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戦火のロートス~転生、そして異世界へ~  作者: べりや
第二章 アルヌデン会戦
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盗賊退治

 練兵場に三列横隊を組んだ銃兵達がズラリと並んでいた。

 その誰もが火縄銃――火縄銃(アルケビュース)を肩に担ぎ、Y字状の杖を持って表情を堅くしている。そんな彼らに「第一分隊、構え」の号令をかける。

 すると最前列に並んでいた兵士達が杖を地面に刺し、その上に十キロもあるアルケビュースを置く。

 これこそ重量のある火縄銃(アルケビュース)を簡単に扱うためのお助けアイテムである叉杖(さじょう)だ。

 そもそもドワーフやオーク以外の種族が火縄銃(アルケビュース)を構えた上で狙うなんて不可能なのでその重量を杖で支えてもらおうと言うアイディアである。

 銃身を叉杖に預け、兵士達は火挟みに火縄をセットして火蓋が切られた。



「狙え!」



 百メートル先に設置された的に銃口の先端と銃身中程に設置された照準儀を合わせる。的の大きさは縦百六十センチ、横五十センチの縦長のそれ。人の大きさに切り取られた薄板を食い入るように見つめる銃兵達。



「撃て」



 一斉に銃声が響き、白煙が視界を覆う。

 そして間髪入れずに二列目と三列目が前進して一列目を追い越して止まる。



「構え!」



 後は繰り返し。

 逆三段撃ちとでも言うべきか、それとも漸進斉射戦術と呼ぶべきか。

 銃の弱点である装填時間をカバーするために編み出された戦術を取り入れたが、具合が良い。


 連続した射撃を実施する事で敵にプレッシャーを与えられるし、密集隊形を取れない現状、火力を底上げするにはもってこいの戦術だ。

 だが、問題もある。



「おい、第一分隊! 装填遅いぞ! 何をしている!!」



 銃兵一個小隊を分隊毎に分けて三列の横隊を組んでいるのだが、最初に射撃をした分隊の装填が終わらないのだ。

 撃つのは一瞬、装填一分。話にならない。



「装填にそんな時間を使うな。一分間に三発撃つ気でやれと言ってるだろ!」



 装填が間に合わなければ弾幕に切れ目が出来てしまう。それじゃこの戦術の意味が無い。

 こんなんではサヴィオンの連中に殺してくれと言っているようなものだ。



「急げ!! 命がかかってるんだぞ! 貴様らの戦意はそんなものか!? エフタル魂見せてみろ!」



 精神論甚だしいが、これも蔑ろにするのはどうかと思う。べ、べつに前世で精神論を振りかざす上司の因習を部下にも味あわせてやるって陰湿な思いは無いぞ。

 ただ、心意気くらい強く持っていてほしいと言う奴だから。



「ダメだ! 貴様らが火縄銃(アルケビュース)を使うのは早かったようだな。先任曹長にきつく言って置く」



 その言葉を聞いた途端、悲壮や増悪の瞳が俺を射抜く。

 ザルシュさんはどうやら先任曹長としての任務を着実に果たしてくれているようだ。安心する。


 そして二周で射撃を終えた的を確認しに行く。それぞれボツボツと穴があいているが、上から下まで着弾がバラバラ。集弾と言う言葉が存在しているのか疑いたくなるレベルで酷い事に成っている。もっとも火縄銃(アルケビュース)で百メートル先を狙い撃てとは言わない。なんたって当たらないんだから。

 それに板に食い込んで止まっている弾丸まである。どうも弾丸が飛翔中に運動エネルギーが尽きてしまうようだ。

 これはたぶん、弾丸のせいだ。椎の実型の弾丸を使っているせいで変な回転が加わって空気抵抗をもろに受けて大暴投となったり、空気がクッションとなって弾丸の威力も落ちているに違いない。

