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戦火のロートス~転生、そして異世界へ~  作者: べりや
第二章 アルヌデン会戦
39/163

激闘【ライル・ド・アルヌデン】【ロートス】

挿絵(By みてみん)

判例。

アル騎:アルヌデン騎士団

エタ騎:エフタル騎士団



アルヌデン辺境伯より。


「撃て!」



 馬上射撃を一閃。揺れる馬上で矢を放つ事の難しさを知るだけあって銃撃の命中率など気に掛けるまでも無かった。

 だがそれでも敵歩兵は壊乱状態になりつつある。



「進め! 進め! この陣を抜ければ後方はガラガラだ! 遅れを取るな!」

「「「応ッ!!」」」



 人で溢れる海に飛び込む。アルツアルと違って方陣を組まぬサヴィオンの歩兵集団に分け入ると言うのは思ったよりも易い事だった。

 逃げ惑う槍兵を背後がから切り付け、前面に展開していた歩兵を蹴散らす。

 すると少し離れた位置に弓兵の集団を見つけた。あれは厄介だ。方陣に守られた弓兵ほど厄介なものは無い。だから処理するのなら方陣を組まれる前にやるしかない。



「弓兵だ! 行くぞ!」



 行き掛けの駄賃だ。その命、もらい受けよう。

 愛馬を操り、逃げようとする弓兵の間に入り込むと一人の弓兵と視線が交わった。まだ若い人間。人間の歳を推し量るのは難しいが、あの若エルフと同年代くらいの少女。

 平たい皿のような兜の下のオレンジの瞳に涙を溜めながらも矢を(つが)えて己が任務を果たそうとしている。



「はぁ!!」



 気合一閃。矢が弓の力を引き出す前にバスターソードが彼の喉に届いた。

 くぐもった悲鳴と共にその影が倒れ伏す。

 次いでショートソードを持った壮年の歩兵騎士が斬りこんできた。弓兵の危機を察知して駆けつけたか。



「ぬるい!!」



 上段から振るわれたその斬撃を剣の腹で弾き飛ばし、手綱を引く。すると愛馬は命令通り前足を掲げて立ち上がり、雄叫びと共にその足を振り下ろした。その足と地面に挟まれた歩兵騎士は鈍い音と共に地面に縫い付けられて息絶える。

 そして走り出す。

 周囲を見れば馬上から軽々とショートソードを振られ、逃げ惑う壮年の傭兵の首を刎ねられた。またある所では腰を抜かした少年兵に猫耳の女騎士が槍を突き立てていた。

 ただそれだけでは無く勇気を振り絞った子供と見間違う女の子が落ちていた長槍(パイク)を拾い上げてその女騎士の横腹を突き刺す。



「ぐあ!」

「くそ! しっかりしろ!」



 馬の向きを変え、すれ違いざまにその子の首を斬り落とそうと横薙ぎに剣を振るう。だが、目測を誤って剣が女の子の顎に食い込んで止まった。

 声に成らぬ悲鳴。血が溢れ出し、ダラダラと流れ出す子供が断末魔を上げている。くそ、なんて事だ。一撃で仕留められなかった。だからこの子は苦しんでいる。

 こんな罪も無いような子供をわしは斬った。サヴィオンは戦場に出した。くそ、なんて――! くそ!



「お覚悟!!」

「な!?」



 剣を抜こうとして隙が出来た。それは瞬きする間も無いほど小さいものだったが、それでもその小さな隙が致命傷になった。振り向けば左後ろから大剣を掲げた傭兵と思わしき若者が鬼のような形相で迫ってきていた。

 だが、そのさらに背後。親友であり、戦友であるジャンが手斧をその若者の頭に打ち付ける。



「危なかったな」

「すまん、助かった」



 少し熱を入れすぎた。即座に集結の号令をかける。

 だが、集まって来る人数が激減している。二千もの兵で飛び込んだのに見渡せるだけで百も居ない。いや、当たり前か。

 命を落とした者もいるだろうし、未だに戦闘中で手を離せない者もいるだろう。

 それにこれ以上の兵には声が届かないし、この混沌とした戦場で統制などあった物では無い。

 逆に百人集まっただけでも行幸か。



「よし、これより敵本陣を強襲する!」

「良いか! おれ達の手で戦争を終わらしてやろう!!」

「「応ッ!!」」



 声が減っている。

 それでも我々は止まらない。守りたいもののために、それを守り切れなかった者のために――。



「敵将は目前である! 我らアルヌデン騎士団がサヴィオンに引導を渡してくれる!

