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戦火のロートス~転生、そして異世界へ~  作者: べりや
第一章 エフタル戦争
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出会い

エフタル全図

挿絵(By みてみん)

赤:サヴィオン帝国軍進軍路

紫:伝令隊進軍路



 敵の迂回部隊を無事に撃退出来たおかげで俺達は森に隠れる必要が無くなった。

 だが、念のため両手を上げて敵意が無いことを示しつつ森を出る。それに応じた騎士団は俺達を友軍と見てくれたのか、彼らも武器を下して俺達を迎えてくれた。

 その騎士団の一人が前に進み出る。黒い全身鎧に身をつつんでおり、フルフェイスタイプの兜をつけているせいで表情は判然としないが、俺達に感謝の念を持っているらしく亜人と侮蔑した態度ではなかった。



「先の攻撃は貴様等のか? かたじけない」

「いえ。あぁ、俺達はスターリング様より公爵様に文章を届けるよう指示された伝令兵です。これを」



 スターリング男爵より渡された書状を差し出して敬礼を行うと眼前の騎士は俺に一瞥してから書状を受け取った。



「確かにスターリング殿の刻印……。貴様、名は?」

「レンフルーシャーのロートスと申します、スターリング様より臨時少尉の官位をいただきました」

「伝令隊の小隊長と言うわけか。色々と聞きたい事はあるが、まずは城内に入ろう。

 我らは一度、付近の索敵を行ってから帰還する故、この書状は貴様がまだ持っていろ。

 それと一騎、伝令として城門の守備隊に伝えろ。エルフは友軍。スターリング殿の書状を預かっている身のため本営に案内するように伝えるのだ」



 その騎士の背後に控えていた騎士が「承りました」と一礼するや、即座に反転していく。



「それではこれにて」

「は、はい。ご武運を」



 そうして騎士達は威風堂々と言う言葉のように駆けていく。

 それを見送って俺達も城門に向かう。

 彼方から聞こえる戦場の音に恐々としながら(それでも平然を装って)城門にたどり着くと、堅く閉ざされたその大門の脇にある小さな門が開いた。



「あんたらか。早く入れ」



 先ほどの騎士様の言葉が通っているらしく、すぐに俺達は入城出来た。

 振り返ると大門には大木をそのまま(かんぬき)にしたようなつっかえ棒が据え付けられ、そう簡単に破れる気配を放っていなかった。



「これが書状です。改めてください」

「ふむ、確かに。おい、一人、こいつらを案内しろ」



 おざなりな検閲だったが、これも先ほどの騎士様のおかげなのだろうか?