 そもそも椎の実型の弾丸は俺の使う銃のようにライフリングが刻まれてこそ真価を発揮する。

 こうなりゃ弾丸の形状を円形の物にしちまおうか。そっちの方が装填がし易そうだし。


 取りあえず道具の方面はハミッシュと要相談。

 まずは訓練の総評をしてしまおう。



「軍曹。射撃速度が遅い。的を片づけた後は罰として体力錬成に当たるように。午後は全隊教練に移る」

「了解しました」



 小隊を事実上取り締まっているエルフの軍曹にさらに細かい指示を与えてから俺は中隊本部を目指した。



「……この調子じゃダメだな」



 弾丸の形状も問題があるが、それを差し引いても装填の動作がゆっくりすぎる点に目が行く。

 そもそも半数以上を戦闘経験の無い民衆が占める野戦猟兵(フェルトイェーガー)中隊でどこまで戦えるか……。実戦経験を積ませなければならない。

 とは言え、単独でエフタルに乗り込んでサヴィオンの連中とやりあう気はない。そんな蛮行をして生きて帰れるほどサヴィオンは甘くないだろう。



「ま、しょうがないか。ザルシュさんと訓練計画を練り直そう」



 備えられるだけ備える。それしか道はない。

 エンフィールド様の話によるとエフタル、アルツアル共に攻勢は来年の早春ほどと考えているとの事だった。アルツアルの冬がどれほどものかは分からないが、冬の間にやれるだけやっておかねばと考えていると中隊本部にたどり着いていた。



「あ、中隊長殿! 良いところに!」



 その本部から一人の兵がでてきた。どうやら俺を捜していたようだ。



「なんだ?」

「エンフィールド閣下がお待ちです」



 エンフィールド様が? そもそもなんであの人が中隊本部に出向いているんだ? 俺に用があるなら大隊本部に呼び出せば――。

 いや、わざわざやってきたって事は厄介事を押しつけるためか?



「分かった。すぐ行こう」



 百万の呪詛を瞬時に心の中で唱えながら天幕をくぐると相変わらず憎いほどの美麗な騎士が待っていた。



「遅くなりました」

「いや、突然押し掛けてきてしまって申し訳ない。練兵の調子は?」

「まずまずです。問題もありますが」

「実戦に差し支えあるほどか? あのオークとか」



 言葉に窮する。オーク小隊が中隊で浮いた存在になりつつあるのは知っているし、それを解消すべく働いているのだが上手くいっていない。

 中には生理的にオークを嫌っている連中もいて一筋縄ではいかないのだ。



「戦力として見るならオークの連中は大丈夫です。胆力もありますし、命令には従順です。ただ、周りが……」

「だろうな。だが、なんとかして欲しい。それと今、必要な物は?」

「……まず厄介事を話してからにして下さい。それによって必要な物を申し上げます」



 早速諦めの境地。

 許可も取らずに本部に置かれた椅子に腰掛けつつエンフィールド様を睨みつけると彼は申し訳なさそうに言った。



「盗賊退治だ。これが命令書」



 懐から出した一枚の羊皮紙を受け取って目を通す。

 そこには旧街道と言う寂れた場所にある古砦を盗賊が根城としているらしく、討伐するよう書かれていた。



「なんでまた……。学がある訳じゃありませんが、こう言うのはアルツアル側――そこを領地としている貴族様のお仕事では無いのですか?」

「無論、その事で任務を与えられたアルヌデン辺境伯中将には抗議を入れた。

 だが、アルヌデン中将は野戦猟兵(フェルトイェーガー)中隊の実力を見たいらしい」



 またなんとも雲上人から注目されたものだ。そういや、砲撃やら銃撃やらの騒音でたびたびアルヌデン騎士団の世話になっているせいもあるのだろうか。



「そして、これも預かってきた」



 再び懐から出された羊皮紙を渡される。そこには盗賊討伐で戦果を上げた場合、アルヌデン騎士団は火縄銃(アルケビュース)等を正式に買い入れたいと書かれていた。



「デモンストレーションをしろと?」

「そう言うことだ。相手は五、六十人の無法者。砦も元はアルヌデン領の物では無く、お家おとり潰しになった貴族の物で、主街道が整備されてからは守備兵の配置も整備も行われずにただ朽ちるのを待っている状態と言う」