 攻撃目標、丘上の敵本陣! 突撃ぃ! 進め!!」

「万歳! アルヌデン万歳!!」「勝利を! アルツアルに勝利を!!」「万歳! 万歳!!」



 悲壮は無く、敵歩兵を蹴ちらした浮かれもなく、ただ静かに胸の内が熱く燃える。

 守りたい――。

 その一心に付き動かされ、愛馬を駆る。それも共に戦場を駆けてきた友とともに。

 立ちはだかる敵を倒し、敵の戦列抜け、丘に踏み込む。

 愛馬が苦しげに嘶く。すまない。だが、あと少しだけ付き合ってくれ。あと少し――。



「左翼より新手! 羽付きだ!」



 羽付き――。

 エフタルからもたらされた敵情にあった精強な騎兵集団。左翼を見やれば長槍(パイク)兵の持つ槍よりも長大な槍を抱えた華美な騎兵達が襲歩(ギャロップ)で迫って来る。

 こんな所で追いつかれてたまるか!



「かまわん! 目指すは大将首、一つ! 続けぇ!」



 そうだ。大将首さえ手に入れられれば良い。

 だが、これまでの激戦に馬達が悲鳴をあげているし、なにより上り坂。キツイ……。

 このままでは体力の差から羽付き騎兵に追いつかれる――。



「ライル!」

「なんだジャン!? 無駄口をたたく暇は――」

「世話になった」



 思わず振り向く。

 馬半分ほど後方を走っていた友を見やればその顔に寂しそうな色が浮かんでいた。



「……何を言っている? さぁ共に行こう!」

「ライル、リラ様を悲しませるなよ」



 そう言うや彼は突撃の波から外れ、新手に向かって馬首を向ける。



「ジャン! ジャアアアンッ!!」



 同じ村で生まれ、共に育ち、共に奪われた親友。

 そして共にあの傭兵に拾われ、剣を習い、馬を習い、戦を習った戦友。

 彼は分かっていたのだ。この一戦を勝利に導ければ全てが守られると。そのために命を投げ出してでもやるべき事があると――。



「地獄で待ってるぜ! ゆっくり来るんだな!!」



 その声を最後に彼は迫り来る羽付きに向かっていく。それを見た数人の騎士も続いていく。



「グランド! バルミィ! シレーヌ!! 行くな! みんな行くな!!」



 なんと言うことだ。

 視界がぼやける。喉が張り付く。

 あぁなんとバカな奴らなんだ。

 行かなくては。奴らに報いるためにも。みんなが託してくれた命をなげうってでも守りたいもののために――。



「うおおお!!」



 ようやく敵の天幕が見えてきた。あと五百メートルか?

 あと少し、あと――。



「待たれよ!!」



 まだ幼さの残る声が高らかに響く。

 赤い髪に灼熱色の瞳。ミスリル製と思わしき白銀の鎧に赤色のマント。

 まさか――。



「東方辺境戦姫!?」



 帝国東方をたいらげ、エフタル北方攻略にも参加した帝国の第二帝姫。

 ジャンはどうした? グランドは? バルミィやシレーヌは?

 彼らがくれた時間は――?



「いかにも余こそ戦姫、アイネ・デル・サヴィオンなり!

 だが、失敗したな。早とちりしてしもうた」



 急に語り出す敵将を視界に留めながら振り返る。

 そこには続いてきてくれていた戦友と入り交じる羽付き騎士の姿だった。戦況は、色目を使っても不利。



「余がラーガンドルフから受けた報せでは『エルフの指揮官に率いられた謎の魔法使い集団』と言われたのでな。勘違いした。

 まさかあの魔法を使う者が――それもエルフが他にも居るとは思わなんだ」

「高い勉強料になったようですな」



 乾ききった喉から声を絞り出す。

 なんとしても、なんとしても敵の本陣に駆け込めればまだ勝機はある。そう、諦めてはならない。諦めなければまだあらがいようもある。



「まったくだ。まったく高くついた。これほど怒りを覚えるとはな! あのエルフ共を根絶やしにしてやれると心躍ったのに肝心の敵がこれほど雑兵だとは思わなかった」

「まさかジャン達が――!?」

「あの突っ込んできたバカか。何のためにやってきたのか分からぬが、フン。舐められたものだ。有翼重騎士団(われわれ)に真っ向から攻めてくるとはな」



 怒りが燃える。己が命を捧げていったジャン達を侮辱する小娘め――!



