざわざ殺されに来てくれたんだ! 歓迎しなくちゃね」



 先ほどと違い、凄惨な笑みが橇の上に広がる。

 あぁ、くそ。まさかこんな形でまみえるとは。ガチガチと悲鳴を上げる顎を寒さのせいだと思い込むようにしながらポーチに手を伸ばす。



「中尉殿! 止まりますよ!」

「頼む。側面を見せるよう曲がってくれ!」



 横腹を見せるように駐車する橇。それが止まるやケンタウロス達が己と橇を結んでいた紐を湾曲した剣で切り裂いていく。



「ケンタウロスは無理に突撃しないように。まず我らが打撃を与える! 突撃は俺の号令の元に行うように」

「了解!」



 いくら精兵のケンタウロスでも多勢に無勢では勝てる訳がない。

 なら少しでも俺達がその数を減らさねばならない。



「つっても射程百五十だから、なぁ」



 油紙製のカートリッジをポーチから引き抜き、噛み千切りながら撃鉄を半分だけ起こす。恐怖を吐き出すように息をつきつつ口に含んだ紙片を噛み捨ててカートリッジから火皿に少量乗せて当たり金を下ろし、残りを銃口から流し込む。



「各自、壁に銃を乗せて安定させろ。射撃は準備出来た者から各個に二射行え。それ以後は待機」



 ゴクリと生唾が喉に落ちていく音が聞こえるのと迫り来る馬脚の音が鼓膜を打つ。

 狭い馬車で込め矢(カルカ)を操作する難儀さに歯噛みしながら素早くそれを元の位置に収納。銃口を敵に向け、撃鉄を起こす。



「待て! 射撃待て」



 まだ距離がある。三百五十以上か? 敵がそこで止まって陣形変更していやがる。

 数は……。十人ほどか?



「各自、撃ち方待て!」



 はぁ、くそ。正面から来る騎兵を迎え撃つだと? なんでバカバカしい事だ。

 蹂躙されてお終いじゃないか。

 そもそも確か馬って時速四十キロほどで駆けるんだろ?

 って事はあれか? 斉射して次弾を撃つまでに俺達が持てる時間は十五秒くらいしか無いんじゃね?

 いや、無理だろ。いくら訓練を積んでいるとは言えそんな早く撃てないぞ。



「ケンタウロスも含め総員に作戦の変更を告げる。選抜猟兵(スナイプイェーガー)は敵との距離が射程に入り次第各個に射撃。その後、ケンタウロスは突撃。その他の兵員は次弾を装填し、各自の判断で攻撃せよ!」



 それと――。

 急いでゴタゴタとしている荷台を探る。てつはうを使おう。

 あれならエフタル撤退の時に効果があったし、何よりこちらの機動兵力であるケンタウロスは爆音程度では驚きもしない。

 あれを投擲してもらえれば数的不利も――。

 チラリと敵の様子を伺いながら手探りで橇の中を探しているとなにか、暖かくてムニュリとした物を握ってしまった。



「ムニュリ?」



 そんな物積んだか? そう思って視線を手元に送るや、橇の壁にピタリと背を張り付けて小さくなっていたイザベラ・エタ・アルツアル様がそこに居られた。



「――。え?」



 荷物の間に縮こまり、恨みがましい鋼色の瞳が俺を見ている。

 もう一度、手の中の感触を確かめてから「殿下?」と声をかける。



「何故、ここに?」



 本当に殿下なのか? 恐怖のあまりに見た幻影では無いか?

 さらに一度、大振りな桃を思わせるそれを握る。うん柔らかい。てか指が沈みそう。



「何度、予の胸をもむつもりだ」

「し、失礼いたしまし――いや、そんな事より――」

「そんな事ではあるまい。痴れ者」



 ぐぅ正論。

 だがたわわな果実を手放さねばならないと言うのか? 最後に一度だけでも――。



「ちょっとロートス何してるの!? 大変なんだよ! 早く指揮を!」

「ミューロン待ってくれ。今大変なんだ」

「予の貞操の方が大変になりそうなのだが」



 その声にやっと振り向いたミューロンが二度見してきた。

 いや、そりゃ橇の中に殿下が居ればそうなるよな。



「な、なんでおっぱい握ってるの!?」

「いや、深い意味は無いのだが――」

「無いのに予の胸をもむか」

「敵に動きあり!」

「おい、突撃はいつするんだ?」

「うわ! この人誰!?」



 声と言う声が入り乱れ、橇に混乱が広まる。攻撃されていないのに統制が無茶苦茶だよ!



「えぇい! 黙れ! 選抜猟兵(スナイプイェーガー)構え! 外すなよ!