 廃墟と化した古物件が悪者のたまり場になる――どこの世界も通じる法則を見つけたようだ。

 話を聞く分にどうもその古砦は主街道の整備で戦略上の要地では無くなったため破壊しても良いと言う風に聞こえる。



「で、盗賊はどうすれば? 捕虜にします?」

「いや、盗賊は皆殺しで構わない。そもそも盗賊行為自体が死罪の対象だからな。首を切って持って帰ってくるか、鼻や耳を剃って来てくれ。死体は焼却してくれると助かる」



 うわ。さすが中世然とした世界なだけある。残酷だなぁ。



「で、受けてくれるか?」

「それ以外に選択肢が無いじゃないですか。あぁそうだ。先の話に戻りましょう。必要な物ですね? それじゃ馬を用意してください。十頭ばかり」

「……他は?」

「遠征に必要な糧食と水、あと火薬や弾丸の予備。軍服の支給の無い者へ追加の軍衣を。それに雨が降った際困るので一個小隊分の油布があると助かります」

「やはり金食い虫だな。希望には沿いたいが馬は厳しいぞ。サヴィオンへの春期攻勢に備えて買い求める連中が多くて品薄になっている」

「では火薬や弾薬等は自前でそろえるので馬だけは――」

「うーん……」

「分かりました。軍服と油布は諦めます。ですがせめて馬八頭と糧食をお願いします」

「……よし分かった。用意しよう」



 やったぜ。

 そもそも馬は砲一門を牽引するのに二頭必要で、大砲が二門あるから四頭と砲弾や装薬を運搬するために二頭――計六頭居れば十分なのだが、うまくふっかけられた。

 ブラック会社で身につけられた交渉術がまさか異世界で使えるとはまったく思っていなかったが、無駄な事は世の中あんまり無いのかもしれない。

 まぁ俺、営業部じゃ無かったけど。くそ、開発部に居たはずがなんで営業部の仕事もしてたんだ俺は。



「ロートス少尉? 大丈夫か? 顔がひきつってるぞ」

「いえ、大丈夫です。戦の前はいつもこうなんで」



 不敵に笑っているとでも思われたのか、エンフィールド様は「頼もしいな」と言いながら出立の日時を話し合い、去って行った。

 さて、実戦か。まさかこんなタイミングでやれるとは思って居なかった。

 どうなるやら、楽しみだな。思わず口角が無理矢理引き上げられる。



 攻撃目標となっている廃砦はアルヌデンの街からアル=レオ街道を一日下った近くにある旧街道沿いにあった。その砦の名は伝わっていないが、どうもアルヌデン辺境伯と領地を接していた貴族様がある時、王国に反旗を翻したのだと言う。だが叛乱は失敗し、お家お取り潰しとなってその領地と砦を接収した。

 砦自体はその叛乱貴族とアルヌデン辺境伯領の領境の関所として機能していた事もあり、この併合によってその存在意義が揺らいだ上、アル=レオ街道敷設によって完全に戦略上の必要性が失せてしまい、整備される事無く放置されていたようだ。


 そんな物件に着目したのが騎士崩れの盗賊共と言う。盗賊達は砦を拠点に街道で殺人、窃盗、誘拐等の悪行三昧。ついに騎士団が動くレベルまで陳情が集まった時、ちょうど目立つ部隊が出て来た。それが俺達野戦猟兵(フェルトイェーガー)中隊と言うお話。



「……あれがその砦か」



 森の中に身を潜めてひっそりとした旧街道の先を伺うと丘を使って築城された砦がよく見えた。高所を抑えている所を見るに戦略的な要素を満たした好立地な物件と言えるものの、全体的にちゃっちい。

 最初、石造りの堅固な砦を想像していたのだが、丘に建つのは木造二階建ての崩れそうな建物を中心に物見櫓が四つだけの非常にシンプルな砦だった。まぁ侵入者対策としてか二メートルほどの木の柵で覆われているのがせめて軍事拠点らしさを醸し出している。