「さぁ勝敗もついた。素直に馬を降りられよ。まぁ助命は出来ぬ。サヴィオンは亜人の捕虜を取らぬからな。余が介錯してやろう」

「うるさい! 押し通る!」

「く、フハハ!! それでも諦めぬか!! 気に入った! 殺してやる!!」



 相手はサヴィオン第二帝姫。相手にとって不足なし。

 先手を取るためにバスターソードの刀身を肩に乗せ、距離を積めていく。

 それに合わせるように戦姫も距離をつめながら緩く反りの入った片刃の剣を抜いた。東方の騎馬民族が好んで使う民族刀――確かサーベルと言ったか。



「く、フハハ!! 行くぞ」



 距離を見計らう。刀身はバスターソードの方が長い。

 気合い一閃。薙払うように上段から金の髪へと剣を振るう。今日まで鍛えてきた腕と剣自身の重量を乗せた一撃。

 しかしその渾身の斬撃は軽々と受け流された。

 刃筋を読まれた――!?

 戦姫はサーベルの腹で一撃を交わし、ほくそ笑んだ。



「重いが、それだけだな」

「なんの!!」



 振り落とした一撃を反転。狙いはサーベルを握る右拳。

 重い剣を引き上げ、その切っ先が柄を守るように作られた護拳を掠る。く、浅い!?

 バスターソードが勢いついで跳ね上がる中、戦姫がその隙を見逃す事無く動いた。

 湾曲した刀身が唸りをあげて左上から袈裟掛けにわしを斬ろうと迫ってくる間になんとかバスターソードを滑り込ませてガード。

 すると細身のサーベルがイヤな音を立てて欠けた。



「丈夫な剣だな! 欲しいとは思わぬが」

「欲しいと言われても譲りはしませんぞ」

「かまわぬさ! それよりも余は貴様の首が欲しい!!」



 湾曲した剣を引き抜くやさらに追撃を加えようと迫ってくる。

 あれは厄介だ。湾曲してる分、直剣のバスターソードより斬撃に特化していると見るべきか。

 だが――。



「うおおお!!」



 愛馬を信じ、手綱を放して両手で柄を握りしめて上段に振りかぶる。狙いはその頭蓋。二撃の事など考えず、ただ一振りに全てを託す。

 その行いに初めて驚愕の色を浮かべた東方辺境戦姫はたまらんと言うようにサーベルでその一撃を受け止めた。



「くぅ」



 その拍子に細身のサーベルは折れ、手からこぼれていった。

 だがそれまで。頭を狙った一撃ではあったが、サーベルが折れる寸前に軌道をそらされ、その美しい顔にうっすらと一筋の切り傷を与えただけで滑り落ちる。あと少し、紙一重だったのに。