 ケンタウロスはこれを、えと、あった! てつはうだ。俺達の射撃の後に突撃し、火魔法でこれに着火して投げろ。

 殿下は……。殿下は我々の後ろで伏せていてください」



 すでに敵との距離が二百を切る。

 それと同時に大きく息を吸い、吐き出し、止める。

 銃身を橇の壁に預けて安定させ、迫り来る騎士の胸元を狙い――。

 引き金を絞る。

 肩を蹴飛ばすような衝撃と共に白煙が視界を覆う。後はケンタウロスの仕事だ。



「ケンタウロス隊、突撃にぃ進めェ!」



 白の世界に吸い込まれそうになる声を振り絞り、命じれば小気味良い馬脚が響く。



「我らに風と土の神様の加護を!」



 己が一族の神に祈りを捧げながらケンタウロスが駆けていく。

 そして視界を制していた白煙が薄れ、迫り来る敵の姿をありありと見せてくれた。

 すでに最高速度となっている敵騎兵の赤と白銀の姿がありありと浮かび上がる。あーくそ。怖い怖い怖い。あぁかみさま!



「総員伏せろ!」



 とは言え、指揮官が真っ先に頭を下げる訳にはいかない。

 押し寄せる恐怖に抵抗しつつ戦場を見やれば敵の数は七人ほど。対して立ち向かうケンタウロスは四人。

 そのケンタウロスはてつはうを手に握るものの、それを投擲するのではなく(そもそも投擲しても自身も巻き込まれそうなほど接近している)湾曲した民族剣を高らかに掲げて接敵する。

 すると鉄と鉄がぶつかる重い音と共に悲鳴が立ち上った。



「ぐあああ」



 その叫びは騎士のものか、それともケンタウロスのものか判別がつかない。

 互いに高速で、それも百キロを越す重量がぶつかり合い、瞬く間に混沌が広がる――かに見えたが、騎士達はケンタウロスにかまう事無く一太刀交えるやそのままこちらに迫ってきた。

 もう騎士の白目さえ見える距離。その距離に近づくや騎士の一人が曲刀を振り下ろして来た。それに反射的に頭を下げれば頭上で擦過音が響くと共に軍帽が頭から離れる感覚がした。

 紙一重で避け垂れたか!? だが軍帽が――。



「くそッ!?」



 反射で頭を押さえ、腰からハミッシュが鍛えてくれたばかりの小刀を抜く。

 ってこんなリーチの短い武器で機動中の騎士とやり合えるか!



「おい、てつはうを用意しろ。次の攻撃が来たら投擲する。ミューロンとモーネイ伍長は銃を装填しろ」



 慌てて頭を出しながら命令を伝えると陣形を作り直す敵騎兵が良く見えた。また距離は三百メートルは離れているか? どうも俺達の事をよく警戒しているようだ。もしくはそれほどの距離を保ことこそ敵の戦術なのか?



「ケンタウロス隊! 損害を報告!」

「くそ、二人やられた!」



 振り返れば無防備な右腕から血を流すケンタウロスがそう叫んだ。もう一人は革鎧で覆われた腹を押さえている。

 他のケンタウロスは――。

 地に倒れ伏しているか。これでこちらの騎兵戦力は半減――いや、負傷者を鑑みるによりもっと低下しているか。どちらにしろまともに戦えそうなのは一人だけ。



「数はどうにもならんか」



 やばい。このままじゃ――。

 その時、集結を開始していた騎士の一人が突然倒れた。それこそ糸の切れた人形のように。

 その違和感に首を捻るとまた新たに人が倒れた。どうも近くの森から矢を放たれているようだ。それ故か、隊列もおろそかにこちらに走り出してくる。

 なんだか知らないが、どうも友軍が居るようだ。まだ勝機が――。



「ぐああ!」



 先ほど右腕から血を流しながらも報告に答えてくれたケンタウロスが倒れた。

 倒れ――。なんで!?


 スカンッ!


 そんな気持ちよい音と共に眼前の壁に矢が突き刺さった。矢!?



「ロートス! 森から攻撃を受けてるよ!」

「森!?」



 目を凝らせばいつの間にか森の際に何十人か、人影が見える。



「やめろ! 俺達はエフタル公国――」



 立ち上がろうとして頬の脇を矢が通過していった。

 思わず腰が抜けて倒れると、その上をさらに何本かの矢が走っていくのが見えた。

 くそ、友軍じゃ無いのか!? かと言ってサヴィオンの友軍でも無いようだし……。

 まさか野盗と化した敗残兵?



「どうするの!?」

「くそ、ここに居てもどうしようもない。てつはうを投げて目くらましにして逃げるぞ」

「逃げるたって、どこに!?」

「確か、旧街道に砦があったろ? ほら、俺達が破壊した」



 とにかくあそこに逃げ込もう。

 まったく、どうしてこうなっちまったんだ――!


姫様登場!

一国の姫が前線にくるなんて! と申されてもストーリーの関係なのであしからず(予防線と言う名の言い訳)



それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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