 そう思いながらエフタル公都を進んでいく。

 地面は石畳によって整地され、町並も木造の家々が規則正しく並んでいる。さすがに商店などは通常営業しているわけなく、殺気だった街と言う印象。

 そりゃそうか。

 敵がもう攻撃してきてるんだから殺気立ちもするだろう。



「ね、ねぇ。ロートス。あんまりキョロキョロしてると田舎者まるだしだよ」

「それを言うならミューロンも視線が定まってないぞ」



 レンフルーシャーに住む者の多くは都会とスターリングの街が同義に写ってしまう。

 そのため大都会ともいえる公都の規模におのぼりさん全開となるエルフ達。

 とくにミューロンの好奇心に付き動かされる横顔を見ていると、不思議と安堵を覚える。

 そんな俺達を「緊張感の無い奴らめ」と案内役の兵士が悪態をついた。

 だが、エルフ達は物珍しい公都に興味津々でそれを平然と無視してしまった。

 そうして俺達は公都の中心地であるエフタル城に入り廊下を進んでは階段を登り、廊下を進んでは階段を登り――なんて複雑な城なんだ。

 侵入者対策に城内を複雑にしているのだろうが、それにしても複雑だ。

 さっきまで「これがお城なのね」と目を輝かせていたミューロンが代わり映えのない城内のせいで目から光を消している。


 ま、まぁ俺達は観光に来たのでは無いからな。

 そう思っているととある部屋に案内され、ここでしばらく待つよう言われた。



「……ねぇ、何か聞こえない?」



 一緒に来てくれた兵士が消えるや否や、ミューロンが俺の耳に唇をそっと近づけてきた。

 もう俺の耳はミューロンの言う何かではなく彼女の吐息しか拾っていない。



「そうか?」



 甘い息づかいがとがった耳の先をくすぐって気持ち良い。

 ドキドキとしたこの時間を味わいたい気もしたが、「ドン」と何かを叩く音にそんな意識が消えた。

 どうやら隣の部屋で議論が盛り上がっているようだ。



「艦隊が出撃できないだと!? どういう事だ」

「お、恐れながら、先ほど入ってきた報せによりますと帝国高海洋艦隊がオストロット海峡に現れ、エルヴィッヒ二世号以下二隻の戦列艦を自沈させて海峡を封鎖致しました。

 ご承知の通りあの海峡は潮の流れが早く、水深も深くはありません。そこに三隻の軍艦が邪魔で我らが大洋艦隊主力はもとより大型船の出入港は不可能です」

「それでは海路から王国の増援を受け入れられないではないか。

 エルヴィッヒなど廃船間近のロートル戦列艦のせいで栄光ある大洋艦隊主力が足止めされるなどあってはならぬ。早急に対処するのだ!」

「しかし、付近にはまだ高海洋艦隊がうろついています。そんな中での作業は不可能にございます!

 それに軍艦を避けるために小舟を出しても帝国が無言で通してくれるはずもありません。

 海路を使ったドワーフの脱出は不可能です! 作戦の中止命令を――」



 海路を使って……?

 ハミッシュ達ドワーフは公都を目指していたんじゃ――。

 いや、公都をすでに帝国が攻撃しているのだ。より安全な地域であるアルツアル王国まで彼女達を逃そうと言うのであれば海路の方が早いかもしれない。

 だが、その目論見も話を聞いている分には失敗に終わったようだが……。

 そんな会議の話し声に混じって足音が外から響いてきた。

 そちらに視線を向けると騎士の一行がこちらにやってくる所だった。

 その先頭を行く黒鎧の騎士――兜を脱いでいるが、俺達が助けた騎士のようだ。



「あぁ、先ほどのエルフか。待たせてすまなんだ。えと……。レンフルーシャーの……」

「ロートスです」

「そう、ロートス臨時少尉。貴様は私と共にエフタル様に謁見してもらう。

 貴様は答えられる範囲で質問に答えるように。分からないものは分からないでかまわない。

 他のエルフは悪いが、その場で休んでいてくれ。あぁ、ついでにお前等も休んでかまわない」



 彼に付いてきた騎士は肩をすくめておどけて見せた。



「あぁ、名を名乗っていなかったな。私はジョン・フォルスタッフ・エンフィールド。エンフィールド騎士団の団長をしている」

「よ、よろしくお願いします!」



 それってもしかして滅茶苦茶偉い人って事じゃね? 名前も長いし、きっと貴族に違いない。

 確かにこの人は身なりが良い。だが、若い。

 さっきは兜を被っていたせいで歳はおろか顔立ちもよく分からなかったが、めっちゃイケメンだ。

 短く借り上げた茶髪はスポーツマンを連想させるし、細く切れ長の目は薄水色。

 顔面偏差値七十はいってそうな顔立ちに嫉妬を覚える。



「では行こう。失礼いたす!!」



 中からの返事もそこそこに隣室に入るとそこは世界が違っていた。

 高級感ある彫り物がされたテーブル。部屋の各所を彩る金細工……。

 お貴族様の部屋と呼ぶにふさわしいそこに豪奢な鎧を着込んだ面々が殺気を放ちながらテーブルの上の地図を睨んでいた。



「ジョン・エンフィールド、ただいま突出した敵部隊をケチらして参りました」

「よくやってくれた。ふむ。伯爵の位に恥じぬ働き、父上もさぞや喜ぶであろう」



 上座に座るでっぷりとした男が言った。その言葉にエンフィールド様の顔に陰がさすも、すぐにそれを消して「その道中、この者と」と俺の肩を叩いた。

 自己紹介をしろと言う事らしい。



「レンフルーシャーのロートスと申します。この度はスターリング男爵様より伝令の任を受け、公爵様宛の書状を預かっております」



 ハキハキとした言葉にエンフィールド様が面食らっている空気を感じた。

 まぁ、どんなお偉いさんだろうと、心構えさえ作っておけばこんなものさ。

 伊達に八十二社落ちたわけではない。面接ばっちこいだ。まぁ、そんでやっと拾ってもらった会社も超絶黒色だったのだけどね。



「うむ。書状を」



 従者と思わしき人が近寄ってきたので書状を手渡す。

 それが幾人かの手を渡ってやっとでっぷりした男――おそらくエフタル公爵に渡される。

 肉厚な指が乱雑に刻印を破き、その中に視線を走らせる。



「忌々しい……。スターリングめ、レンフルーシャの戦でおめおめと負けただと!? 帝国なんぞに負けて予の兵を失うだと!? 許せぬ! 許せぬぞ!!」



 すさまじい癇癪。呆気にとられて不躾な視線を送ってしまったが、誰もがそれを咎めるより怒りの矛先が自分に向かないよう顔を伏せているせいで注意されなかった。



「生き恥をさらしおって。指揮官なら責を取って腹を切るべきだ!! くそ、くそ。エンフィーロドで負け、レンフルーシャーで負けるだと?