 だが、相手には得物が無い。もら――。



「【永遠に燃え続ける柴よ、天の声と共に啓示を伝える赤色の光よ】」



 素早く唱えられる魔法式(ことば)。それと共に戦姫は鞍の右側に取り付けられていた鞘から短杖を引き抜いてこちらに向けた。

 魔法――。



「【行く手を指し示す声よ、我に力を貸し与え給え】」



 原初の言葉と共に魔素が熱を帯び、杖の先端に赤く輝く魔法陣が出現する。

 なんて強力な言葉。なんて強力な魔法。防げない。

 あぁすまない。皆、すまない。わしがここまで深追いしなければ――。

 ジャン、お前達の犠牲に報いられなくてすまない。本当にすまない。

 そしてリラ。リーネ。

 あぁ、あぁリラ……。



「【炎よ(イグニス)】!!」


 ◇


「ロートス少尉はおるか」



 その声に視線を向ければ黒鎧をまとった騎士が騎乗してやってきていた。

 美の神の寵愛を一身に受けて作り上げられたかのようなエンフィールド様が緊張に滲んだ顔をしている。



「どうされました?」

「戦況は見れば分かるな」

「はい、わかります」



 サヴィオンの魔法攻撃に触発されてエフタル義勇旅団の騎士達が前進し、敵と混戦を始めた所にアルヌデン騎士団が突入にした。

 今のところ流れは良いと思う。



「イヤな予感がする。中隊長」



 俺の隣で戦況を俯瞰していたハカガ中尉が姿勢を正す。

 几帳面さを表すように敬礼して「はい!」と答えた。



「これより我が大隊は前進を始める」

「し、しかし我々は総予備なのでは!? 命令に反します!」

「前線兵力が低下しているのを見ていなかったのか? 低下した戦力を増強するのが予備隊の仕事では無いのか? それに命令に反していないかどうかは指揮官(わたし)が判断し、その責を指揮官(わたし)が負う。どうか?」

「ですが――」

「それとも臆したか?」

「な、なにを!? そのような事はありません!」

「よろしい。ならば前進したまえ。騎兵がいない方陣と言うのも心許ない。

 第二野戦猟兵(フェルトイェーガー)中隊はエフタル義勇旅団第二連隊の前面に展開、敵の浸透を阻止せよ。出発可能か?」



 それに俺が「可能です」とハカガ中尉に代わって答える。

 そう言えば今まではゲリラ戦だったり、てつはうを投げ飛ばして敵に混乱を与えるだけで会戦と言うのは初めてだ。

 あの盗賊達との戦いを除けばだが。いや、あれは攻城戦か? ま、どうでも良いか。



「……ロートス少尉、どうした?」

「いえ、なに……。楽しくなってきたな、と思いまして」



 体が震える。芯からこみ上げてくる恐怖に体が止まらない。陽気はまあまあと言うのに冷たい汗が止めどなく流れていく。怖い。怖い、怖い。

 チラリと言葉の無いエンフィールド様を見やると絶句しているようだった。何か、まずい事でも言ったか?



「そ、そうか。わかった。では大隊、我に続け! 前へ、進め!」



 即座に号令と復唱が反復され、エンフィールド様率いる一個大隊が丘を折り始めた。

 総兵力およそ五百のちっぽけな大隊は大まかに三つに分かれる。


 一つはエンフィールド様直卒の第一中隊。

 一つは野戦猟兵(フェルトイェーガー)中隊。

 一つは傭兵とエンフィールド騎士団の歩兵隊を組み合わせた長槍(パイク)兵と弓兵の集団。


 その三つの集団はそれぞれ前、中、後の順番で布陣していく。

 後衛部隊がエフタル第二連隊と合流を果たした頃に一騎の伝令がやってきた。旗は無いが、鎧の装飾からしてエフタルの騎士のようだ。



「伝令! 第一連隊第一騎士大隊より伝令! 第二連隊のエンフィールド殿とお見受けする! ちょうど良かった! 予備隊に伝令である」

「受けましょう。して、内容は?」

「敵有翼重騎士前進中。突出した友軍騎士の退路を絶つものと思われる。我が大隊は戦力疲弊して敵の突撃阻止は不可能。予備隊は可能な限り友軍の退却を支援されたし。なお突出部隊はアルヌデン騎士団なり。以上!」

「まさかそんな!?」



 有翼――あの騎士団だ。エフタルを、故郷を焼き払ったあいつらだ。

 あいつ等が戦場に出てきている。父上を殺し、皆を殺したあいつらが出てきている……!



「意見具申! 友軍救出に我が中隊をお供させてください!」

「少尉控えろ! 大隊長殿に無礼であろう」



 うるさいぞハカガ!

 だが、すぐにエンフィールド様が「ロートス少尉」と諭すように言った。



「歩兵と共に行軍していては救援が間に合わなくなる。連れてはいけない。

 第二中隊は先の命令通りこの地に止まり、敵の浸透を阻止せよ。また、それに加えて前進中の部隊の撤退援護も行うように。後退は中隊長の裁量に任す。質問は?

 ……無いな。では私は行く。第一中隊、我に続け!」



 エンフィールド様は黒い兜を被ると目にも留まらぬ早さで駆けだした。



「くそ……」



 心が晴れないのは恐怖のせい? それとも――?


あんまりフサリアが活躍させられなくて申し訳ありません。

早くフサリア無双書きたいです(なお主人公サイドは死ぬ)。



それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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