「あれくらいなら余裕じゃろ」



 将校斥候にくっついて来たハミッシュ軍曹の意見通り、攻城兵器さえあればすぐに落城させられるくらいみすぼらしい砦と言える。

 きっと軍と軍がぶつかり合うような攻城戦は想定されず、通行人を監視するための砦なのだろう。通行人は攻城兵器を持たないからな。



「物見台が……。見えるだけで四つか?」

「そこまで見えないのじゃ。そもそも砦までまだ五百メートル以上あるじゃろ」



 ドワーフの視力ではぼやけて仕方ないのだろう。

 さて、相手は丘の上の城。そこから見下ろすように連なる旧街道はその名に旧がついてもまだ道としての機能を持っている。そのおかげで身を隠すこの森を出てしまうとすぐに砦に居る盗賊連中に気づかれてしまうだろう。

 つまり奇襲は不可能。

 もっとも街道を監視するための砦なのだからそう作られていて当然か。



「正面からやりあうしか無いな」

「良いのう、その作戦。わしは大賛成じゃ。それに道もしっかりしておるし、傾斜も少ない。砲兵陣地の設置も容易そうじゃろう」



 雨が減っている今日この頃、地面も堅く締まって大砲の運用に支障は無さそうだ。



「砲兵陣地設営から砲撃開始までどれくらいかかる?」

「確かな事は言えんが、最大で一時間もあればやれるじゃろ」



 現在、中隊主力を置いて斥候に出て片道三時間くらいだろうか?

 慣れぬ土地をさまよったせいもあるが、多めに見積もってここまでの往復六時間。その上で砲兵陣地の設営に一時間。

 うん。間違いなく夜になるね。

 夜間戦闘の訓練なんかしてないし、練度の低い俺たちでこなせる戦闘では無い。



「よし、明日の夜明けと共に進軍して街道上に砲兵陣地を敷こう」



 兵達を決戦前に休ませる事にもなるし、その方が良いだろう。



「もう偵察は十分じゃろ。帰るか?」

「いや、少し待て」



 今回の出兵を前にしてアルヌデンで買った肩掛け鞄から用箋挟と鉛筆を取り出し、周辺の地形を簡単にスケッチしていく。

 絵にしとけば中隊主力と共にいる士官やザルシュ先任曹長に状況を説明しやすい。



「……なんじゃ。ロートス。手先が器用かと思っておったが、絵心は無いんじゃな」

「うるせー。模写じゃ無いんだ。周辺の地形さえわかりゃこういうのは良いの」



 まぁ、本当は手先が震えて上手く絵を描けないだけなのだが、精一杯の虚勢と営業スマイルでそれを誤魔化す。

 だが、いつまでも誤魔化してはいられないだろう。

 手早く残りを描き上げ、最後に簡単に三角測量の要領で砦までの距離を書き記して地図を作りあげる。

 こんなもんか? 見にくかったら口頭で説明すれば良いだろ。

 そんな投げやりな思いを抱きながらゆっくりと森の奥に後退していく。



「よし、撤収」



 そう声をかけると森に潜んでいた中隊本部直轄の分隊員達が姿を表す。誰もが黒い軍服の上に草や葉を乗せて偽装を施している。

 森歩きに慣れたエルフ主体の分隊とあり、ここまで来るのに苦労はしなかったが、ドワーフのハミッシュだけは苦戦を強いられたようだった。

 あの道を帰るのかぁと顔を訴えている。



「ま、がんばろうぜ」

「だから子供扱いするでない」

「それじゃ、お前は俺を中隊長扱いしろよ。軍曹」

「むぐ」



 敬語を喋り慣れない彼女が早速舌を噛んだようだ。

 笑いを堪えつつ歩を進めると膝の裏を軽く蹴られた。

 まぁ、おかげで明日の戦いを前に膨れ上がっていた緊張と恐怖が多少紛れた。手の震えも、今は止まっている。


感想返信は今夜行います。


さて、次回はお待ちかねの戦闘を予定しております。お楽しみに!



それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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