 どいつもこいつも予の家臣は皆、そろいもそろって無能だ!!

 恥を知れ!! 先祖伝来のこの地を汚す帝国に良いように弄ばれよって!! 恥を知るのだ!!」



 自分が怒られた訳でもないだろうが、反射的に身が縮んでしまう。それほど威圧的な声。



「……失礼ながら閣下。その後、スターリング様は?」



 恐る恐るとエンフィールド様が聞くとエフタル様は彼をものすごい形相で睨んだあと再び手紙に視線を戻す。なんか、破っていなかった事に奇跡を感じる。



「スターリングめ。籠城する気のようだ。その上で我らの増援を求めておる」

「しかし、我らに増援を出す余力はありません。

 まずは敵兵団の相手をしなければ」



 参謀と思わしき神経質そうな細身の男が小さい声で言った。

 まぁ、俺やスターリング様にとって公都が帝国の攻撃を受けているとは思っていなかったから増援の要請を出したのだが……。



「閣下。恐れながら申し上げます。

 私の父の奮戦至らず、エンフィールドの失陥はまことに申し訳ございませんでした。

 されど南東の要所エンフィールドがこうも簡単に破れたのは敵の魔法騎士団の力によるものです。

 おそらくレンフルーシャーの戦でもそれを帝国は投入してきたはず、そうでなければ戦上手のスターリング殿が敗れる訳がございません。

 このままではスターリングはエンフィールドの二の舞になってしまうでしょう。この際ですがスターリングを放棄し、戦力をエフタルに集めてアルツアルからの増援を――」

「うるさい! うるさいうるさいうるさい!!

 予に口出しするとは何様だ! 予は由緒正しきエフタルの名を受け継ぐのだぞ。その予に口出しなど無礼極まる行為ではないか!!」



 うわぁ、なんだこいつ。

 部下を侮辱するだけして上申を検討するまでもなく却下って……。

 ますますあの先輩そっくりだだ。まさか俺と同じく転生してるとかだったら嫌だな……。少なくとも俺が転生者である事は絶対に黙ってよう。



「……参謀。もちろん献策があるのだろうな?」

「もちろんにございます」



 細身の参謀は立ち上がるとテーブルの地図に手を伸ばし、そこに乗っていたスターリング周辺の駒を掴むや、全部公都エフタルに置いた。



「全兵力をもってエフタルに籠城するより仕方ありません。エンフィールド殿の策の他、策はございません」

「ぐぬぬ……」



 どうやら各地を帝国に奪われた無能な公爵とは思われたくないらしく、エフタルと言う名の豚は歯ぎしりをして周囲の不快指数をあげていく。

 まじで同情を禁じ得ない。



「よし、その策を採用してやる。スターリングを公都に撤退――いや、転進、そう転進させるのだ!

 奴を転進させ、戦力を公都に集めて一大決戦の準備をせる。そう奴に伝えるのだ。

 参謀、作戦をまとめて伝令にもたせてやれ。

 さて、予は疲れた。後は皆に任せる。良きにはからえ」



 自分は大任を終えたとばかりに満足そうな笑みを浮かべた豚が部屋を出ていく。すると誰からともなくため息がもれた。



「では臨時少尉。少し待っていろ」



 参謀がスターリング様からの書状を読みなおして俺を呼び止めた。

 そして彼は即座に命令書を書き上げると慣れた手つきでそれを封蝋して渡してくれた。



「後の事は、エンフィールド殿。よろしいか?」

「もちろんお受けいたします」

「ではお頼みもうす。では諸侯におかれましては早急に籠城の支度について話し合いましょう」



 そう軍議が再会する中、エンフィールド様は敬礼してテーブルに背を向けた。

 それに続いて俺も敬礼してその場を後にし、みんなの待つ隣室に移動する。



「では、返書を持って明日の夜明けと共に公都を発ってくれ。それまでは自由とする。

 寝床は……。申し訳ないが馬場を使う事になるだろうが、許してほしい」



 城に亜人が滞在すると言うのは許されない行為なのだろうか?

 まぁ、そんな詮索をする気力も先ほどの会議のせいで失われつつあるが……。

 とにかく明日のために英気を養おう。うん。



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